同乗者が交通事故に巻き込まれた際の3つの知識と賠償請求の流れとは

同乗者が交通事故に巻き込まれた際の3つの知識と賠償請求の流れとは

友人や家族が運転する自動車に同乗している際や、タクシーやバスなど他人の運転する自動車に乗っている際に交通事故に巻き込まれてしまうケースは少なくありません。

同乗している自動車の交通事故に巻き込まれてしまった場合でも,損害が発生している(怪我をした、物が壊れてしまった、通院が必要になった)以上は、(場合によっては両方から)損害賠償請求をすることができます。

しかし、実際に損害賠償請求をする場面になってみると、「誰に」、「どのくらい」の損害賠償を請求してよいかわからないという方がほとんどなのではないでしょうか。

そこで、今回は、他人が運転する自動車に同乗していた際の交通事故における損害賠償請求で特に注意すべきポイントについてまとめました。一緒に確認してみましょう。

また、こちらの関連記事では交通事故での被害者が損をしないための知識について解説しています。突然の交通事故に遭遇されお困りの方は、こちらの記事もあわせてご参考いただければと思います。

1、交通事故が起きた際、同乗者は誰に損害賠償請求をすることができるのか?

他人が運転する自動車に同乗していたときの交通事故が原因で損害を被ってしまったとき、損害賠償請求をすることのできる相手方は、「交通事故を引き起こした運転者は誰か」によって変わってきます。

(1)同乗していた車が「もらい事故」にあった場合

交通事故において、100%相手方(自分が同乗していない車)に過失がある場合をいわゆる「もらい事故」といいます。

もらい事故の典型例としては、信号待ちなどで停車中に後方車両から追突されてしまった場合などが挙げられます。

この場合には、100%の過失がある相手方が一方的に責任を負うことになるので、相手方(保険会社)のみに対して損害賠償の支払いを求めていくことになります。

(2)双方の自動車の運転者に過失がある場合

実際の交通事故では、双方の自動車に過失(前方不注意、速度違反、注意義務違反等)があることが多いです。

この場合、同乗者の怪我は、双方の自動車の運転者の過失によってもたらされたものなので、法的には、双方の自動車の運転者による「共同不法行為(複数人による加害行為)」という扱いになります。

共同不法行為の加害者は、被害者(同乗者)に対し、双方が連帯して賠償責任を負うことになります(民法719条1項)。

したがって、この場合、同乗者は、運転者の双方に対して損害の全額を請求することが可能となりますが、後述のとおり、二重に損害賠償請求をすることができるというわけではなく、あくまで損害額の全額をどちらに請求してもよいということにすぎません。

なお、このような場合に双方の運転者が負う損害賠償債務のことを、「不真正連帯債務」といいます。

通常の連帯債務と異なる点は、弁済(支払い)などによって債権を満足させ得る事由を除いては、1人の債務者に生じた事由は他の債務者に影響を及ぼさないという点です。

もっとも、判例上(最判平成10年9月10日民集52巻6号1494頁)、一方の加害者と和解をした場合において、もう一方の加害者の債務についても免除をする意思を有していた場合には、そのもう一方に対しても免除の効果は及ぶことになるので注意が必要です。

たとえば、ご自身が同乗していなかった自動車の運転手側との示談の際に、「本件事故による損害賠償の問題は一切解決済み」という内容を含んだ示談書で最終的な合意に至ったとします。この場合、ご自身の同乗していた自動車の運転者に対する損害賠償請求権も免除したことになる可能性があるので(同乗していた自動車の運転者に損害賠償請求できなくなる)、安易に示談を進めない方が賢明です。

(3)同乗していた自動車の運転者のみに過失がある場合

このケースは(1)とは正反対の場合で、同乗している車が前方で停止している車両に追突したような交通事故が該当します。

この場合、もらい事故の被害者である相手方に過失はありませんので、損害賠償の請求についても(1)の場合とは逆に、100%の過失のある運転者である自分が同乗していた自動車の運転者に対してのみ行うことができます。

2、交通事故が起きた際、同乗していた運転者に損害賠償請求をする場合の注意点

1で紹介した交通事故の3つのパターンのうち、自分が乗っていない(相手方)車両の運転者のみに損害賠償請求をすることができるのケース(1(1))であれば、それほど難しく考える必要はありません。通常の交通事故のケースと同様に考えればよいからです。

しかし、損害賠償請求を双方の運転者にする場合(1(2))や、同乗させてくれた運転者に請求する場合(1(3))には、通常の交通事故の損害賠償とは取り扱いが異なる点があるので注意が必要です。

(1)双方の運転者に損害賠償請求をすることができる場合に注意すべきこと

双方の運転者に損害賠償請求をすることができる場合に特に抑えておくべきポイントは、以下の2つです。

  • 被害者はどちらの加害者にも自由に請求できること
  • 加害者には求償権があること

①被害者はどちらの加害者にも自由に請求できる

すでに解説したように、共同不法行為の加害者は、被害者に対して連帯して損害賠償責任を負います(民法719条1項)。

したがって、被害者は、いずれの加害者に対しても自由に損害賠償請求をすることができます。

たとえば、被害者AがBの運転する自動車に同乗しているときに、Cが運転する自動車との交通事故(B・C双方に過失あり)で怪我を負い、200万円の損害が発生したというときには、Aは、200万円の支払いをBに対してもCに対しても請求することができるということです。

本来であれば、Aは、加害者の過失割合に応じてそれぞれに損害賠償請求をすることが最も公平といえますが、実際に被害が生じているAの救済を最優先させる(分けて行う手間・時間・費用を省く、どちらかが無資力である場合に被害者が賠償されないという事態を避ける)という考えに基づいてこのような法的関係となっています。

ただし、Aに発生した損害はあくまで200万円なので、上記の場合であれば、どちらかから200万円の支払いを受けた場合、他方に対する損害賠償請求権は失われます。

「損害賠償の支払いを二重に受けることはできない」ということなのですが、当然といえば当然のことです。

②加害者には(他方の加害者に対する)求償権がある

次に注意すべきポイントは、自分の責任(過失割合に応じた損害賠償額)以上の損害賠償を支払った加害者には、他方の加害者に対して超過した支払分の補填を求める権利(求償権)があるということです。

上述のとおり、法律上は、Aは、Cに損害賠償の全額(200万円)を請求することも可能です。

しかし、Aの請求に応じてCが全額を支払ったとすると、Cは、本来Bが負担すべき損害賠償金も負担していることになってしまいます。このような場合にCがBに対して、Bの負担部分について支払いを求められないとすると、Aが損害賠償請求しやすい方だけに請求した結果、Cが過大な負担をすることになり、Cにとって酷といえます。

そこで、このようなケースでは、Cは支払った損害賠償金のうち、Bの過失部分についてBから求償(BからCへの金銭の支払い)を受ける権利(求償権)を得ることになります。

たとえば、BとCの過失割合が5:5であった場合には、Cは、Aからの請求に対して200万円(満額)を支払った場合に、Bが本来負担すべきであった(過失割合50%分の)100万円の支払いをBに対して求めることができる(求償することができる)というわけです。

したがって、被害者が「請求しやすい方に全額を請求する」という対応をとると、自動車に同乗させてもらった運転者と相手方運転者との間に、求償権の問題を引き起こす可能性があることになります。

(2)同乗していた自動車の運転者に損害賠償請求をする場合の注意点

日本においては、自賠責保険という強制加入保険制度が存在し、また、任意の自動車保険(共済含む)加入率も9割弱程度であるため、怪我などの傷害が生じた、いわゆる人身事故の場合の損害賠償金は、加害者自身の財産からではなく、加害者が加入している保険(強制保険・任意保険)から支払われることが一般的です。

そして、任意保険に加入している人は、「対人賠償無制限」の契約をしていることが多いので、通常は、加害者が任意保険にさえ加入していれば、加害者の資力不足を心配する必要はありません。

しかし、同乗していた自動車の運転者との関係が家族の場合、保険契約の内容によっては、運転者の任意保険を利用できない場合があります。

具体的には、対人賠償保険は、あくまで「他人」に対する損害を補償するものであるため、同乗者が運転者と上記の関係の場合、利用することはできないのが一般的です。

他方で、人身傷害保険又は搭乗者傷害保険に加入していれば、同乗していた自動車の運転者との関係が家族(配偶者・同居の親族・過去に婚姻歴のない別居の未婚の子)の場合であっても、保険会社から保険金を受け取ることができます。

人身傷害保険では、事故によるケガの治療費や休業損害、慰謝料などについて、実際の損害に基づいて保険会社が定めた基準により計算された額が補償されます。

他方、搭乗者傷害保険では、部位・症状等によりあらかじめ保険契約で定められた定額の金銭が支払われます。金額は人身傷害保険よりも小さくなりやすいですが、実際の損害額を確定させなくて済むぶん、人身傷害保険よりもスムーズに支払いを受けることができます。

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