3、事前認定を利用すべきではない3つのケース
2(2)で説明した事前認定のデメリットをふまえると、次のようなケースでは、後遺障害等級認定を事前認定で行うことは、不利な結果(非該当、低い等級)となるリスクが高いといえます。
- 相手方と後遺障害の有無などの認識が一致しない、相手方の対応を信用できないとき
- むち打ち症で後遺障害等級認定を受ける場合
- 高次脳機能障害のような重篤な後遺障害が残ることが予想される場合
(1)相手方と後遺障害の有無などの認識が一致しない、相手方の対応を信用できないとき
相手方保険会社は、こちらの味方ではありません。
相手方保険会社にとっては、必要以上に高額な賠償金を支払うことは損失となってしまうからです。
したがって、ケガの程度や後遺障害の有無について、相手方保険会社と被害者との間の認識が一致しないときには、事前認定をすべきではないでしょう。
後遺障害の認識などについて目立った争いがない場合でも、相手方保険会社の対応に不安がある、信用できないと感じたときにも、事前認定は避けるべきといえます。
全ての等級認定が被害者の求めるとおりの結果になることは絶対にありえませんが、事前認定は相手方保険会社に完全に丸投げしてしまう手続きであるため、結果が納得のいくものでなかった場合にそれを受け入れることが困難になるからです。
(2)むち打ち症で後遺障害を認めてもらいたいとき
むち打ち症で後遺障害の認定を受けるときにも、事前認定は避けた方がよい場合が多いといえます。
むち打ち症は、「他覚症状のない」症状なので、後遺障害の認定を受けることが難しい症状といえるからです。
また、むち打ち症の場合は、相手方保険会社も「後遺障害はない」と認識しているケースがほとんどであるといえるでしょう。
他方で、実際の交通事故被害では、むち打ち症が原因と思われるしびれ、痛み、めまいなどが症状固定後も残ったと感じる方が非常に多いのが現実です。
「本当に後遺障害があるのに、補償されない」という事態を回避するためにも、むち打ち症の後遺障害が不安なときには、治療段階から専門家によるサポートを受けておくことが特に有効です。
症状固定前(治療期間中)から後遺障害認定に必要な対応を十分にしておくことは、適正な後遺障害等級認定に必ず役に立ちます。
(3)重篤な後遺障害が残ってしまう可能性があるとき
交通事故で頭部に大きな衝撃を受けたときには、脳機能障害などの重篤な後遺障害が残る可能性があります。
レントゲンやMRI画像において脳にダメージを受けていることが明確にわかる場合には、交通事故と症状の発生との因果関係を客観的に判断できるので、事前認定で対応しても非該当になるリスクはさほど高くないかもしれません。
しかし、脳機能に対するダメージは、切断や失明などの他の外傷に比べて「見えにくい障害」であると言われているため、症状の重篤さを根拠づけるための資料が充実したものでなければ、適切な等級が認定されないことも考えられます。
事前認定で行ったために十分な資料が提出されなければ、認定される等級が下がってしまうことも考えられるのです。
重篤な後遺障害の場合には、認定等級が下がることで、受け取れる金額が大幅に減ってしまいます。
特に、後遺障害によって労働能力を喪失したことで逸失利益を支払ってもらえるケースでは、数千万円の単位の減額となることも珍しくありません。
下の表は、後遺障害等級ごとの自賠責保険における保険金額です。
高次脳機能障害が認められたときに認定される等級は、別表第1の第1級・第2級、別表第2の第3級、第5級、第7級、第9級です(特段症状のない脳外傷の場合には、第12級もありえます)。
たとえば、きちんと対応すれば5級に認定される可能性のある後遺障害があるのに、事前認定をしたことで第7級と認定されてしまえば、523万円の減額となってしまいます。
【別表第1】
第1級 | 4000万円 |
第2級 | 3000万円 |
【別表第2】
第1級 | 3000万円 | 第8級 | 819万円 |
第2級 | 2590万円 | 第9級 | 616万円 |
第3級 | 2219万円 | 第10級 | 461万円 |
第4級 | 1889万円 | 第11級 | 331万円 |
第5級 | 1574万円 | 第12級 | 224万円 |
第6級 | 1296万円 | 第13級 | 139万円 |
第7級 | 1051万円 | 第14級 | 75万円 |
さらに、脳機能障害が生じるケースでは、脳内出血、脳室拡大、硬膜下出血・くも膜下出血といった他覚所見が見つからない場合も珍しくありません。
これらのケースで事前認定をすると、「ケガと症状との間に因果関係が認められない」という理由で、認定等級が下がるどころか「非該当」や「14級9号」しか認定されないという結果になることも考えられます。
上で用いた例では、第5級相当の後遺障害があるのに非該当になってしまえば、「1574万円が0円」になります。
実際に生活に支障をきたす障害が残っているのに「補償なし」では、被害者は本当に困ってしまいます。
(4)事前認定で納得のいかない等級認定となってしまったときは?
事前認定で後遺障害等級認定を受けて納得のいかない結果になったときには、異議を申し立てることができます。
後遺障害等級認定に対する異議の申立ての詳細については、下記の記事の解説を参考にしてください。
しかし、後遺障害等級認定の異議申し立ては、必ずしもハードルが低いものではありません。
後遺障害等級の認定に少しでも不安を感じたときには、事前認定で対応することは避けた方がよいでしょう。
4、「被害者請求」なら納得のいく認定結果を得られやすい
事前認定によらない場合には、被害者自身が後遺障害等級認定の手続きをする被害者請求をすることになります。
(1)被害者請求で後遺障害等級認定を受けるメリット
被害者請求の最大のメリットは、「損害賠償を受け取る被害者自身」が認定に必要な資料を収集するので、有利な結果を得るために必要十分な資料が揃えられる可能性が高まることです。
また、希望とは異なる認定結果になった場合でも、すでに提出した資料をすぐに確認できるので、異議申し立てへの対応もしやすくなります。
被害者請求では、後遺障害等級認定を受けられたときに、相手方保険会社との示談の成立を待たずに、すぐに自賠責保険から保険金の支払いを受けることができるのもメリットのひとつといえるでしょう。
(2)被害者請求することのデメリット
被害者請求のデメリットとしては、次の点を挙げることができます。
- 資料を集めるための手間暇
- 費用を負担しなければならない
- 専門知識がなければ、十分な資料を揃えられないこともある
①被害者の負担が多くなる
被害者請求では、後遺障害等級認定のために必要な書類・資料のすべてを被害者自身が集めなくてはいけません。
被害者請求の際に必要な書類・資料の主なものは、下にまとめたとおりです。
- 保険金(共済金)
- 損害賠償額
- 仮渡金支払請求書
- 交通事故証明書
- 事故発生状況報告書
- 医師の診断書(死亡事故の場合には、死体検案書および死亡診断書)
- 診療報酬明細書
- 施術証明書(むち打ち症でマッサージや針灸を受けた場合)
- 通院交通費明細書
- 付添看護自認書または看護料領収書
- 休業損害の証明(事業主が発行する休業損害証明書、もしくは、税務署・市区町村が発行する納税証明書、課税証明書など)
- 印鑑証明書
- 戸籍謄本
- 後遺障害診断書
- レントゲン写真
- MRI画像といった画像所見、および各種検査所見
これらの書類を集め、必要事項を記載するだけでもかなりの負担となります。
また、検査実施費用や診断書などの作成費用も被害者自身が負担しなければいけません(等級が認められれば後日支払ってもらえます)。
②専門知識がないために必要な資料を揃えられない
被害者請求の最大のデメリットは、手間暇や費用がかかることよりも、「事前認定よりも悪い結果になる可能性すらある」ことです。
適正な後遺障害等級の認定を受けるためには、それぞれの後遺障害に合致した検査を受けたり、そもそも自分にとってどの症状が後遺障害として認定されうるのかを把握することがとても大切です。
しかし、医学や後遺障害等級認定の実務についての専門知識をもたない被害者には、それらを正確に把握することすら一苦労なことが一般的でしょう。
そうなると、被害者請求を行うところまでたどり着かないままに断念してしまったり、認定されうる等級の認定手続きを忘れてしまったりということが起こり得ますが、それでは「事前認定で相手方保険会社に任せておけば良かった」ということになってしまいます。
配信: LEGAL MALL