3、B型肝炎訴訟の給付金除斥期間になる20年のカウント起算点はどこから?
これまで説明したように、B型肝炎給付金においては20年を経過しているか否かによって大きく金額が変わります。そのため、この20年の期間をいつからカウントするか(起算点)は非常に重要です。
(1)「不法行為の時」が起算点
B型肝炎給付金において請求額の減額の基準となる20年の期間は、民法における不法行為の時効期間(改正前においては除斥期間。)に合わせて、「不法行為の時」から起算するものとされています。
普通に考えれば、「不法行為の時」とは「感染した時」、つまり一次感染者の場合は集団予防接種を受けた時、母子感染者(二次感染者)の場合には出生時となりそうです。
しかし、B型肝炎の実態として、感染から相当な時間が経過してから具体的な症状が現れるというケースも多数見られます。
このような実態を踏まえると、感染時を不法行為の時として機械的に20年の期間経過により救済を制限してしまうのは、あまりにも被害者保護に欠けると言わざるを得ません。
そこで、患者の病状に応じて、一定の場合には20年の期間の起算点を後ろにずらす解釈が取られています。
(2)20年の期間の起算点を症状別に解説
被害者の症状に応じた20年の期間の起算点を具体的に見ていきましょう。
①無症候性キャリアの場合
無症候性キャリアの場合は、20年の期間の起算点は原則どおり「感染時」、つまり一次感染者の場合は集団予防接種を受けた時、母子感染者(二次感染者)の場合には出生時となります。
②慢性肝炎などを発症した場合
慢性肝炎などを発症した方については、その症状が発生した日が20年の期間の起算点となります。
③亡くなった場合
B型肝炎ウイルスへの感染が原因で亡くなった方については、死亡日が20年の期間の起算点となります。
4、慢性肝炎などを再発した場合、20年の期間はいつから起算される?
B型肝炎ウイルスへの感染が原因で慢性肝炎などを発症した方が、一度治癒した後に再発を引き起こした場合、20年の期間の起算点は1度目の発症と2度目の発症のどちらになるのでしょうか。
(1)原則として最初の発症時から20年の期間が進行する
再発の場合に20年の期間をいつから起算するかについては、最近裁判例が示されています。
最初に世間を沸かせたのが、福岡地裁平成29年12月1日判決です。この裁判では、まさに1度目の発症時と2度目の発症時のどちらが20年の起算点となるかについて争われ、判決は、再発時を起算点として原告側が勝訴し、話題を呼びました。しかしながら、同判決の控訴審である福岡高裁平成31年4月15日判決では、原審の判決を覆し、1度目の発症時が起算点であるとの判断で、原告側の逆転敗訴となりました。それ以降は原告の敗訴例が続いているようです。
福岡地裁令和2年6月23日判決でも、慢性肝炎の再発や長期継続は、病状の進行・拡大として当初の感染時に予見可能であることなどを理由として、20年の期間の起算点は1度目の発症時であると結論づけました。
今後上級審で異なる判断が示される可能性は残りますが、現時点での解釈としては、再発時の20年の期間の起算点は、原則として当初の発症時と考えるのが妥当でしょう。
(2)最初の発症とは質的に異なる再発の場合には再発時から起算
ただし同判決では、「再発時に質的に異なる損害が生じたとはいえないこと」についても、20年の期間の起算点を当初の発症時とする理由として挙げています。
このことを反対解釈すると、再発時の症状が当初発症時の症状と質的に異なるものである場合には、20年の期間の起算点は再発時になると考えられます。
たとえば、再発時の症状が当初発症時に比べて極端に重い場合など、当初発症した症状の延長線上にあるものとは考えられないケースでは、20年の期間の起算点を再発時としてB型肝炎給付金を請求できる可能性があるかもしれません。
配信: LEGAL MALL