退職時に引継ぎしない従業員への対処法|損害賠償請求は可能?

退職時に引継ぎしない従業員への対処法|損害賠償請求は可能?

会社として、引き継ぎをしないで退職する従業員に、どのように対応できるのでしょうか。

退職するときには後任者に引継ぎをしてもらわなければ、業務にロスが生じ、会社に損失が発生することもあります。

しかし、「本日限りで退職させていただきます」と、引継ぎしないで、突然、退職届を提出する従業員もいます。最近は、退職代行サービスが広まってきたこともあり、引継ぎしないで退職してしまう従業員が増える可能性もあるでしょう。

「なんとか引継ぎをしてもらえないか」

「引継ぎしないのなら、損害賠償請求等の対抗措置をとれないか」

突然の退職はやむを得ないとしても、上司や管理職の方なら、このように考えることでしょう。

そこで今回は、

  • 退職する従業員に引継ぎを強制できるか
  • 引継ぎしないで退職する従業員に対抗できる措置とは
  • 引継ぎしてもらうための方策とは

などについてご紹介します。

部下から突然の退職の申出を受けて、お困りの上司や管理職の方々のお役に立つことができれば幸いです。

1、引き継ぎしない退職者への対応の前に〜そもそも従業員には引継ぎ義務はある?

まずは、退職する従業員に、強制的に引継ぎをさせることは可能なのか、従業員に引継ぎをすべき法律上の義務があるのかについて、ご説明します。

(1)信義則上の義務

法律上、退職する従業員の引継ぎ義務を明記した規定はありません。

強いて言えば、民法上の「信義則」に基づく義務として、従業員が退職する際には、一定の引継ぎを行う義務があると考えることができます。

第1条第2項 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

引用元:民法

また、就業規則や雇用契約書に引継ぎ義務が明記されている場合は、契約上の義務として、引継ぎ義務が認められます。

したがって、退職する従業員に、引継ぎをする義務は、一応あるといえます。

(2)強制はできない

ただし、会社は、従業員に対して、引継ぎを強制することはできません。なぜなら、従業員には、職業選択の自由が保障されており、退職することも、「選択の自由」に含まれるからです。

第22条第1項 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

引用元:憲法

したがって、従業員が引継ぎを終えるまで退職を認めない、という取扱いは許されません。

就業規則や雇用契約書にそのような規定があったとしても、その規定は、憲法に違反するため無効となります。

2、引継ぎしないで退職する従業員に対して取りうる措置

退職する従業員に引継ぎを強制できないのであれば、会社としては、その従業員に対して、何らかの対抗措置をとりたいところでしょう。

対抗措置としては、以下のようなものが考えられます。

(1)有給休暇の時季変更や買取り

未消化の有給休暇が残っている従業員は、通常、退職日までに有給休暇を消化します。突然、退職届を提出し、「明日からは有休を消化し、その後に退職します」という形になります。

従業員が有給休暇を取得することで、事業の正常な運営が妨げられる場合、会社は、時季を変更して、有給休暇を与えることができます(労働基準法第39条第5項ただし書)。

しかし、退職日を超えて、時季変更をすることはできません。

引継ぎをしてもらうためには、従業員との話し合いによって、退職日を後にずらしてもらい、引継ぎを終えた後に、有給休暇を消化してもらう形にする必要があります。

(2)損害賠償請求

前記「1(1)」でご説明したように、退職する従業員には、引継ぎをすべき義務があります。したがって、従業員が、その義務に違反して引継ぎしないで退職した場合には、損害賠償請求をすることが可能ではあります。

しかし、引継ぎしない場合でも、会社に経済上の損害が発生するとは限りません。発生したとしても、その従業員が引継ぎをしなかったことのみを原因とする損害額を算定したり、立証するのは困難です。

もっとも、損害賠償請求が認められた裁判例もあります。

ケイズインターナショナル事件(東京地裁平成4年9月30日判決)と呼ばれる裁判例では、引継ぎしないで退職した従業員に対して、70万円の損害賠償が命じられました。

この事案では、あるプロジェクトを任せるために採用した従業員が、入社してすぐに退職したところ、クライアントから、そのプロジェクトの契約が打ち切られ、会社は1000万円の利益を失ったと主張しました。

会社と従業員との話し合いによって、200万円の支払いを約束する念書が作成されたものの、従業員がこれを支払わなかったため、会社が提訴に踏み切りました。

判決では、従業員にも責任があるものの、会社側にも不手際があったとして、請求額の約3分の1にあたる70万円の限度で、請求が認められました。

会社としては、従業員から突然の退職の申出を受けたとしても、話し合いによって、退職日を先に延ばしてもらったり、本人に必要な指示を出すなどの対策を講じる余地があります。

会社の講じた対策が不十分であれば、従業員の退職と会社の損害との因果関係が認められないことになります。

結論として、損害賠償請求が認められるのは、よほど悪質なケースに限られ、認められる金額も、少額にとどまる場合がほとんどでしょう。

1人の従業員の退職のために、会社が手間と費用をかけて損害賠償請求を行うことは、通常は得策とはいえません。

(3)懲戒解雇

従業員が引継ぎしないで退職することは、状況によっては、「勤務状況が著しく不良」ということもできます。

したがって、就業規則で定めた懲戒理由に該当する場合は、会社は、その従業員に対して、懲戒処分を下すことも可能です。

ただし、懲戒解雇が可能なのは、解雇することに客観的で合理的な理由があり、社会通念上も相当であると認められる場合に限られます(労働契約法第16条)。

具体的な事情にもよりますが、引継ぎしないことのみを理由とした懲戒解雇が、客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と認められることは、ほとんどないでしょう。

無理矢理に懲戒解雇とすれば、従業員から不当解雇として訴えられるおそれがあるので、注意が必要です。

(4)退職金の不支給や減額

就業規則や雇用契約書に、「引継ぎしない場合は、退職金の全部または一部を支給しない」と明記していれば、会社が、その従業員の退職金を減額することは可能です。

懲戒処分としても、解雇ではなく、退職金の減額であれば、認められるケースがあるでしょう。

もっとも、退職金も、通常は、労働の対価としての賃金の後払いという法的性質を持っています。そのため、引継ぎしないことのみを理由として、退職金の全額を不支給とすることは、まず認められません。

退職金を減額する場合も、程度によっては、問題となるでしょう。

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