低温調理の温度と時間はどう決める?食中毒リスクを最小限にするためのテクニックを管理栄養士が解説!

低温調理の温度と時間はどう決める?食中毒リスクを最小限にするためのテクニックを管理栄養士が解説!

肉の低温調理に適した温度は?

食中毒を引き起こさないためには、「75℃で1分間以上」と同じレベルで加熱することがポイントです。低温調理をするときは、いったいどのくらいの温度で加熱すればよいのでしょうか?

食中毒菌を増やさないために、食材が55℃以上となるよう加熱する

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食中毒の原因の1つとして、「ウェルシュ菌」が知られています。おもに肉や魚を使った煮込み料理が原因で感染し、100℃で加熱しても完全に死滅しないほど熱に強い細菌です。

ウェルシュ菌は少量であれば問題ないのですが、多量に口にすると食中毒を引き起こすおそれがあるため、増やさない工夫が重要。そこで低温調理では、ほとんどの食中毒菌が死滅し、ウェルシュ菌が増えにくい温度である「55°C以上」で調理することが望ましいとされています。

※参照:食品安全委員会「ウエルシュ菌食中毒 」Dr. Douglas Baldwin 「A Practical Guide to Sous Vide Cooking」

肉を柔らかくするためには、中心温度67℃以下が理想的

食中毒のリスクは怖いものの、あまりに高温で加熱すると肉がパサパサとした仕上がりに……。低温調理のメリットがなくなってしまいます。
食中毒を予防しながら、ジューシーな料理を完成させるためには、どのくらいの温度で加熱するとよいのでしょうか?

そこで押さえておきたいのが「肉の食感が変わり始める温度がある」ということ。
肉を構成するたんぱく質は数種類あり、それぞれ加熱すると弾力を持ったり、かたくなったりと質感を変化させます。
たとえば、50℃になると弾力が出始め、68℃を超えるとかたくなり始めてパサつきが気になるように。

やわらかくてしっとりとした肉料理を楽しむためには、先に述べたウェルシュ菌の増えない温度も考慮して、およそ55℃~67℃の温度に調整するとよさそうです。
ただしこれはあくまでウェルシュ菌と肉の柔らかさだけを意識した数値。安全・安心な温度ではないので要注意です。

温度変化による肉の食感の違いと、肉に関わる食中毒菌・ウイルスの死滅温度をまとめたものが以下の図です。

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このほかにも食中毒菌や寄生虫などの食中毒のリスクがあります。表に示している温度が安全性を保証するものではありません。

低温調理の加熱温度・加熱時間には一律の基準がない

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低温調理において「〇℃の湯煎で〇分間以上食材を加熱すれば食中毒の危険はない」というデータは現段階で十分にありません
そのため、科学的根拠に基づく低温調理の温度・時間の目安はなく、検証が進められている段階です。

たとえば食肉の加熱基準とされる「中心温度75℃(もしくは同程度)」に到達する時間は、同じ種類の肉であっても、その厚みや部位によっても大きく変わってきます。そのため、一概に「〇℃の湯煎で〇分間加熱すればOK」とマニュアル化することは難しいのが現状なのです。

実際に東京都による「第一回 東京都食品安全情報評価委員会」でも、低温調理の危険性について議題に上がったことも。
低温調理が原因とみられる食中毒が実際に報告されていること。また、今後検証を重ねていき、目安となる加熱時間・加熱温度の条件を決定・周知していきたいということです。

現段階では安全性が保障される明確な基準がないことから、低温調理は食中毒のリスクがあるということをしっかりと認識しなければいけません。
それを踏まえ、食中毒の原因となる菌やウイルスなどが死滅する中心温度・加熱時間を意識しながら、低温調理を行う必要がありそうです。

※参照:東京都福祉保健局「食品衛生の窓」

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