マネーロンダリングとは?企業が知っておくべき7つのこと

マネーロンダリングとは?企業が知っておくべき7つのこと

マネーロンダリング(Money Laundering)とは、犯罪による収益として得たお金の出所や真の所有者が分からないようにする行為のことです。

日本では「資金洗浄」や「マネロン」とも呼ばれています。

マネーロンダリングは、正当な取引や合法的なビジネスへの資金提供を装って行われることもあるため、金融機関のみならず、あらゆる企業が関与してしまう可能性があります。

企業がマネーロンダリングに関わってしまうと、取引先や金融機関との

  • 取引停止
  • 風評被害

などのリスクによって事業に多大な影響を受けてしまいかねません。

そのため、企業においても、マネーロンダリングに関する正しい知識を持ち、巻き込まれることを水際で防止するための対策をとっておくことが極めて重要です。

そこで今回は、

  • マネーロンダリングとは
  • マネーロンダリングに該当する行為
  • マネーロンダリングに対して企業がやるべき対策

などについて、弁護士が分かりやすく解説していきます。

この記事が、

  • マネーロンダリングとは何か
  • 巻き込まれないためにはどうすればよいのか

などで悩んでいる企業の担当者の方等の手助けとなれば幸いです。

犯罪収益移転防止法については以下の関連記事をご覧ください。

1、マネーロンダリング(資金洗浄)とは

まずは、マネーロンダリングとは、どのようなものなのかを詳しくみていきましょう。

(1)定義

マネーロンダリングという言葉は、法律用語ではありませんが、警察庁のホームページでは、次のように定義されています。

マネー・ローンダリング(Money Laundering:資金洗浄)とは、一般に、犯罪によって得た収益を、その出所や真の所有者が分からないようにして、捜査機関等による収益の発見や検挙等を逃れようとする行為を言います。

引用元:警察庁|マネー・ローンダリング対策の沿革

金融庁のホームページでは、少し異なる表現が用いられていますが、意味するところは同じです。

つまり、犯罪によって得た収益を、そうでないお金であるかのように見せかけるために、何らかの手段で「洗浄」するという点が、マネーロンダリングの本質であるといえます。

(2)仕組み

マネーロンダリングの手口は多岐にわたるため、非常に複雑な仕組みとなっています。

しかし、その構造を大きく分けると、次の3つのステップに分類できます。

①プレイスメント(Placement)

プレイスメントとは、犯罪収益を健全な金融システムに入金する段階です。

つまり、犯罪で得た現金を、別の形に変えるプロセスに当たります。

分かりやすいのは銀行口座に預金することですが、それでは捜査機関等に発覚しやすいため、以下のような手口が用いられることが多いです。

  • 不動産を購入する
  • 外貨や暗号資産(仮想通貨)に換える
  • 株や投資信託に投資する
  • 架空取引による利益として計上する
  • ギャンブルに使う
  • 負債を返済する

他にも、プレイスメントの手口は無数にあります。

②レイヤリング(Layering)

レイヤリングとは、犯罪収益の出所を分からないようにする段階です。

プレイスメントだけでは、まだ出所が容易に判明する可能性が高いため、資金を次々に移転させて、経路を複雑化するプロセスです。

特に、複数の国や地域にまたがる資金の移転は、追跡することが難しいので、海外の企業や金融商品などに投資されるケースが多いです。

③インテグレーション(Integration)

インテグレーションとは、洗浄された資金を回収する段階です。

この段階でも、不動産の売却や芸術作品の売却など、手口は無数にあります。

以上の3ステップを簡単にまとめると、例えば、犯罪で得た現金で、まず不動産を購入します(プレイスメント)。

このとき支払った代金は汚れていますが、その不動産を売却して得る資金は、きれいなものとなります(インテグレーション)。

この2ステップだけでは、資金の出所が容易に判明してしまうので、レイヤリングで経路を複雑化するのです。

資金の移転経路が複雑化すればするほど、その資金は洗浄されることになります。

(3)該当する行為

マネーロンダリングに該当する行為(手口)は無数にありますが、企業として注意すべき行為は、以下の3つです。

これらの行為は、「組織的犯罪処罰法」で規制されており、処罰の対象にもされています。

①法人等の事業経営を支配すること

犯罪収益等で株主等の地位を取得し、その法人の経営を支配するために、経営権を行使するようなケースがこれに当たります。

②犯罪収益等を隠匿すること

犯罪収益等を取得したことや処分したことについて事実を仮装したり、犯罪収益等を隠したり、その発生原因を隠すようなケースがこれに当たります。

③犯罪収益等を収受すること

犯罪収益であることを知って、その財産を受け取る行為も規制されています。

2、マネーロンダリングに対する規制が強化されている理由

なぜマネーロンダリングに対する規制が強化されているのかというと、終局的には

  • 犯罪を防止し、安全で平穏な国民生活を守るため
  • 経済活動の健全な発展を促進するため

の2点です。

マネーロンダリングを放置していると、犯罪収益がさらなる犯罪のための活動や、犯罪組織を維持・強化することに使われてしまいます。

そうすると、組織的かつ大規模な犯罪も発生しやすくなりますし、テロリズムが発生するおそれもあります。

さらには、犯罪組織が事業活動に不当な干渉を行うことによって、社会の経済活動にも重大な悪影響が及んでしまう可能性があります。

そのため、犯罪収益の流通や洗浄を阻止する必要性があります。

また、日本国内で、マネーロンダリングに対する規制が強化されている理由として、近年では、国際的なマネロン対策が進んでおり、日本に対しても規制強化が強く求められていることも挙げられます。

そこで次に、世界におけるマネロン対策の動きをご紹介した上で、国内での動きをご紹介します。

(1)世界における動き

世界では、以下の流れでマネーロンダリング対策が進められてきています。

時期

具体的な動き

 1988年12月

 

 

・国連で麻薬新条約を採択。

・薬物犯罪による収益の隠匿等を犯罪化することや、それを剝奪する制度の構築が締約国に義務付けられた。

  1989年7月 

 

・マネーロンダリング対策への国際的な協力を強化するためFATF(金融活動作業部会)が設立された。

  1990年4月 

 

 

 

 

・FATFがマネーロンダリング対策の基準として「40の勧告」を策定。

・麻薬新条約の批准、マネーロンダリングを取り締まるための国内法の整備、金融機関による顧客の本人確認、疑わしい取引の報告の義務づけ等が提言された。

  1996年6月 

 

 

・FATFが「40の勧告」を一部改訂。

・前提犯罪を薬物犯罪だけでなく、重大犯罪に拡大すべきとされた。

  1998年5月 

 

 

 

 

・バーミンガム・サミットの参加国がFIU(資金情報機関)を設置することに合意。

・各国においてFIUを設置し、マネーロンダリング情報を一元的に集約した上で整理・分析し、捜査機関等に提供することとされた。

 1999年12月

 

 

 

・国連で「テロ資金供与防止条約」を採択。

・テロ資金の提供や収集行為を犯罪化すること、テロ資金を没収すること、金融機関による本人確認や疑わしい取引の届出等の措置が締約国に求められた。

  2003年6月 

 

 

・FATFが「40の勧告」を改訂。

・非金融業者や職業的専門家に対しても勧告を適用することが提言された。

  2012年2月 

 

 

・FATFがさらに「40の勧告」を改訂。

・大量破壊兵器の拡散や公務員の汚職等にも対処することが提言された。

  2013年6月 

 

 

 

 

・ロック・アーン・サミットの参加国が「G8行動計画原則」に合意。

・マネーロンダリングや租税回避のために法人等が利用されていることから、法人及び法的取り決めの悪用を防止するための措置が求められた。

  2015年6月 

 

 

 

・FATFが「仮想通貨交換業の規制に関するガイダンス」を公表。

・仮想通貨交換業者等に対し、登録・免許制を課すことや、顧客の本人確認、疑わしい取引の届出、記録の保存を義務化することなどが求められた。

 2018年10月

 

 

・FATFが勧告を改訂。

・仮想通貨に関連するサービス業者に対し、マネロン・テロ資金供与規制を課すべきことが提言された。

時代が進むにつれて、犯罪の種類や内容、金融システムが変容し、それに合わせてマネーロンダリング対策も拡充・強化されつつあります。

(2)日本での動き

日本におけるマネーロンダリング対策の動きは、以下のとおりです。

時期

具体的な動き

 1990年6月

 

・大蔵省銀行局長から金融団体に対して「顧客の本人確認実施を要請する旨の通達」を発出。

 1992年7月

 

 

 

・「麻薬特例法」が施行された。

・マネーロンダリングが犯罪化された。

・薬物犯罪収益に関する疑わしい取引について、金融機関等による届出制度が創設された。

 2000年2月

 

 

・組織的犯罪処罰法が施行された。

・前提犯罪を薬物犯罪だけでなく重大犯罪に拡大された。

・FIUを金融監督庁に置き、庁内に「特定金融情報室」が設置された。

 2002年7月

 

 

 

 

 

 

・テロ資金提供処罰法が施行された。

・テロ資金提供等の行為が犯罪化された。

・組織的犯罪処罰法が一部改正された。

・前提犯罪にテロ資金提供等の罪が追加された。

・テロ資金の疑いがある財産に関する取引が、疑わしい取引の届出の対象とされた。

 2003年1月

 

 

・「金融機関等本人確認法」が施行された。

・金融機関が特定取引を行う際に、顧客の素性を公的証明書で確認すべきことが義務づけられた。

2004年12月

 

 

 

 

 

・「金融機関等本人確認法」が改正された。

・預貯金通帳等の譲受・譲渡およびその勧誘・誘引行為等が犯罪化された。

 

・「テロの未然防止に関する行動計画」が策定された。

・入国審査における外国人の指紋採取の義務づけなどが提言された。

2005年11月

・我が国のFIUが金融庁から警察庁に移管された。

 2008年3月

 

 

 

 

 

・「犯罪収益移転防止法」が施行された。

・これに伴い、「金融機関等本人確認法」は廃止された。

・金融機関や特定取引業者等に対し、特定取引において本人確認をすることや、ハイリスクな取引においては本人確認をより厳格に行うこと、確認記録や取引記録を作成・保管することなどが義務づけられた。

2008年10月      

 

・FATFによる相互審査(第3次対日相互審査)の結果が公表された。

・日本は非常に厳しい評価を受けた。

 2013年4月

 

・犯罪収益移転防止法の改正法が全面施行された。

・振り込め詐欺等にも対応するため、罰則の強化などが行われた。

 2013年6月

 

 

 

・「法人及び法的取極めの悪用を防止するための日本の行動計画」が策定された。

・「G8行動計画原則」を踏まえて、リスク評価を行うこと等が盛り込まれた。

2016年10月

 

・犯罪収益移転防止法の再改正法が全面施行された。

・FATFの勧告の水準を満たすための改正が行われた。

 2017年4月

 

 

 

 

・犯罪収益移転防止法の再々改正法が全面施行された。

・特定事業者に仮想通貨交換業者が追加された。

 

・資金決済法の改正法が施行された。

・仮想通貨交換業者に対する登録制の規制等が導入された。

 2017年7月

 

・組織的犯罪処罰法の改正法が施行された。

・犯罪収益の前提犯罪が拡大された。

 2018年2月

 

 

・金融庁が「マネロンガイドライン」を策定・公表した。

・金融機関等に求められるマネーロンダリング防止のための対応策がとりまとめられた。

 2018年7月

 

 

・「特定複合観光施設区域整備法」が成立した。

・2019年4月以降、段階的に施行されている。

・特定事業者にカジノ事業者が追加された。

 2021年2月

 

・「マネロンガイドライン」が改正された。

・リスクベースアプローチの徹底が求められた。

 2021年8月

 

 

・FATFによる相互審査(第4次対日相互審査)の結果が公表された。

・日本は再び非常に厳しい評価を受けた。

このように、日本でも、社会情勢の変化を踏まえて、立法や法改正を重ねて対応していますが、FATFによる対日相互審査では厳しい評価を受けており、さらなる規制の強化が求められているところです。

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