隣地境界線とは、ある土地と隣の土地との境を示す線のことです。
すべて土地の境界が明確になっていれば問題はないのですが、現実には境界がよく分からなくなっている土地が多々あります。
そのため、隣り合った土地の所有者同士で、どこまでがどちらの土地なのかをめぐってトラブルになることがよくあるのです。
また、境界をめぐるルールを知らなかったがために、建築途中の建物の建て直しを命じられたり、場合によっては損害賠償を求められるおそれもあります。
そこで今回は、
- 隣地境界線の内容と具体的なルール
- 隣地境界線の確認方法
- 隣地境界線をめぐるトラブルと解決する方法
などについて、様々な境界トラブルを解決してきたベリーベスト法律事務所の弁護士が解説していきます。
境界トラブルでお悩みの方にこの記事が手助けとなれば幸いです。
1、そもそも隣地境界線とは?
まずは、隣地境界線について、もう少し詳しく確認しておきましょう。
前提として境界にまつわるいくつかの用語の意味をご説明した上で、隣地境界線とよく似た言葉である「敷地境界線」や「道路境界線」との違いについても解説していきます。
(1)隣地にまつわる用語
まず、ご自身の土地の隅の点を「境界点」といいます。土地は、「一筆、二筆・・・」と数えることから「筆界点」(ひっかいてん)と呼んだりもします。
この境界点を示すために設置されたのが「境界標」(きょうかいひょう)です。
境界標は、土地にコンクリート杭を埋め込んだり、塀に金属プレートを設置したりするのが一般的です。
コンクリート杭や金属プレートには、矢印や十字が表示されていて、矢印の先端か十字の中心が境界点になります。
ある境界点と他の境界点を結んだ線を「境界線」といいます。
この境界線という言葉の中に、隣地境界線や敷地境界線、道路境界線などが含まれます。
では、これらはどのように違うのでしょうか。
(2)隣地境界線は土地と土地との境を示す線のこと
隣地境界線とは、冒頭でもご説明したとおり、ある土地と隣の土地との境を示す線のことをいいます。
これは、土地と土地との境にある境界標と他の境界標を結んだ線になりますが、境界標が必ずしもあるとは限りません。
また、通常は隣地境界線の上に塀や垣根や擁壁などが設置されていますが、必ずしも境界線を正しく示している(境界上に設置されている)わけではありませんので注意が必要です。
(3)敷地境界線との違いは
敷地境界線とは、建築物の敷地の外周のことをいいます。
これも、実際の土地に境界そのものが示されているのではありません。
敷地は隣の土地に接している場合と道路に接している場合とがありますので、敷地境界線も道路境界線と隣地境界線に分けられます。つまり、敷地境界線の一種が隣地境界線ということです。
(3)道路境界線とは
道路境界線とは、土地とその土地に接する道路との境界線のことをいいます。
これも、実際の土地に境界線そのものが示されているのではありません。
なお、ここでいう「道路」とは、一般的には、公道すなわち区や市などの行政が所有している道路のことをいいます。
敷地境界線のうち、敷地と道路との境を示す線が道路境界線で、敷地と隣の土地との境を示す線が隣地境界線です。
この3つの関係をわかりやすく表すと、次の図のようになります。
※「道路」は「公道」を意味しています。
2、建物と隣地境界線との距離についてのルール
民法上、建物は境界線から一定の距離を保たなければならないというルールがあります。
以下のルールに違反すると様々なトラブルを招く元となりますので、建物を建築する予定がある方は、十分にご注意ください。
(1)建物を建築する場合には境界から50センチ以上の距離を保つ
建物を建てる場合には、境界線から50センチ以上の距離を保たなければなりません(民法第234条1項)。
これに反して建築しようとする者がいる場合、隣接地の所有者は、その建築を中止させたり、距離を離すようにさせるなどの変更を求めることができます。
ただし、建築開始から1年経過した場合や、建物の完成後は、損害賠償のみを請求することができます(同条2項)。
(2)異なる慣習があるときは50センチ未満でもよい
地域によっては、50センチメートルも離さない慣習があることがあります。
例えば、東京の都市部では、それぞれの敷地面積が狭く、建物が密集している地域があります。
そのような場所では、50センチ未満でもよい「慣習」があることになります。
その場合は、その慣習に従って、50センチ離さなくてもよいことになっています(民法第236条)。
しかし、そのような慣習があるかどうかは必ずしも明確ではないため、解釈の違いによるトラブルが生じる可能性があります。具体的には、自分の住む地域では慣習的に50センチも離す必要はないものと考えて、自分の建物を隣地境界線に接するかたちで建築したが、隣接地の所有者はそのような慣習はないと考えていたケースです。
事前に、隣接地の所有者の意見を聞いておくべきでしょう。
隣接地の所有者と意見が異なってしまった場合には、強引に建築を進める前に、弁護士に相談することをお勧めします。
(3)耐火構造等の条件を満たす場合は50センチ未満でもよい
以上に対して、防火地域または準防火地域内の建築物で、外壁が耐火構造のものである場合には、外壁を境界に接して設けることができるとされています。
このルールは民法上のものではありませんが、建築基準法によって特別に定められたものです(建築基準法第63条)。
防火地域または準防火地域に当たるのは、主に、繁華街などの商業地域です。商業地域では敷地の高度利用が求められる半面、外壁を耐火構造にしていれば、万が一の火災の際にも延焼が防げるからです。
(4)窓や縁側は境界から1メートル以上離すか目隠しを付ける
窓や縁側は、プライバシー保護のため、境界から1メートル以上離すか、目隠しを付ける義務があります(民法第235条)。
なお、目隠しを付ける義務がある場合は、隣接地を「見通せる」場合に限ります。
例えば、境界から1メートル以内の窓でも、窓からは隣接地の建物の裏面しか見通せない場合には、目隠しの設置義務がありません。
また、自分の建物に設置する窓が天窓(トップライト)や開閉できない曇りガラスの窓の場合、そもそも隣接地を見ることができないので、目隠しを付ける必要がありません。
配信: LEGAL MALL