海外で用いられている前立腺がんの最先端治療、「PSMA治療」の実態に迫る

海外で用いられている前立腺がんの最先端治療、「PSMA治療」の実態に迫る

国立がん研究センターの発表を見る限り、前立腺がんの治療予後は良好のようです。ステージⅢまでの5年生存率は「100%」となっています。その一方で、最先端治療の研究が常に進んでいるのはどうしてなのでしょうか。今回は「馬車道さくらクリニック」の車先生に、「PSMA」というキーワードから見た、本当の前立腺がんの実態を紐解いていただきましょう。

車英俊

監修医師:
車 英俊(馬車道さくらクリニック 院長)

防衛医科大学校卒業。防衛医科大学校病院や各大学病院などで臨床を重ねた後の2013年、神奈川県横浜市に位置する「馬車道さくらクリニック」を継承。前立腺がんを中心とした内科のほか、皮膚科にも注力している。日本泌尿器科学会認定専門医。日本癌治療学会、日本皮膚科学会、日本排尿機能学会、日本性機能学会の各会員。

海外ではすでに実施されている

海外ではすでに実施されている

編集部

前立腺がんに関係して、「PSMA」というキーワードをみかけます。

車先生

PSMAは、前立腺がんの細胞の表面に強く出ている物質です。このPSMAを標的にするPSMA治療は、前立腺がんを「狙い撃ち」できる効果的な治療法です。とくに悪性度の高いがんほど有効とされ、次世代の標準治療の1つになるといわれています。

編集部

もう少し詳しく教えてください。

車先生

PSMAは、前立腺がん細胞の表面に顔を出しているタンパク質の1つです。このPSMAと結びやすい物質に治療薬をくっつければ、直接がん細胞に治療薬が届きます。PSMA治療では、治療薬として“放射性物質”を用います。前立腺がん細胞は放射線に弱いので、がん細胞に対してより効果的なのです。

編集部

放射性物質と聞くと、不安な印象をもってしまいます……。

車先生

放射性物質の届け役は正常な細胞をスルーしていくので、患部以外にとどまることはありません。なお、国内認可が下りていない理由の1つは、「放射性同位元素の輸入」という扱いになるからです。ちなみに、管轄も厚生労働省ではなく、経済産業省になります。

編集部

海外での実績はどうなのでしょうか?

車先生

2014年から、いくつかの国で順次、実施されるようになってきました。PSMAを前立腺がんの診療に用いると、治療だけでなく「高感度の画像診断」が可能になります。PSMAに結合しやすい物質に検査用の薬剤をくっつければ、PET検査などで極めて小さながんまで捉えられるようになるのが理由です。こうした治療と診断を同時におこなえる“効率的な方法”を近年では「セラノスティクス」と呼んでいて、最新のトレンドとなっています。

じつは、全身に転移しかねない前立腺がん

じつは、全身に転移しかねない前立腺がん

編集部

一方の国内では現在、前立腺がんをどのように治療していくのでしょうか?

車先生

まずは、受診して検査しないと、前立腺がんを見つけることができません。そして、前立腺がんは「自覚の乏しいがん」であることが知られています。50歳を過ぎたら、オシッコの異常などが現れる前に、健診オプションなどを積極的に利用することをおすすめします。

編集部

健康診断でも前立腺がんかどうかわかるのですね。

車先生

血液検査の「PSA」という値が高ければ、前立腺がんを疑います。字面的にはPSMAと似ていますが、中身はまったく異なります。PSA検査は、前立腺から分泌されるタンパク質を調べる方法です。なお、前立腺がんの確定診断には、組織を直接、採取して調べる生体検査が欠かせません。

編集部

その後の治療方法についても教えてください。

車先生

仮に手術によって前立腺がんを摘出できたとしても、その後、再発や全身への転移をおこす可能性は避けられません。もし、がん細胞が全身へ広がってしまったら、ホルモン治療に進みます。ホルモン治療は前立腺がんの増殖を抑える効果があり、副作用が少ないので治療の第一選択肢になっています。しかし、ホルモン治療で抑えきれなくなってきたら、抗がん剤治療を検討します。総じて「やっかいながん細胞ほど生き残ってしまう」ので、長期化する患者さんが一定数いらっしゃるのです。

編集部

その点、PSMAはどうなのですか?

車先生

むしろ、しぶとくて悪性度の高いがん細胞を狙い撃ちします。ですから、国内承認されている治療方法とは真逆ですよね。現状、上記の進め方で「悪性度の高いがん組織が広まってしまって、ほかに打つ手なし」というときに、海外でのPSMA治療を検討していきます。

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