3、親権者変更が可能となる場合とは?
では、調停の申立てさえすればどのような場合でも親権の変更はできるのでしょうか?
親権が変更できる場合についてみていきましょう。
(1)親権者の変更は簡単にはできない!
結論からいうと、親権の変更が認められる場合は限られています。
それは、一度決めた親権を簡単に変更すべきではないという考えに基づいています。
つまり、子供の福祉や利益が最大限考慮されることは当然ですが、一旦は、どちらか一方に親権者が定められている以上、容易に変更すべきではないという考えがあります。
そのため、裁判所が離婚時に親権者を決めるために考慮する事情と、離婚後に親権者を変更するために考慮する事情は異なります。
つまり、親権変更の場合には「どちらが子どもを育てるのに適切な親権者か」、ということに加え、「離婚時に比較して現在の親権者による養育環境は悪化したか。悪化の程度はこのまま親権者を維持するべきではないと考えるほどのものか」という点も重視されます。
ちなみに、父母の間で親権変更について合意があれば比較的親権変更は認められやすくなりますが、合意がない場合、親権者変更調停でも親権を変更するのは大変難しいでしょう。
(2)具体的に親権者変更が認められるような場合とは?
親権者変更が認められる一例としては以下の通りです。
- 親権者が、ギャンブルや恋愛にのめりこんでこどもの世話をせずに、放置している場合
- 親権者が子どもを虐待しているような場合
- 親権者が死亡してしまった場合で親権を変更することが子どもの成長によいと思われる時
(3)不倫をした側であっても親権者変更調停の申立ては可能!
ちなみに、有責配偶者であっても親権変更の申立ては可能です。
離婚に至った直接の原因が浮気であったとしても、親権は別問題として捉えるため、有責配偶者であることをもって、直ちに親権者としての資格がないとは言いきれないからです。
あくまで、どちらの親に養育された方が子どもにとってメリットが大きいか、という見地から判断されることとなります。
4、親権者変更にあたり基準となる事情は?
親権の変更を勝ち取るためには、親権者変更にあたって裁判所が考慮する基準を知っておきましょう。
裁判所のホームページによると、「親権者の変更は、子どもの健全な成長を助けるようなものである必要があるので、調停手続では、申立人が自分への親権者の変更を希望する事情や現在の親権者の意向、今までの養育状況、双方の経済力や家庭環境等の他、子の福祉の観点から、子どもの年齢、性別、性格、就学の有無、生活環境等に関して事情を聴いたり、必要に応じて資料等を提出してもらうなどして事情をよく把握し、子どもの意向をも尊重した取決めができるように、話合いが進められます。」とされています。
これだけだと分かりにくいので、以下の通り分類してみました。
これらの事情を総合的に考慮した上で、親権変更を認めるべきか判断されることとなります。
(1)親権者変更調停を申し立てられた親の側の事情
親権変更調停にあたっては、申し立てられた親権者側の事情が考慮されます。
基本的に、離婚時と比較して養育環境が悪化したなどの事情がない限り親権の変更は認められないでしょう。
具体的に考慮されるのは以下の通りです。
①養育環境は悪化していないか?
養育環境は居住環境、教育環境、家庭環境などを踏まえて判断されます。
具体的には、申し立てられた側の親がギャンブルによる浪費などで生活が困窮しており、子どもに十分な食事を与えられてないような場合には、養育環境が悪化したと判断されます
②子どもに対する愛情は十分か?
親権を変更するか否かを判断するにあたっては、申し立てられた側の親の子どもに対する愛情も考慮されます。
そして、愛情の有無・程度は客観的事情を踏まえて判断されます。
具体的には子どもを虐待している場合などは愛情がないか少ないか、と判断されることになります。
③申し立てられる親の心身が健康か?
親権変更の可否は申し立てられた側の親の心身の状況も考慮されます。
申し立てられた親が重病で子どもの養育が難しいような場合には申し立てられる側の親が健康ではないと判断されます。
また、うつ病などの精神的疾患の場合にも親の心身が健康ではないと判断されます。
(2)親権者変更調停を申し立てた親側の事情
親権を申し立てた非親権者についても、基本的に申し立てられた親と同じ点について調査されます。
その上で、子どもの健全な成長のためにはいずれの親に育てられた方がよいかが判断されます。
①養育環境は適切か?
申し立てる側が定職についているために安定した収入があり、かつ子どもを毎日保育園に送り迎えできる状況にある場合には、養育環境が適切だと判断されることとなります。
②子どもに対する愛情は十分か?
ここは調停で家事審判調査官や調停委員へのアピールがポイントになりますが、子どもに対する愛情が十分だと親権を変更すべきだと判断されやすくなります。
③申し立てる親の心身が健康か?
子どもの健全な成長にあたってはやはり親が心身ともに健康であることが大前提となります。
そのため、親権変更の可否の判断にあたっても申し立てた側の親が健康であるか否かが判断材料とされます。
(3)子ども側の事情
以上のような両親の状況に加えて、子どもの事情も考慮されます。
①子の年齢
子どもが幼いほど母親が育てるべきだ、という考えがいまだ根強くあります。
そのため、母親に親権がある場合では、虐待などで養育環境がかなり悪化したような場合でない限り、親権の変更が認められることはないでしょう。
子供が15才以上の場合は子の意見を聞かなければならないことになっていますが、最近では15才以下の場合でも子の意見を聞くことが多くなっています。
具体的には、子供が自分の意思を持つ頃(だいたい12歳前後)には、裁判所は子供の意思を重視します。
②子どもの精神的安定
次に、子どものそれぞれの親に対する愛情の程度の大きさが判断されます。
やはり、愛情の大きい方がより親権者として適任だと判断されます。
これに加えて、現状の学校で担任の先生とうまくいっているか、友達とうまくいっているかなどを踏まえて、現在の教育環境を維持すべきかも考慮の対象となります。
もし、担任の先生や同級生から激しいいじめを受けているような場合には、親権を変更することにより教育環境を変えた方がよいと判断される傾向にあります。
配信: LEGAL MALL