3、地獄の高額婚姻費用を減額する方法
あなたが有責配偶者であったとしても、離婚請求は通らなくても婚姻費用の減額を請求することはできます。
離婚できずに高額な婚姻費用を払い続けて婚姻費用地獄に陥る前に、婚姻費用の減額交渉を検討してみましょう。
ここでは、婚姻費用を減額するためのポイントや手順を以下の通りご紹介します。
- 婚姻費用の減額要因
- 婚姻費用を減額できる具体的ケース
- 婚姻費用を減額できない具体的ケース
- 婚姻費用を減額する手順
(1)婚姻費用の減額要因
婚姻費用の減額は当事者同士の協議で交渉を行うことになりますが、協議で合意を得られない場合には調停(調停委員が介入して双方の意見を調整し話し合いで合意を目指す手続き)に移行します。
調停になれば、一定の条件を満たしていなければ減額請求は認められない可能性が高いです。
婚姻費用を変更するための要因は、「協議又は審判があった後に事情に変更を生じたとき」であることが民法第880条に定められています。
つまり、婚姻費用の合意から事情の変更があり、婚姻費用の金額を変更することが相当であると認められた場合に婚姻費用の減額が成立すると考えられます。
(2)婚姻費用を減額できる具体的ケース
婚姻費用の協議や審判の後から事情に変更があり、婚姻費用を減額することが相当であると判断されるような場合であれば減額される可能性があります。
婚姻費用の減額が認められるケースは、次のようなケースです。
①給料が減ってしまった場合
婚姻費用の取り決めを行った時よりも、義務者(婚姻費用を支払う側)の給料が減ってしまった場合には減額が認められる可能性があります。
ただし、勤務先の業績悪化などで大幅に給料が減ってしまった場合には認められる可能性がありますが、意図的に収入を減らしたような場合には減額は認められません。
また、給料が減ったといっても少額であれば認められず、生活水準が変わるほど大きく変動があった場合に限られます。
具体的には以下で紹介する
- リストラにあった
- ケガや病気で収入が減少した
などのケースが該当します。
②リストラにあってしまった場合
リストラされてしまい、離職せざるを得ない状況になってしまった場合には収入源がなくなってしまうため減額が認められる可能性があります。
しかし、
- 勤務先の事業縮小
- 倒産
などやむを得ない事情に限られます。
部署異動などを行えば辞める必要がなかった場合など、離職せずに済む手段があった場合には、減額は認められない可能性もあります。
③ケガや病気で治療が必要な場合
ケガや病気になってしまい、治療が必要になるため仕事を休職しなければならないような場合には減額が認められる可能性があります。
ただし数週間の休職ではなく、長期的な治療が必要で相当な減収が見込まれる場合が該当します。
(3)婚姻費用を減額できない具体的ケース
婚姻費用の減額を請求しても、請求が認められない場合もあります。
婚姻費用の減額が認められない具体的なケースは次の通りです。
- 給料や資産の減少にやむを得ない事情がなかった場合
- 子どもに会わせてくれないという理由による婚姻費用の減額請求
- 相手が生活費に困っていないという理由による婚姻費用の減額請求
①給料や資産の減少にやむを得ない事情がなかった場合
前述の通り義務者の給料や資産が大幅に減少すれば減額が認められることもあります。
しかし、給料や資産の減少にはやむを得ない事情があった場合には減額が認められますが、義務者の努力で回避できたと判断されるような場合には減額は認められません。
実際に大阪高裁平成22年3月3日の審判では、歯科医の夫が勤務先の病院を退職して収入が減少したことを理由に婚姻費用の減額を申立てていますが、退職理由がやむを得なかったものか明らかにする証拠がなく、仮に退職がやむを得なかったとしても資格や経験からみて同等の収入を得られる能力があると判断されて減額は認められませんでした。
つまり、給料や資産の減少にやむを得ない事情があったことが証明でき、金額を変更する必要性があると判断されるような事情がなければなりません。
参考:裁判所
②子どもに会わせてくれないという理由による婚姻費用の減額請求
権利者(婚姻費用を受け取る側)が子供を連れて家を出て行った場合、子供に会わせてくれないようなケースもあるでしょう。
しかし、子供に会わせてくれないからという理由で減額を請求することは出来ません。
婚姻費用とは夫婦や子供が生活を維持するために必要な生活費であり、その費用は夫婦が収入能力に応じで負担することが義務付けられています。
そして、親には未成年の子供を扶養する義務もあるため、会えないという理由では減額請求しても認められることはありません。
③相手が生活費に困っていないという理由による婚姻費用の減額請求
権利者が実家に身を寄せている場合、
- 住居
- 食費
- 生活消耗品
などは実家からの援助を受けることになるため生活費には困っていないと考えることもあると思われます。
しかし、実家に戻っているから生活費に困っていないだろうという理由では減額請求は認められません。
なぜならば、実家に権利者が身を寄せて受けられる住居や生活などの支援は実家からの援助(贈与)であると考えられるからです。
そのため、婚姻費用の分担額に影響することはなく、減額は認められないでしょう。
(4)婚姻費用を減額する手順
婚姻費用の減額を請求する場合、次のような手順で請求を行います。
- 交渉
- 婚姻費用減額請求調停
① 交渉する
婚姻費用の減額請求を行う最初の段階は、当事者同士の協議です。
相手に事情の変更(収入が減ったなど)があった旨を伝えて納得してもらえるように交渉します。
相手が減額に合意した場合には、再度合意書の作成を行います。
また、弁護士に依頼すれば交渉を任せることができ、当事者同士で交渉を行うよりもスムーズに話し合いが進みやすくなります。
② 婚姻費用減額請求調停
協議で合意を得られなかった場合には、家庭裁判所の婚姻費用減額請求調停を利用することになります。
調停員によって意見調整が行われますが、調停でも合意に至らない場合には審判へ移行します。
審判へ移行すれば何らかの結果は確実に得られますが、問題解決までに時間を要してしまうため、協議で合意を得られるように交渉することが重要になると言えます。
4、婚姻費用地獄から解放されるための根本的解決策とは
婚姻費用地獄から解放されるには、婚姻費用の減額交渉を行うことだけではなく根本的な部分から解決を目指す必要があります。
根本的解決策は次の通りです。
- 夫婦関係の破綻原因を特定する
- 配偶者の気持ちを否定しているうちは解決できない
(1)夫婦関係の破綻原因を特定する
婚姻費用のトラブルを抱える人は、事実上夫婦関係が破綻しているケースが多いです。
夫婦関係が破綻しているからこそ相手は高額な婚姻費用を請求し、あなたも婚姻費用を支払いたくないと考えてしまうのです。
例えば
- 夫婦関係が破綻した時期
- 理由
- これまでの生活状況
などを紐解きながら夫婦関係の破綻原因を解明していきましょう。
夫婦関係を再構築できる余地があれば、話し合いを進めてみましょう。
修復が難しいのであれば離婚準備を進めることになります。
(2)配偶者の気持ちを否定しているうちは解決できない
別居している場合「自分は何も悪いことをしているつもりはないのに、相手が勝手に出て行った」と考えている方もいるでしょう。
この場合、配偶者の気持ちを否定していて自分のことしか考えられていない状態です。
配偶者の言い分を聞いて理解しようと努めない限りは問題の根本解決は難しく、夫婦関係の修復は難しいと言えます。
相手の気持ちを否定せずに受け入れることから始めてみてください。
配信: LEGAL MALL