相続税には基礎控除があります。
これをご覧になっている方には、平成27年1月1日からの相続税改正によって、
- 自分の相続税がいくらになるのか?
- 相続税はどうやって計算すれば良いんだろう?
と漠然と悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
国税庁の発表では、今回の改正によって、これまでの相続税課税割合が全国平均約4%でしたが、約1.5倍つまり約6%になるだろうと言われております。
この数字は、実際に納税額があった方の割合ですので、税額控除や特例等を利用して税額がゼロになった方は含まれておりません。
ですので、結果的に納税額がゼロになったとしても、申告が必要になる方はもっと多くなるでしょう。
また、相続財産の約50%超は不動産ですので、地価の高い東京・名古屋・大阪に不動産をお持ちの方は、相続税が発生する割合が全国平均に比べ高くなると思われます。
東京だけで見ますと、課税割合が20%を超えるのではとも言われております。そのような状況で気になるのが「どのくらい相続税をおさえられるか?」ということではないでしょうか。相続税で失敗しないためにはきちんと相続税の計算方法をおさえておくことが重要です。
そこで今回は、相続税の計算において関わってくる基礎控除について、
- そもそも基礎控除とはどういうものか
- 基礎控除の金額はいくらか
などについて記載していきます。ご参考になれば幸いです。
相続税の非課税について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
1、相続税の基礎控除とは?
基礎控除の金額が大きいほど支払う税金は少なくて済みます。
(1)相続税の基礎控除とは?
相続税の基礎控除とは、課税対象の財産の額の一部を相続税の非課税枠とする制度です。
そもそも、相続税は、課税対象の財産の額が基礎控除を超えた際にかかってくる税金ですので、課税対象の財産額が基礎控除の範囲内の場合、相続税は一切かかりません。
この基礎控除ですが、平成27年1月1日から金額が引き下げられ、これまでの6割となり、課税される範囲が拡大されました。
これまで、相続税は富裕層だけの問題と捉えられがちでしたが、これからは、一般家庭のみなさまにも関わってくる問題へと変わってきております。
(2)相続税の計算方法は?
相続税を計算する際、大事になってくるのが基礎控除額です。これから具体例を見て相続税の計算方法を確認していきましょう。
【具体例】
例えば、被相続人が夫、相続人が妻、子ども2人(いずれも成人)で、課税対象の財産が次のとおりであった場合の相続税を計算しましょう。
- 不動産 :4000万円(妻が相続)
- 現金・預貯金:3000万円(子Aが相続)
- 有価証券 :2000万円(子Bが相続)
- 葬式費用 :100万円(妻が負担)
- 負債 :100万円(妻が負担)
以下では順を追ってご説明いたします。
① 課税遺産総額の算出
課税遺産総額を算出する計算式は次のとおりとなります。
課税遺産総額 = 課税対象の財産合計額 - 基礎控除額
上記の計算式をご覧頂いておわかりのとおり、課税遺産総額を算出するには、まず、課税対象の財産合計額を確認しなければなりません。
課税対象の財産合計額は次の通りの計算式となります。
課税対象の財産合計額=(相続財産 + みなし相続財産 + 3年以内の贈与または相続時精算課税制度対象の贈与)-(葬式費用 + 非課税財産 + 負債)
ここからは、上記計算式記載の項目ごとの説明と具体例で見ていきましょう。
- 相続財産
現金、預貯金、有価証券、不動産などが対象です。
- みなし相続財産
生命保険金、死亡退職金(死亡後3年以内の支給)などが対象です。
- 3年以内の贈与または相続時精算課税制度対象の贈与
被相続人の死亡前3年以内に相続人へ贈与した財産または相続時精算課税制度を利用して相続人へ贈与した財産が対象です。
- 葬式費用
被相続人に通夜・葬式(葬儀料・お布施・火葬・納骨・弔問客への飲食代等含む)に掛った費用が対象です。なお、香典返しの費用、墓石や墓地の買入れ費用、法事費用は葬式費用には含まれません。
- 非課税財産
墓地・墓石等、死亡保険金の一部、死亡退職金の一部などが対象です。
※死亡保険金や死亡退職金は、500万円×法定相続人数の金額が非課税となります。
- 負債
借金(連帯債務含む。)、ローン、税金未納分、医療費未払分が対象となります。なお、墓石や墓地の買入れ費用未払分は控除対象にならず、保証債務も原則控除対象にはなりません。
以上により、課税対象の財産(不動産 + 現金・預貯金 + 有価証券 ― 葬式費用 ― 負債)は、8800万円となります。
そこから、基礎控除額を差し引きます。
基礎控除は、『3000万円+600万円×法定相続人の数』となりますので、
課税遺産総額は、
8800万円 ― {3000万円 + (600万円 × 3人)}
=4000万円(課税遺産総額)です。
② 課税遺産総額を法定相続割合で分配
課税遺産総額:4000万円
妻 :4000万円 × 1/2 (法定相続割合)= 2000万円
子A:4000万円 × 1/4 (法定相続割合)= 1000万円
子B:4000万円 × 1/4 (法定相続割合)= 1000万円
③ ②で得られた金額に相続税率・控除額を適用して相続税総額を算出
妻 :2000万円 × 15% (税率)― 50万円(控除額)=250万円
子A:1000万円 × 10%(税率)=100万円
子B:1000万円 × 10%(税率)=100万円
相続税の総額:450万円
④ 相続税の総額に各相続人が実際に取得した財産の割合を掛ける
妻 :450万円×(3800万円(不動産、葬式費用、負債)/8800万円)≒195万円
子A:450万円×(3000万円(現金・預貯金)/8800万円)≒153万円
子B:450万円×(2000万円(有価証券)/8800万円)≒102万円
⑤ 特例控除の確認と相続税の確定
妻:配偶者控除(※)適用により納税額は0円
子A・Bは差し引く税額控除がないため、それぞれ、153万円と102万円の納税額となります。よって、相続人全員が納付する相続税額は255万円となります。
※配偶者控除とは
被相続人の財産形成への貢献度や将来の生活を保障するための控除制度です。実際に取得した財産が1億6000万円以下か、法定相続分以下のいずれかの場合、相続税は一切かかりません。
(3)基礎控除の金額が大きいほど支払う税金は少なくて済む
以上のとおり相続税の計算式をご説明しましたが、結局、課税遺産総額を低く抑えることができれば相続税も安くなるのです。
では、課税遺産総額を低く抑えるにはどうしたらよいのでしょう?
計算式を今一度ご覧いただきましょう。
『 課税対象の財産合計額 - 基礎控除額= 課税遺産総額 』
いかがでしょうか?
そうです、基礎控除額を増やせば良いのです。
基礎控除額 = 3000万円 + 600万円×法定相続人の数
でしたね。
つまり、法定相続人が多くなれば、基礎控除額が増え、支払う税金も安くなるのです。法定相続人を増やす方法について詳しくは「3、基礎控除額を増やすことによる節税方法」をご参照ください。
2、基礎控除の金額は?
(1)基礎控除の金額は?
これまで何度か登場して参りましたが、改めて基礎控除の金額についてご説明いたします。基礎控除の金額は、次のとおり改正となりました。
課税対象の財産の額8000万円、法定相続人3名の場合で改正前と後で見てみましょう。
【平成26年12月31日迄】
基礎控除額 =5000万円+1000万円×法定相続人の数
8000万円=5000万円+1000万円×3名
【平成27年1月1日以降】
基礎控除額 =3000万円+600万円×法定相続人の数
4800万円=3000万円+600万円×3名
ご覧のとおり、相続税の基礎控除額は、これまでの6割となります。
上記具体例の場合、改正前でしたら、課税対象の財産の額から基礎控除を差し引きますとゼロになりますので、相続税は一切かからずに済みました。
しかし、平成27年1月1日以降は、差額の3200万円について、一定の割合で相続税が掛ってくることとなります。
なお、法定相続人の数の数え方については以下の点について注意が必要です。
- 相続放棄があっても、相続放棄がなかったものとする
- 被相続人に実子がいる場合は、養子のうち1人までが法定相続人となる
- 被相続人に実子がいない場合は、養子のうち2人までが法定相続人となる
(2)基礎控除の具体例
それでは、具体例で見ていきます。
今一度、基礎控除の算出式を確認しましょう。
基礎控除額 =3000万円+600万円×法定相続人の数
①相続人が配偶者のみの基礎控除
3000万円 +(600万円×1人)= 3600万円
②相続人が配偶者と子供1人の場合の基礎控除
3000万円 +(600万円×2人)= 4200万円
③相続人が配偶者と子供2人(内、1人は相続放棄済み)
3000万円 +(600万円×3人)= 4800万円
※相続放棄の方も法定相続人として数えます。
④相続人が配偶者と、実子1人、養子1人の場合の基礎控除
3000万円+(600万円×3人)=4800万円
⑤相続人が配偶者と、実子1人、養子2人の場合の基礎控除
3000万円+(600万円×3人)=4800万円
※実子がいる場合、養子は1人までしか法定相続人として算入できません。
⑥相続人が配偶者と、養子3名の場合の基礎控除
3000万円+(600万円×3人)=4800万円
※実子がいない場合、養子は2名までしか法定相続人として算入できません。
配信: LEGAL MALL