遺言の相談は誰に?遺言書作成のための4つのポイント

遺言の相談は誰に?遺言書作成のための4つのポイント

遺言については、どこに相談すればよいのでしょうか。

遺言を残そうと思っても、本当にその通りに相続をしてもらう保証がないことに不安を抱く方は少なくないと思います。

無駄に争って欲しくない気持ちがある一方、最後の気持ちを示したい、遺言はとても気を遣うものでもあるでしょう。

そんなときは、やはり専門家へ相談しながら記載するのがオススメです。

ところで、「相続させる」と「遺贈する」の違いをご存知ですか?(※)

実はこんな言葉づかいについても、本来は専門家のアドバイスが必要なのです。

今回は、

  • 遺言を専門家に相談すべきケース
  • 遺言作成の注意ポイント
  • 遺言作成の相談先

についてご紹介していきます。ご参考になれば幸いです。

※一般に「相続させる」といえば、法定相続人に相続させることです。「遺贈する」は法定相続人以外の人に相続財産を無償で譲ることです。

相続の相談について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

1、遺言作成を相談すべきケース

遺言がなければ、原則、相続財産は相続人に法定相続分に従って承継されます。

遺言を作っておくべきなのはどんな場合でしょうか。

本項では、代表的な事例をご紹介します。

(1)法定相続分と異なる相続を望む場合

「この財産は是非あの人に相続させたい」「世話になった長男に法定相続分より多めに相続させたい」などという場合です。

遺言がなければ、思うように相続をコントロールすることはできません。

遺言書でしっかり書きこんで誤解・曲解されないようにすべきです。

①特定の財産を特定の人に相続させたい場合

「自宅は妻に残して、住み慣れた場所で過ごしてほしい。子供たちには預金や有価証券を渡すことにしたい。」といったお気持ちなら、遺言で明確にしておくべきです。

なお、不動産の表示を正確に記載することも紛争防止に必須です。

自分ではわかっている、相続人もみんな知っている、などと、安易な記載をすると遺言の効力に問題が生じます。

②特定の相続人に法定相続分以上に相続させたい(または法定相続分以下にしたい)

長男夫婦には同居して長く世話になった。

特に嫁にはお世話になった。

長男の相続分を多くして嫁に報いてやりたいなどという場合です。

後述の遺留分や特別受益などとの関係も考慮し、どのように記載するか、なども専門家のアドバイスを受けるべきでしょう。

(2)法定相続人以外に遺贈したい場合

同居して尽くしてくれた長男の嫁に遺産を残したいなどという場合です。

ご長男が存命ならご長男の相続分を増やせば対応できるかもしれません。

ご長男が他界されていると、そのままではご長男の法定相続分は代襲相続として長男の子(お孫さん)に相続されたり、また長男に子供がないと他の子供たち等に相続され、お嫁さんの分として遺産を残してあげることができません。

また、それ以外にも、内縁の妻や、親しい友人に残したい、お世話になった病院に寄付したい、母校に寄付したい、公益事業に寄付したい等様々なニーズもあるでしょう。

遺言で誰に何を残すのか(遺贈)を明確にしておく必要があります。

(3)これまで生前贈与をしてきた場合・特定者に生命保険がおりる場合(特別受益)

①特別受益とは何か

法定相続人に生前贈与をしてきたとか、特定の相続人に生命保険金が支払われる場合などの問題です。

特別受益とは、亡くなった方(被相続人)から相続人が生前に贈与を受けるなどした利益(死後に受けた贈与も含みます)があった場合に、利益を受けた相続人とそうでない相続人の間の不平等を是正するものです。

例えば、兄弟2人が相続人、相続財産が1億円、兄が被相続人の生前に1千万円の贈与を受けていたとします。

この場合、1億円+1千万円を相続財産として扱います。

この生前贈与の1千万円を相続財産に繰り入れる扱いを「特別受益の持ち戻し」といいます。

兄・弟ともに法定相続分に従って半額ずつ5千5百万円を相続する場合、兄はすでに1千万円をもらっていますので、兄に4千5百万円、弟に5千5百万円相続する、という扱いになります。

なお、生命保険の保険金は保険金受取人の「固有の権利」であり、相続財産に含めず(持ち戻しをせず)、保険金受取人についても特別受益者としないのが通例です。

ただし、これも例外があります。専門家のアドバイスを受けておくことをお勧めします。

②特別受益の持ち戻しをさせたくない場合の対応

遺言により「持ち戻しの免除」をあらかじめ定めておくことができます。

例えば、被相続人の意思として、長男は自分の事業の後継者として、特別の教育経験を積ませたかったから学資を出した、等といった場合であれば、「生前贈与があったとしても、その分は特別受益の計算を行わない」という扱いを遺言で定めておくことが可能です。

ただし、遺言書にどのように記載するか、また持ち戻しの免除で遺留分を侵害することがないか等、専門的な検討が必要です。

特別受益について詳しくはこちらの記事をご覧ください。

(4)これまで特定の方のお世話になってきた場合

被相続人の事業に貢献したとか、療養看護に尽くしてきた方などについてちゃんと報いたい、という場合にも遺言で明記することが役に立ちます。

民法では法定相続人の「寄与分」とか法定相続人以外の「特別寄与料」という制度で明記されていますが、詳しく知っている人は少ないでしょう。

法律の制度を確認したうえで、被相続人の意思として遺言に明記しておくことをお勧めします。

専門家のアドバイスを受けてください。

①共同相続人の「寄与分」

例えば、次のようなケースです。

長男が被相続人の事業を手伝ってきた、次男が被相続人の事業に資金を提供していた、長女が仕事をやめて入院中の世話に尽くしてくれた。

相続人間の協議で、寄与分はその人の相続財産に加えることができます(共同相続の財産から寄与分は除いて計算し、当該相続人が寄与分を相続します。民法904条の2)。

遺言で寄与分の指定も可能です。

②共同相続人以外の親族の「特別寄与料」

共同相続人でなくても、親族で被相続人の事業に貢献したとか、療養看護に尽くしてきた方については、「特別寄与料」の支払いを相続人に請求できるようになりました(民法1050条)。

これも、遺言で明記しておけば、相続人の協議より優先します。

お世話になった親族に確実に報いることができます。

③親族以外の方への遺贈

「寄与分」は法定相続人、「特別寄与料」は法定相続人以外の親族についての制度ですが、このような方以外でも、お世話になった方に遺言で相続財産を遺贈することはもちろん可能です。

(5)遺言で認知したい場合

結婚していない女性との間で子供ができたが、妻や家族などのトラブルなどを恐れて生前には認知できなかった、という場合などでは、遺言により認知することができます(遺言認知)。

これによりその子供は晴れて子となり、相続権も発生します。

ただし、認知される子供の承諾が必要です(子供が未成年の場合には母親の承諾)。

また遺言執行者を定めておくことも必要です。

必ず専門家のアドバイスを受けておくべきです。

(6)遺言で相続人を廃除したい場合

相続人による虐待や重大な侮辱行為がある場合に、こんな相続人には相続させたくない、ということもあるでしょう。

遺言で特定の相続人を相続人から外す「廃除」という方法が認められています(民法893条)。

遺言執行者が相続開始後に家庭裁判所に廃除の請求をして、認められればその相続人は廃除されます。

廃除ができる要件も手続きも厳格に定められています。

専門家の助言を得て対応してください。

なお、この他に被相続人に対する犯罪行為などで「相続欠格」として法定相続の権利が剥奪されることもあります(民法891条)。

仮に該当しそうなケースがあれば、専門家に相談しておくべきです。

(7)記載方法に自信がない場合

ここまででもお分かりの通り、遺言書はちょっとした記載の違いで効力に問題が生じます。

遺言には厳格な様式が定められており、これに従っていないと無効になってしまいます。

決して独りよがりで書いてはいけないものなのです。

一般に用いられている遺言の種類と、注意点に触れておきます。

①自筆証書遺言

全文自筆で書くやり方です(ワープロなどはだめです)。

日付や署名押印なども必須です。

誰にも知られずに書くことができますが、逆に間違いを起こしやすいものです。

書き方などの注意点は次の記事を参照してください。

②公正証書遺言

公証人の面前で2人の承認に立ち会ってもらって、遺言者が公証人に遺言の趣旨を口頭で説明(口授)、公証人に遺言書を作ってもらうやり方です。

法律の専門家である公証人が作ってくれるので、内容・形式の不備はまずありえません。

しかも、遺言書は公証人役場で保管してくれます。多少の費用は掛かりますが安全確実なやり方です。

詳細は次の記事を参照してください。

このほかに「秘密証書遺言」等もありますが、一般的ではないので説明は省略します。

(8)適切な保管ができない場合

遺言書は相続人には見られたくないし、知られたくないでしょう。

とはいえ、自分だけが分かる場所に保管していると、いざ相続発生時に法定相続人など関係者が遺言書を見つけられない、作ったのに役立たない、ということになりかねません。

また、紛失・毀損といったおそれもあります。

公正証書遺言がその点ではお勧めですが、公証人にも2人の証人にも内容が知られてしまうのを嫌がる人もいるかもしれません。

どの様式の遺言を作り、どのように保管するか、ということも専門家のアドバイスを受けておくべきです。

2、遺言書に書くことのまとめ

以上も踏まえて、遺言書に書くべき代表的な事項をまとめておきましょう。

(1)身分関係

  • 相続人の廃除・欠格
  • 子の認知

これらは遺言執行者によって家庭裁判所に申し立ててもらって初めて効力が生じます。

(2)相続分の指定(民法902条)

法定相続分にかかわらず、遺産の取り分を、遺言者が自由に決定することも可能です。

たとえば、妻に少し多めに、疎遠な子供たちは少なめに、などといったことです。

(3)遺産分割方法の指定・分割の禁止(民法908条)

遺産の分割方法を指定したり(居宅は妻に相続させるなど)、分割方法を第三者に委託するといったことも可能です。

また、相続時のもめごとを避けたいといった事情で、相続開始から5年を超えない期間で、遺産分割を禁ずることもできます。

(4)遺贈などの相続財産の処分に関すること(民法964条)

相続人以外の人への相続財産の遺贈を定めることができます。

(5)遺言執行者の指定または指定の委託

遺言執行者は、預貯金の名義変更や土地の変更登記のような手続を執行してくれる人です。

前述の廃除や認知などもこれらの手続きの一つです。

遺言で遺言執行者を指定したり、第三者に指定を委任することが出来ます。

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