3、秘密保持契約と不正競争防止法違反の関係
秘密保持契約を締結する際、「不正競争防止法」との関係も理解しておくと役立ちます。
不正競争防止法とは、企業同士の関係や競争を適正化し、企業取引を安全かつ円滑化しようとする法律です。
ここでは「営業秘密」を不正に取得したり、利用したり、開示したりする行為が禁止されています。
そして、不正競争防止法違反の行為が行われたとき、被害者は加害者に対して、損害賠償請求や差し止め請求をできますし、加害者には、刑事罰も下されます。
では、この法律で営業秘密の漏えいは禁止されているので、わざわざ秘密保持契約を締結しなくても良い?は正解でしょうか?
いいえ。
なぜなら、不正競争防止法違反では、すべての企業秘密が守られるわけではないからです。
不正競争防止法違反の「営業秘密」に該当するためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 秘密管理性
- 秘密の有用性
- 非公知性
これらの3つをすべて満たしていないと「営業秘密」にはならないので、該当しない情報は、他に漏えいされても、文句を言えなくなってしまいます。
また、禁止される行為も「詐欺脅迫によって情報を取得した場合」、「その事情を知りながら、あるいは過失により情報を開示した場合」、「不正な利益を得る目的や損害を与える目的で情報を使用、開示した場合」など、一部に限られています。
それ以外の行為で情報を漏らしたケースでは、不正競争防止法で対応できません。
そこで秘密保持契約の出番です。
秘密保持契約を締結すると、これらの「不正競争防止法でカバーできない部分」もカバーして、企業の情報を守ることができます。
契約内容は、当事者間で自由に定めることができるので、守られるべき秘密の範囲を広めに設定することもできますし、禁止される行為の範囲も、状況に応じて設定できるので、効果的に会社の利益を守ることが可能となります。
4、秘密保持契約で重要なポイント
実際に、秘密保持契約を締結する際に重要となるのはどういったことなのか、ポイントを解説していきます。
(1)秘密情報の範囲
まず重要なのは、「秘密情報」の範囲です。
どの情報を保護の対象にするか、です。
たとえば、情報を預ける提供者が、「秘密情報である」と明示したものに限るのか、明示されていないものも含むのか、あるいは書面で開示したものに限るのか、口頭で告げたものを含むのかなど、明らかにすべきです。
また、口頭による開示のケースを含める場合、後にトラブルが起こらないように、遅滞なく書面によって通知するように定めておくと良いでしょう。
秘密情報の範囲については、「例外(除外)規定」も定める必要があります。
形式的には秘密情報に該当しても、すでに知られているものなどは、秘密保持義務を課すべきではないからです。
以下のような情報が除外されることが多いです。
- 開示された時点で、既に世に知られている公知な情報、開示後に、情報の受領者の責任ではない事由により公知になった情報
- 開示された時点において、既に受領者が取得していた情報
- 開示後に、正当な権限をもった第三者から開示された情報
- 情報受領者が、提供者とは無関係に、独自に開発した商品やサービス、技術などに関する情報
- 裁判所の命令や法令によって開示すべき義務がある情報
上記のようなものは、秘密保持義務を課すのが不合理なので除外されます。
(2)秘密保持義務の範囲
次に、「秘密保持義務の範囲」も明確化しておく必要があります。
情報を守るために、「何をすべきか、何をしてはいけないのか」ということです。
たとえば、以下のようなことを義務内容とするケースが多数です。
- 情報の受領者は、「秘密情報」を第三者に開示や漏えいしてはならない
- 情報の受領者は、秘密情報を適切な方法で管理する
- 管理の際、秘密情報への不正アクセスや不正な持ち出しを防止すべく、必要な対策を行う
単に情報の開示や漏えいを防ぐだけではなく、外部からの攻撃や内部の不正持ち出しも防ぎ、管理方法を適切にすることも定めておきましょう。
ただし、秘密情報を利用したり、開示したりしなければならないケースもあります。
そこで、以下のような例外規定を定めます。
- 情報の受領者は、目的達成に必要な範囲で、秘密情報を複写・複製できる。その場合の複写・複製された情報も、「秘密情報」となる
- 情報の受領者は、必要な範囲で、弁護士や公認会計士、税理士等の外部の専門家に対し、秘密情報を開示できる。ただし、外部の専門家に秘密保持義務違反があった場合には、情報の受領者による違反とみなす
- 情報の受領者は、法令の規定によって、官公庁、裁判所等の公的機関から情報開示を求められた際、秘密情報を開示できる。その場合、ただちに情報の開示者に対し、情報開示の事実を知らせる
秘密保持契約締結の際には、このように秘密情報の範囲と秘密保持義務の範囲について、しっかりと話し合い、両者が納得する内容を決定する必要があります。
(3)義務違反したときの効果
秘密保持義務に違反したら、どのような効果があるのかも定めておきましょう。
たとえば、差し止め請求ができること、損害賠償請求ができること、業務委託契約を解除できることなどは基本です。
また、情報開示者が、情報受領者に対し、立入調査できる権限を定めるケースなどもあります。
(4)契約期間と契約後の拘束
秘密保持契約を締結する場合には、契約期間を定めます。
ただし、契約期間が終了しても、その秘密に価値がなくなるわけではないことが多数です。
その場合には、契約終了後も5年程度、秘密保持義務が継続するという条項を入れて対応します。
(5)契約終了時の対応
秘密保持契約では、契約終了時の対応も重要です。
情報を提供した元データやそれを保管したハードディスク、各種の媒体などをすべて破棄してもらうか、返還してもらう必要があるので、そのことも契約に定めておきましょう。
配信: LEGAL MALL