コロナ禍でも出勤強要される…拒否方法と損害賠償請求の可否を解説

コロナ禍でも出勤強要される…拒否方法と損害賠償請求の可否を解説

新型コロナウイルス感染症やその変異株が拡大している中、完全収束の兆しはまだ見えていません。

そんなコロナ禍で出勤を強制されるお悩みをお持ちの方は多数いらっしゃるのではないのでしょうか?これまで出勤を継続しながらも感染せずに切り抜けられた方、多大なご心労があったことでしょう。

今後も会社への出社を強制されることが続くと、従業員は感染リスクに怯える状況下にさらされてしまいます。社員やアルバイトを守る上でも対策をしていく必要があります。

そこで今回は、

  • コロナ禍での出勤強要は合法なのか
  • コロナ禍での出勤は拒否できないのか
  • コロナ禍での出勤強要に対して会社へ損害賠償請求できるか

といった内容について解説していきます。

ご参考になれば幸いです。

1、コロナ禍での出勤強要は適切なのか?

新型インフルエンザ等特措法に基づいて緊急事態宣言が発出されたにもかかわらず、会社は、従業員に対し、出勤を強要してもいいのでしょうか?

まずは、出勤強要にどのような法的問題があるのかをご説明します。

(1)基本的には会社の判断による

緊急事態宣言は新型インフルエンザ等特措法を根拠として発出されたものです。

政府が発出した緊急事態宣言を受けて、各都道府県において、知事により、住民に対する外出自粛や感染防止のためのさまざまな協力要請が行われています。

経済産業省においても、在宅勤務を推進するために日本商工会議所などの関連団体に対して以下のことを要請しています。

  • 社会機能を維持するために必要な職種を除いて
  • オフィスでの仕事は原則として自宅で行えるようにすること
  • やむを得ず出勤が必要な場合でも、出勤者を最低7割は減らすこと

これらのような緊急事態措置が講じられている以上、会社としては、可能な限り従業員の在宅勤務を認めることが望ましいことはいうまでもありません。

しかしながら、新型インフルエンザ等特措法上、緊急事態宣言による要請には強制力がありません。

したがって、コロナ禍において従業員に出勤を求めても新型インフルエンザ等特措法に違反するわけではありません。

基本的には、従業員に在宅勤務を認めるか、従来どおりに出勤を求めるかは、会社の判断に任されることになります。

(2)会社が負う安全配慮義務とは

とはいっても、会社としても全く自由に判断して良いわけではありません。

なぜなら、会社は従業員に対して安全配慮義務を負っているからです。

安全配慮義務とは、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をしなければならない使用者の義務のことです。

労働契約法第5条と労働安全衛生法第3条1項に、会社の安全配慮義務が明記されています。

第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

引用元:労働契約法

第三条 事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。

引用元:労働安全衛生法

コロナウイルスへの感染拡大が収束しない以上、会社は従業員が業務や通勤においてコロナウイルスに感染しないように配慮すべき義務を負っています。

この義務に違反する出勤強要は、違法となる可能性があります。

2、コロナ禍での出勤を強要された場合、拒否できる?

それでは、従業員はコロナウイルスへの感染リスクがあることを理由に出勤を拒否することはできるのでしょうか。

(1)在宅勤務の要請は可能

まず、従業員から会社に対して在宅勤務を認めるように要請することは可能です。

法的にいえば、出勤を求めることが安全配慮義務違反であることを前提とすると、会社が安全配慮義務を果たすことを請求することになります。

ただし、在宅勤務は社内のセキュリティの環境外で業務が行われるため、情報漏洩などの事故が発生するおそれもあります。

会社としては、そういった理由をもって、出勤しか手がないと言ってくるかもしれません。

そのようなときは、従業員の側から、このような情報漏洩のリスクを避けるために、在宅勤務に適した最新のセキュリティ対策を導入を提案するのも良いでしょう。

例えば、以下のような対策が考えられます。

  • 在宅勤務で使用するパソコンなどの端末を従業員の個人IDと紐付けて管理する
  • 端末上のデータを暗号化する
  • Wi-Fiを利用する際、VPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)を使用するなどして通信も暗号化する

また、在宅勤務を実施するためにさまざまなツールを新たに導入する必要がある会社も多いことでしょう。在宅勤務によって円滑に業務を進めるためには、以下のようなツールが必要になります。

  • コミュニケーションツールとしてSlackやChatworkなど
  • ファイル共有ツールとしてDropboxやGoogle Driveなど
  • オンライン会議ツールとしてZoomやWherebyなど
  • 労働時間把握ツールとしてジョブカンやKING OF TIMEなど

在宅勤務を導入すると、人事評価についても一般的な評価制度から在宅勤務に適した評価制度に変更する必要がありますが、これらのツールは、遠隔でも従業員の仕事ぶりや成果を把握するのにも有用です。

ITツールの導入は、一定の資金もかかることもありますが、一般社団法人サービスデザイン推進協議会が運用する「IT導入補助金」を受けることが可能です。

特に、新型コロナウイルスの影響を受けている会社には特別枠が設けられており、補助金が受けやすくなっています。

以上のことは会社側が考えるべきことですが、よくわからないために、従業員からの在宅勤務の要請を拒否する会社も多いと考えられます。

ですから、会社がシステム上の問題を理由に在宅勤務を認めようとしない場合は、以上の対処法を従業員側で調べ上げ、提案するのも一つの方法です。

(2)在宅でできない仕事の場合は、感染対策を求めることが可能

職種によっては在宅ではできない業務もあるでしょう。

その場合に会社に何を求められるかについては、「3」をご覧ください。

(3)子どもの休校により出勤できない場合

小学校等の休校に伴い、子どもの面倒をみるために会社を休まなければならない方も少なくないでしょう。

このようなケースにおいて出勤を強要されることはないかと思いますが、有給休暇を使う雰囲気だったり、ひどい場合は無給欠勤扱いになったりするケースもあるでしょう。

そんな場合は、保護者の収入を補償するために、「小学校休業等対応助成金」という制度があります。

この制度は、次のいずれかに該当する場合で、保護者である労働者が、通常の年次有給休暇とは別に特別の有給休暇を取得した場合に、国から会社に対して助成金が支給されるものです。

  • 子どもが通う小学校等が新型コロナウイルス感染拡大防止策として臨時休業した場合
  • 子どもが新型コロナウイルスに感染したおそれがあり、小学校等を休む必要がある場合

特別の有給休暇を取得した場合、保護者は通常の賃金の全額を受け取れます。

ただし、助成金は1日8,330円が上限であり、これを超える分は会社負担となります。

助成金は労働者へ直接支払われるのではなく、会社からの申請によって会社へ支払われるものです。

したがって、会社によっては従業員側から会社に対して、この制度を活用して特別の有給休暇の制度を整備するように求める必要があります。

この制度を利用するよう、求めてみるべきです。

(4)出勤を拒否するときの問題点

従業員から在宅勤務を要請しても会社が何の検討もせず、在宅勤務が可能であるのに出勤強要する場合は、会社が安全配慮義務に違反したと評価される可能性があります。

その場合、従業員は出勤を拒否しても問題はないのでしょうか。

①在宅勤務を強行した場合

在宅勤務が可能であるのに従業員からの要請を会社が拒否し、感染リスクが高い状況での出勤強要を拒否して在宅勤務を強行した場合、正当な労務の提供として認められる可能性があります。

その場合は、賃金の全額を受け取ることができます。

ただし、正当な労務の提供として認められるかどうかはケース・バイ・ケースです。

本当に通常勤務の場合と同程度の労務の提供ができたといえるのか、セキュリティ上の問題はなかったか、感染リスクの程度がどの程度だったのかなど、さまざまな事情を総合的に考慮して判断されます。

必ずしも在宅勤務の強行が正当な権利行使として認められるわけではないことに注意が必要です。

②やむを得ず欠勤した場合

誰しもコロナウイルスへの感染は避けたいところですが、家族に高齢の親がいるなどの理由でどうしても感染リスクを避けたいという方もいらっしゃるでしょう。

場合によっては、会社を欠勤することもやむを得ないと考えられます。

感染リスクが高い中で出勤強要されていた場合は、欠勤してもそれを理由とする解雇は認められないと考えられます。

解雇が相当といえる客観的で合理的な理由(労働契約法第16条)に該当しないからです。

ただし、コロナ禍であるといっても、職場の環境として感染のリスクがさほど高くないような場合には、欠勤の日数などの具体的事情によっては、解雇が有効となる可能性もありますので、注意してください。

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