3、日本国内における情報統制の現状
上記国々から見ると、本邦は情報流通に関して十分に自由と言えそうにも思えます。
しかしながら、2022年の世界報道自由度ランキングを改めて見てみると、日本は71位とされており、前年度から4つも順位を落としています。
低評価の主な理由は立法や報道のならわしで、2016年に来日した国連特別報告者からの指摘にもあります(報告書全文の仮訳より)。
(1)特定秘密保護法の問題点
2013年に成立した特定秘密保護法(特定秘密の保護に関する法律)は、安全保障に関する情報につき、行政機関の権限を広げて保護しようとするものです。
報告書では、国民の「知る権利」を踏まえた上で、概ね次のように指摘しています。
- 政府職員の権限拡大が、情報アクセスの保護の範囲を狭めた
- 漏えいにかかる罰則規定があることで、ジャーナリストの活動を抑制する
- 特定秘密の定義(指定され得る事項および分類条件)が十分でない
- 情報の秘密指定を適正に行う上で、その監視メカニズムが十分独立していない
(2)自己検閲の問題
日本での取材・報道は、身元のはっきりした記者が独占的に情報にアクセスできる「記者クラブ制度」を採っています。これについて報告書は、排他的であり、政府当局から記者クラブメンバーに対し定期的に交渉することもできると指摘しています。
結果、公の関心(=市民が知りたいと思っている)情報へのアクセスを多大に狭めると警告されました。
4、最新の情報統制の状況
感染症流行等の緊迫した事態が相次ぐ今、特にネット空間で情報統制に踏み切る国がいくつか見られます。これを受けた日本と西欧諸国では、あらためてインターネットの信頼性と安全性に取り組むことを確認しました。
(1)ロシアのウクライナ侵攻を受けた統制強化
2022年2月24日に始まったウクライナ侵攻では、ロシア側で内国の情報を厳しく取り締まっています。3月中だけでも、次のような対応が見られました。
- 主要SNSへの接続を遮断、独立系メディアの放送遮断
- 各メディアに公式発表に基づく報道を要求
- 自国の軍事行動につき「虚偽」の情報を広めた場合に刑罰を科す改正法の制定
参考:ロシアが情報統制急ぐ SNS遮断、報道でも世界と断絶(日経電子版)
(2)未来のインターネットに関する宣言
日本と米国・EU等を含む約60か国は、2022年4月28日に「未来のインターネットに関する宣言」を行っています。内容は下記のようになっており、情報統制を強めるロシアと中国に対するけん制の意味があります。
- 人権と基本的自由、及び全ての個人の幸福を保護、促進する
- アクセスの増加、利用可能性及びデジタルスキルの向上等を通じて、全ての人がどこ
- にいてもインターネットに接続できる
- 個人と企業が、自身が使用するデジタル技術の安全性と機密性について信頼するこ
- とができ、彼らのプライバシーが保護されている
- あらゆる規模の企業が公正で競争的なエコシステムの中で、それぞれの強みによっ
- て革新し、競争し、繁栄することができる。
- インフラが、安全で、相互運用性、信頼性及び持続可能性を持って設計されている。
- 技術が、多元主義、表現の自由、持続可能性、包摂的な経済成長及び地球規模の気
- 候変動に対する闘いを促進するために使用されている。
配信: LEGAL MALL