川上未映子さんの「こんなときには、これを読むのよ!」 Vol.5

川上未映子さんの「こんなときには、これを読むのよ!」 Vol.5

第10回 気になる“あの人”のインタビュー
芥川賞や中原中也賞など数々の賞を受賞した川上未映子さんが、独特な世界観のテーマで「こんなときに読みたい本」を推薦します!どんなテーマで、どんな本が登場するのか、新たな本との出会いをお楽しみください!



≪今回のおススメPOINT!≫

大きなページ、大きな絵……出会うたびに絵本って、「あたらしい」と「懐かしい」が胸のなかでおなじになって、手のなかでどんどん大きくなるようなそんな気がするときに読みたい本!

 

子どもが生まれてから、ふたたび絵本が身近な存在になりました。絵本の世界は、バランスといい文字や絵の大きさや登場するものが過剰で、たとえば、わたしが小説にもとめる要素のひとつとして乱れとかうねり、みたいなものがあるのですが、その「読みどころ」だけで成り立っているような気がします。

『たんじょうびのふしぎなてがみ』の大胆な面の構成や色遣いもそうですし、『しろいうさぎとくろいうさぎ』のどこまでも繊細な筆触は、絵本のなかでみるとまた独特の美しさを放って、不思議な「遠さ」を残します。外国の森のなかの『うどんのうーやん』は完璧な大阪弁で書かれた、注文されたうどん屋のうどん、「うーやん」が、なんと到着しだい食べられるであろう自らが出前にゆくという、ちょっとシュールな話です。

とても人気のある一冊ですが、この本の面白いのは、登場人物たちに絵本によく見られる擬人化をしていないところだと思います。うーやんには、目も口も画かれず、どんぶりに入ったうどんそのままのかたちで、注文主の家までの道のりを奮闘します。途中に出会う食べ物たちのかけあいも、さすが大阪弁というだけあって笑ってしまうものばっかりで、子ども向けのかわいい、といった感じではなく、油彩っぽい、わりにリアルな画風なのですが、こうした、従来よしとされている絵本の「よさ」からちょっと外れた「個性」を、子どもたちが見逃さないで大好きになったんだなと思うと、とてもうれしいです。

うどんのうーやん

うどんのうーやん

岡田 よしたか(さく)
出版社:ブロンズ新社

たんじょうびのふしぎなてがみ

たんじょうびのふしぎなてがみ

エリック=カール(さく・え), もり ひさし(やく)
出版社:偕成社

しろいうさぎとくろいうさぎ

しろいうさぎとくろいうさぎ

ガース・ウイリアムズ(ぶん,え), まつおか きょうこ(やく)
出版社:福音館書店


プロフィール

川上未映子
川上未映子
1976年、大阪府生まれ。
2007年、デビュー小説『わたくし率 イン 歯ー、または世界』(講談社)が芥川龍之介賞候補に。早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。
2008年、小説『乳と卵』(文藝春秋)で第138回芥川賞を受賞。
2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』(青土社)で中原中也賞受賞。
小説『ヘヴン』(講談社)で芸術選奨文部科学大臣新人賞、紫式部文学賞受賞。初出演の映画『パンドラの匣』でキネマ旬報新人女優賞を受賞。
著書に『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』(講談社)、『ぜんぶの後に残るもの』(新潮社)、『すべて真夜中の恋人たち』(講談社)など。
1976年、大阪府生まれ。
2007年、デビュー小説『わたくし率 イン 歯ー、または世界』(講談社)が芥川龍之介賞候補に。早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。
2008年、小説『乳と卵』(文藝春秋)で第138回芥川賞を受賞。
2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』(青土社)で中原中也賞受賞。
小説『ヘヴン』(講談社)で芸術選奨文部科学大臣新人賞、紫式部文学賞受賞。初出演の映画『パンドラの匣』でキネマ旬報新人女優賞を受賞。
著書に『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』(講談社)、『ぜんぶの後に残るもの』(新潮社)、『すべて真夜中の恋人たち』(講談社)など。

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