3、親権停止がなされる具体的場面
続いて、親権停止の申し立てが行われる場面の具体例についてもご紹介していきます。
先ほどもチェックしたように、親権停止制度が活用される場面として最も多いのは、子が親から虐待を受けているケースです。
そのため、虐待の事実が何らかのきっかけで明るみに出て、子供が施設などに一時保護されている状態において、児童相談所の所長から申し立てられることが比較的多くなっています。
また、申し立て件数全体で見ると子供の親族からの申し立てが実は1番多いのですが、その申し立てがどういった結末を迎えたかというところまで追って見ていくと、たとえば2017年のデータでは以下の通り。
|
子供の親族 |
児童相談所長 |
申し立て件数全体 |
140 |
74 |
→ 認容 |
23 |
45 |
→ 却下 |
30 |
0 |
→ 取り下げ |
85 |
27 |
→ その他 |
2 |
2 |
引用:http://www.courts.go.jp/vcms_lf/20180420zigyakugaikyou_h29.pdf
子供の親族からの申し立てはその半数以上が結果的に取り下げられており、裁判所の判断によって却下されている件数も多いのに比べて、児童相談所長からの申し立てでは半数以上が親権停止を認められています。
こちらは却下が0件であることからも、子供が一時的に保護されるほどの深刻なケース=子供の利益を著しく害するケースであるとして、裁判所側も判断を下していることが分かるでしょう。
4、親権が停止されるとどうなるの?
それでは、親権停止制度によって一定の期間親権の行使を制限されると、親権者や子供の生活にはどのような影響が出てくるのでしょうか。
(1)停止されると何ができなくなるか
親権を停止された親権者は、極端に言えばその間ずっと子供との日常的な関わりを持つことができなくなります。
一緒に住む、食事を作る、身の回りの世話をするなど、本来であれば親権者に与えられている権利と義務のすべてを失うことになるので、たとえ血が繋がっていても、親として振舞うことはできなくなるのです。
(2)停止中、親権者はどうすべきか
再び子供の親として一緒に暮らしたい、親子関係を修復したいという思いがあるなら、まずは親権が停止されてしまった原因を自分自身や家庭環境から取り除くことが第一です。
「育児ストレスから子供を虐待してしまった」という場合は、専門のカウンセリングに通って同じ過ちを繰り返さないよう対策を練る、アルコールなどへの依存症がある場合も病院での治療を進める、というように、状況の改善につながる行動を起こしていきましょう。
(3)親権停止中の親権は誰が担うか
親権が制限されている親の代わりに子供の世話を行う役割のことを、民法では「未成年後見人」と呼びます。
婚姻中の両親の片方のみが親権停止となった場合は、もう一方の親が単独で親権者となりますが、離婚していてすでに単独親権者の場合や、両親ともに親権が停止された場合、審判を受けた親やその親族などが「未成年後見人の選任」を裁判所に請求する必要があるのです。
この未成年後見人制度に関しては、2012年に親権停止制度が導入された際、あわせて次のような見直しが行われており、児童福祉法の改正によって、適切な未成年後見人が見つかるまでの間は児童相談所の所長が親権を代行できるようにもなりました。
(従来の制度)
- 未成年後見人に選任できるのは1人の個人のみ
(見直し後の制度)
- 社会福祉法人などの法人も未成年後見人に選任できる
- 未成年後見人は複数名でもOK
これによって、親権停止中の後見人についてもより子供の利益を優先する選択肢が取れるようになったと考えられます。
配信: LEGAL MALL