視聴者の「耳」に訴えるお天気キャスター| 木原実 日本テレビお天気キャスター④

紋切型はダメ! 表現を毎回変えて危機意識をもってもらう

気象予報士としてテレビで天気予報を伝えています。テレビというメディアを通して、不特定多数を相手に何かを伝えることは、対面で人と会って何かを説得する場合とは違うアプローチが求められます。気象情報が出ていない限りは、防災の話はなかなかできません。天気コーナーの気象予報士として非力なところも感じますが、番組の天気コーナーの2分半と4分半という枠の中でできることは何かを考えています。「発生して今すぐ人が死んでしまうかもしれない」。地震についてどう伝えていくかということに関心を持つようになりました。

この結果、お天気キャスターとして伝える言葉では、紋切型にならないように心がけています。注意報や警報が出ている時は、「気象情報にお気をつけください。以上、天気予報でした」というように締めくくる言葉が、たいてい一緒になってしまいます。そうすると、形骸化してしまい、危険が視聴者に届きにくくなるように感じています。

だから僕は、なるべく毎回違うように言おうと思っています。言わなければいけないことは決まっているのですが、出演している日本テレビの「news every.」で、天気コーナーは4回あります。4回を違う表現にしたいなと思っています。伝えなければならない情報は同じでも、例えば、「気温は上昇して融雪洪水や雪崩にご注意ください」と4回聞いていると、聞き逃しますよね。あえて、「積雪の多いところでは屋根からの落雪にご注意ください」と表現したり、「山では雪崩が起きやすくなりますのでご注意ください」または「雪解けの洪水など心配ですね」と伝えたりします。引っかかる、視聴者の耳に引っかかるような言葉にしたいと思っています。

ライブ感のある「自分の言葉」、生放送ではとりわけ重要

あえて、天気予報を伝える文言のテンプレートから外れようと思っています。これは、いいことではないのかもしれません。減点されるかもしれませんが、記憶に残るような加点ができる要素があると考えています。テレビは生きている媒体です。しかも、ニュースは生放送です。完璧につらつらと話してしまうと、視聴者の耳に引っかからないんじゃないかと思います。大事なことを伝える際に、あえて1秒ほどの間を置くなどすると、「どうしたんだろう」と変化に気づきます。そういう意味であえて緊張感をつくることがありますね。台風情報をお伝えするために、急きょスタジオに入った時も、あえて自分の緊張感をそのまま視聴者にも受け止めてもらおうと思っています。「今度の台風は今年で一番強いです」とするなど、なるべく耳に引っかかるような、記憶に残る言葉を探しています。

生放送のお客様である大勢の視聴者の方に見てもらうためには、ライブ感のある新鮮な言葉でお伝えしなければいけないなと思っています。天気予報も、明日の特徴として最初に何を伝えたらいいかを考えています。「晴れ時々曇り」ということを伝える場合も、「晴れて時々曇るんです」「今日よりは明日の方が雲が出やすいんです」など、「自分のこと」として感じてもらえるようにしています。そして、地震などいざという時に危機もきちんと届けることができるようにしたいです。

<プロフィル>

木原 実(きはら みのる)

日本テレビお天気キャスター・気象予報士・防災士

日本大学芸術学部演劇学科卒業。1986年から日本テレビでお天気キャスターを務め、現在は「news every.」(日本テレビ)で、キャラクターの「そらジロー」とお天気コーナーを担当する。1995年に気象予報士、2004年に防災士の資格を取得。日本防災士会常任理事をはじめ、2011年には内閣府「災害被害を軽減する国民運動サポーター」に就任した。このほかナレーターや声優、舞台俳優としても活動している。

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