川上未映子さんの「こんなときには、これを読むのよ!」 Vol.2

川上未映子さんの「こんなときには、これを読むのよ!」 Vol.2

第7回 気になる“あの人”のインタビュー
芥川賞や中原中也賞など数々の賞を受賞した川上未映子さんが、独特な世界観のテーマで「こんなときに読みたい本」を推薦します!どんなテーマで、どんな本が登場するのか、新たな本との出会いをお楽しみください!



≪今回のおススメPOINT!≫

こんなにも変わってしまった今だけど、でも変わりようのないものもあるんだってこと、昼下がりに真夜中に、ひとり静かに噛みしめるための本。

 

ドラえもん

ドラえもん

藤子・F・不二雄(著)
出版社:小学館
人は十代の真ん中に聴いていた音楽を一生口ずさむことになる、という話があるけれど、たしかにそうかもしれないと思うことがよくあります。それはたぶん、世界を分節化する言葉の数も増えてようやく少し落ち着く頃で、目と耳に何かの印を残すのにいちばん良い状態の時だから、というような気もするけれど、でも、言葉にならないものにはならないものの良さがあって、十代になるかならないかの、言葉がまだ頼りない時期に触れたもの、浸ったものは、また少し違う残りかたをしていますよね。それはたとえば、ある匂いと空気に触れた時に何もかもが一斉に込みあげてくるあの感覚、何もかもがやってきて何もかもが去っていくようなあの感覚そのもので、わたしにとって『ドラえもん』はまさにそう。母親の記憶のような、家族写真よりも懐かしい絵というか、そんなありかたをしています。

大島弓子にあこがれて お茶をのんで、散歩をして、修羅場をこえて、猫とくらす

大島弓子にあこがれて お茶をのんで、散歩をして、修羅場をこえて、猫とくらす

福田里香、藤本由香里、やまだないと(著)
出版社:ブックマン社
『大島弓子にあこがれて お茶をのんで、散歩をして、修羅場をこえて、猫とくらす』は大島弓子作品への、本当に温かで混じり気のない愛情だけで出来上がった一冊です。それぞれの著者の体験、思い、語りに触れることがそのまま大島弓子作品を読む時にこの胸を訪れるものと繋がっているのをひしひしと感じます。作品に出てくる食べ物を実際に作ってみたり、少女の頃に集めたカードや付録を披露したり、どうしようもなくそこにありつづける愛情の成分をなんとか言葉にしようとするその愛情が、本当に素敵な一冊なのです。

デミアン

デミアン

ヘルマン ヘッセ (著), 実吉 捷郎 (翻訳)
出版社:岩波書店
『デミアン』は、十代の頃、本当に大切だった小説。まるで濃い深緑の森に入り込んで、それでも歩き続けるしかない少年たちのかけがえのない青春を見事に切り取った作品です。デミアンは長いあいだ、わたしの親友であり麒麟児でもあったのです。今でも最後の頁の最後の言葉を思い出して、わたしにもいつかあんな終わりの言葉を紡ぐことができるだろうかと、ため息をついています。


プロフィール

川上未映子
川上未映子
1976年、大阪府生まれ。
2007年、デビュー小説『わたくし率 イン 歯ー、または世界』(講談社)が芥川龍之介賞候補に。早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。
2008年、小説『乳と卵』(文藝春秋)で第138回芥川賞を受賞。
2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』(青土社)で中原中也賞受賞。
小説『ヘヴン』(講談社)で芸術選奨文部科学大臣新人賞、紫式部文学賞受賞。初出演の映画『パンドラの匣』でキネマ旬報新人女優賞を受賞。
著書に『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』(講談社)、『ぜんぶの後に残るもの』(新潮社)、『すべて真夜中の恋人たち』(講談社)など。
1976年、大阪府生まれ。
2007年、デビュー小説『わたくし率 イン 歯ー、または世界』(講談社)が芥川龍之介賞候補に。早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。
2008年、小説『乳と卵』(文藝春秋)で第138回芥川賞を受賞。
2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』(青土社)で中原中也賞受賞。
小説『ヘヴン』(講談社)で芸術選奨文部科学大臣新人賞、紫式部文学賞受賞。初出演の映画『パンドラの匣』でキネマ旬報新人女優賞を受賞。
著書に『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』(講談社)、『ぜんぶの後に残るもの』(新潮社)、『すべて真夜中の恋人たち』(講談社)など。

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