交通事故の治療の流れは?損しないために知っておくべきポイント

交通事故の治療の流れは?損しないために知っておくべきポイント

3、交通事故の治療費で使える保険は3種類

交通事故のケガで治療を受ける場合、自動車保険だけでなく労災保険と健康保険も使うことが可能です。

ここでは、それぞれの保険による補償額の違いについてみていきましょう。

(1)自動車保険

多くの場合、交通事故の治療では相手方が加入している自動車保険が使われます。

被害者に過失がない又は小さい場合は、基本的に、被害者の治療費は相手方加入の任意保険会社から医療機関へ直接支払われますので、被害者が病院の窓口で立て替え払いをする必要はありません。

なお、自動車保険を使えば、治療費だけでなくあらゆる損害が補償されます。

主な補償項目として、以下のようなものがあります。

  1. 入通院慰謝料
  2. 入院雑費
  3. 付添看護費
  4. 通院交通費
  5. 休業損害
  6. 後遺障害慰謝料
  7. 後遺障害逸失利益
  8. 車の修理代
  9. 代車費用
  10. 評価損 など

なお、相手方が任意保険(その中でも対物賠償保険)に加入しておらず、自賠責保険しか使えない場合は、物損に関する損害(上記8.~10.)は保険では補償されないので、相手方自身に賠償してもらうことになります。

人身損害についても、自賠責保険のみですと上記1.~5.の損害については合計120万円、6.と7.の損害については合計4,000万円といった上限がありますが、相手方が無制限の任意保険に入っていれば相手方保険会社から法的に適正な補償を受けることができます。

(2)労災保険

仕事中や通勤中の交通事故でケガをして治療を受ける場合には、労災保険も使うことができます。

労災で補償される損害項目は、以下のとおりです。

  1. 療養補償給付(療養給付)
  2. 休業補償給付(休業給付)
  3. 傷病補償年金(傷病年金)
  4. 障害補償給付(障害給付)
  5. 介護保障給付(介護給付)
  6. 遺族補償給付(遺族給付)
  7. 葬祭料(葬祭給付)

自動車保険の場合と名称が異なるので分かりにくいですが、治療費については1.で全額補償されます。ただし、労災の認定を受ける前に治療を受けた分や、指定医療機関以外の病院で治療を受けた分については、基本的に被害者が窓口でいったん治療費を立て替え払いする必要があります。

休業損害は2.に該当しますが、労災の場合は休業4日目以降について、従前の平均給与の80%(特別支給金20%含む。)が補償されます。

なお、労災には慰謝料に該当する賠償項目はありませんし、物損も補償の対象となりません。そのため、自動車保険を使った場合よりも補償額は限られたものになってしまいます。

ただし、労災から補償を受けた上で、不足部分について自動車保険に賠償を請求することができます。

労災保険には、自動車保険を使う場合よりも早期にお金を受け取れることや、上限額がないこと、過失相殺が行われないなどのメリットがあります。そのため、まずは労災保険を使い、後から差額について相手方加入の任意保険会社に請求するのもよいでしょう。

(3)健康保険

交通事故の相手方が任意保険を使わない場合や無保険の場合などには、被害者自身の健康保険を病院で使うこともできます。

健康保険を使う場合、治療費については被害者が窓口で一定額(現役世代の方は3割)を立て替え払いする必要があります。立て替え払いした治療費については、後で相手方または相手方側保険会社へ請求することになります。

健康保険では、治療費の他にも「傷病手当金」といって、休業損害に該当する手当金を受け取ることができます。ただし、傷病手当金が支払われるのは休業4日目以降で、従前の平均給与の3分の2の金額に限られます。したがって、労災保険や相手方の任意保険を使える場合は、そちらを使う方が得策といえます。

以上の3種類の保険について、主な特徴を次の表で比較してみましたので、参考になさってください。

なお、次の表は被害者に過失がない場合を前提にしていますので、被害者にも過失がいくらか取られる場合は、相手方加入の任意保険会社が後から被害者の過失分の負担を被害者に対し要求することもあります。

 

 

自動車保険

(任意保険)

労災保険

健康保険

治療費

 全額補償

全額補償

 一部自己負担あり

休業補償

 平均給与の100%

平均給与の80%

平均給与の3分の2

慰謝料

補償あり

補償なし

補償なし

逸失利益

補償あり

      補償あり    

補償なし

窓口負担

なし

        なし       

一部負担あり

上限額

契約による

なし

ただし、休業補償給付(休業給付)は1年6か月まで。

なし

   過失相殺  

される

されない

されない

4、交通事故の治療はいつまでするの?交通事故における「治療期間」の意味

交通事故の損害賠償では、いつまで治療を続けるのかという「治療期間」が重要な意味を持ちます。

そこで、ここでは交通事故における治療期間の意味についてご説明します。

(1)治療は「完治」か「症状固定」まで

交通事故の治療は、ケガが「完治」するか「症状固定」となるまで続けましょう。

完治とは、ケガが完全に治って元通りの状態に回復することをいいます。「治癒」ともいわれます。

注意が必要なのは、治療を受けて痛みがなくなったとしても、完治とは限らないということです。自分で痛みを感じなくても、医学的に見れば何らかの後遺症が残っていることもあり得ます。医師が「完治」「治癒」と診断を下すまでは、医師の指示に従って通院を続けるべきです。

症状固定とは、治療を続けても完治しない場合で、それ以上ケガの治療を続けても症状が変化しない状態に至ることをいいます。この場合も、自己判断で治療をやめるのではなく、医師が「症状固定」と診断を下すまでは治療を続けましょう。

(2)交通事故では「治療期間」が大切

交通事故で治療期間が大切な理由は、治療期間が入通院慰謝料の算定基準となるからです。

入通院慰謝料とは、交通事故で被害者がケガをして苦しい思いをしたことや、治療のために入通院することを余儀なくされたことによる精神的苦痛を慰謝するために支払われる賠償金のことです。

本来は被害者の精神的苦痛に応じて金額が計算されるべきものですが、人の精神状態を客観的に測るのは難しいことと、公平な賠償を実現する必要性があることから、基本的には、治療期間の長短に応じて金額が定められることになります。「完治」の場合も「症状固定」の場合も、医師が診断を下す前に自己判断で治療をやめてしまうと、それまでの期間に相当する金額しか入通院慰謝料をもらえなくなってしまいます。適正な慰謝料を受け取るという意味でも、医師の指示に従って治療を続けることは重要といえます。

(3)治療期間のDMK136とは?

交通事故でケガをして治療を受けていると、途中で保険会社から治療費を打ち切りたいと打診されることがあります。まだ治っていなくても、「一般的にはもう治る時期なので、治療費の賠償はここまでにしたい」というわけです。

保険会社が治療費の打ち切りを打診するまでの期間として目安にしているのが、「DMK136」といわれるものです。「D」は打撲、「M」はむちうち、「K」は骨折を意味します。一般的に打撲は1か月、むちうちは3か月、骨折は6か月で治癒するといわれているため、その期間を過ぎても被害者が治療を続けている場合は、保険会社が治療費の打ち切りをしてくるのです。打ち切りの打診を受けた場合は、医師によく相談して、まだ治療の必要性があれば治療を続けましょう。それでも保険会社が強引に治療費を打ち切った場合は、健康保険を使って治療を続けた上で、打ち切り後の治療費も後で保険会社へ請求することが可能な場合があります。

なお、打ち切りされないためには適切な頻度で通院しておくことも大切です。仕事などが忙しいからといっても、たまにしか通院しなければ保険会社から「軽傷だろう」「治療の必要性が乏しい」と判断されて、治療費を打ち切られやすくなります。むちうちのケースであれば、一般的に週に2~3回のペースで通院するのが適切と考えられます。

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