殺人罪に時効はない?刑罰を軽くするために知るべき7つのこと

殺人罪に時効はない?刑罰を軽くするために知るべき7つのこと

3、殺人罪の公訴時効はなぜ廃止された?

公訴時効制度が定められている趣旨は、

  • 事件後の時間の経過によって被害者側や社会の犯人に対する処罰感情が消滅すると考えられること
  • 証拠の散逸により真実の発見が困難となること

などです。

しかし、凶悪な殺人犯等が、25年だけ逃げ切って処罰を免れるケースが実際に複数件発生しています。

結果として、遺族の方々から「納得できない」「殺人罪等の重大事件については公訴時効が撤廃されるべきである」といった声が、相次いで起こりました。

人の生命を奪うような重大事件については、時間の経過によって処罰感情が消滅するという公訴時効制度の趣旨は、必ずしも当てはまらないといえます。

以上のような動きを背景として、刑法および刑事訴訟法が改正され、2010年4月27日以降は殺人罪の公訴時効が廃止されました。

参考までに、この改正による公訴時効の変更点をまとめておきます。

公訴時効の有無や刑罰は、法定刑(罪名ごとに法律で定められた刑罰)に応じて定められており、改正前と改正後を比較すると以下の表のとおりになっています。

 

法定刑                      

 

改正前の公訴時効期間

  改正後の公訴時効期間

人を死亡させた罪のうち、法定刑の上限が死刑であるもの(殺人罪等)                   

 

25年  

 

 

公訴時効廃止

 

人を死亡させた罪のうち、法定刑の上限が無期の懲役・禁固であるもの(強制性交等致死罪等)        

 

15年  

 

 

30年  

 

人を死亡させた罪のうち、法定刑の上限が20年の懲役・禁固であるもの(危険運転致死罪等)        

 

10年  

 

 

20年  

 

人を死亡させた罪のうち、法定刑の上限が懲役・禁固で、上記のいずれにも該当しないもの(過失運転致死罪等)

5年または3年    

 

10年  

 

4、時効の廃止後も殺人罪で公訴時効が成立するケース

現行法のもとでも、以下の2つのケースでは殺人罪でも公訴時効が成立します。

(1)時効廃止前に公訴時効が成立していた場合

時効廃止前、つまり2010年4月26日以前に公訴時効が成立していた場合は、もはや犯人が罪に問われることはありません。

なお、公訴時効が進行し始めるのは、犯罪行為が終わったときからです(刑事訴訟法第253条)。

例えば、1985年4月1日に殺害行為が行われ、その後25年の間に犯人が起訴されなかった場合は、時効廃止前に公訴時効が成立していることになります。

この場合には、犯人は起訴されることも処罰されることもありません。

ただし、犯人が国外にいる場合、または逃げ隠れしているために起訴状の送達等が行えなかった場合には、その間、時効の進行は停止します(刑事訴訟法第255条1項)。

公訴時効廃止より25年以上前に殺害行為が行われた場合でも、犯人が国外にいたり、起訴を免れるために逃げ隠れていたりした場合には、2010年4月27日時点で公訴時効が成立していない可能性もあります。

殺害行為が行われたのが時効廃止前でも、2010年4月27日の時点で公訴時効が成立していない場合は、現行法が適用されますので、公訴時効にかかりません。

この場合は、殺害行為から何十年が経過しても、犯人は逮捕され、処罰される可能性があります。

(2)同意殺人罪の場合

2つめのケースは、単純な「殺人罪」ではなく、「同意殺人罪」の場合です。

同意殺人罪とは、被害者の承諾を得て、または被害者から頼まれて殺害する犯罪です。

同意殺人罪の法定刑は、6月以上7年以下の懲役または禁錮ですので、現行法のもとでは10年の公訴時効が適用されます。

そのため、同意殺人の実行行為から10年間起訴されなければ、犯人は起訴されることも処罰されることもなくなるのです。

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