5、貞操権侵害で慰謝料を請求する方法
次に、相手に慰謝料を請求するための具体的な方法を解説します。
(1)証拠を確保する
まずは、貞操権侵害の事実を証明できる証拠を確保しましょう。いきなり慰謝料を請求すると、「独身だなんて言ってないし、結婚の話もしていない」などと言い逃れをされる可能性が高いので、先に証拠を確保することが重要です。
相手と知り合った頃のメールや、マッチングアプリ・出会い系サイトでのやりとりにおいて「独身です」とかたるメッセージが残っていれば、有力な証拠となります。そのメッセージを表示した画面をスクリーンショットで保存するか、写真撮影するなどして証拠化しましょう。
そのような証拠がない場合は、相手が「独身」だと言っていたことや、結婚を前提に交際していたことを証明できる何らかの証拠を探しましょう。例えば、もらったプレゼントや、食事をした場所や旅行に行った場所、その時に撮影した写真などで、証拠になるものがあるかもしれません。
相手との交際の状況を綴った日記があれば、それも証拠となります。日記を書いていなかった場合は、今からでも相手との交際状況を具体的にまとめて記載すれば、最低限の証拠として使える可能性があります。できる限り記憶を喚起し、詳細かつ正確に記録するようにしましょう。
(2)相手の所在を調べる
マッチングアプリや出会い系サイト、SNSなどインターネットを通じて出会った場合は、相手の氏名から生年月日、住所、勤務先などまで虚偽であるということも少なくありません。
その場合、慰謝料を請求するためには相手の所在を突き止める必要があります。
相手とのやりとりの中でさりげなく聞き出すことができればよいのですが、それができる可能性は低いでしょう。
弁護士に依頼すれば、相手の携帯電話の番号などを手がかりとして、「弁護士会照会」という手段を使って相手の所在を調査できる可能性があります。
それでも相手の所在が判明しない場合は、尾行などの調査手段を用いる必要があります。一般の方が安全に尾行を行うことは困難であり、多大な時間と労力も要します。その場合は、探偵事務所に依頼した方がよいでしょう。
弁護士に相談すれば、信頼できる探偵事務所を紹介してもらえることもあります。
(3)相手と直接交渉する
証拠を確保し、相手の所在を突き止めたら、いよいよ慰謝料を請求します。
慰謝料請求の方式に決まりはありません。穏便な話し合いが期待できる相手であれば、電話やメールなどで請求するのもよいでしょう。
穏便な話し合いが期待しづらい場合は、慰謝料請求書を作成し、内容証明郵便で送付するのが一般的です。相手が反応したら、具体的な金額や支払期限、支払い方法などについて交渉します。
相手がしらを切ろうとした場合は、証拠を示して言い逃れを許さず、責任を追及することになります。
交渉がまとまり合意ができたら、口約束で終わらせず、必ず示談書を作成して取り交わしましょう。
(4)裁判を起こす
交渉がまとまらない場合や、そもそも話し合えない場合は、裁判(損害賠償請求訴訟)を起こすことが必要となります。
裁判を起こすには、訴状という書面に慰謝料の請求額と、その根拠となる具体的な事実を記載し、証拠と一緒に裁判所へ提出します。
貞操権侵害の事実を証拠で立証することができれば、判決によって強制的に慰謝料を支払わせることが可能となります。
6、貞操権侵害で慰謝料を請求するときに知っておくべきこと
既婚男性に騙されて性的な関係を持たされた方は、相手に慰謝料支払わせたいという思いでいっぱいになっているかもしれませんが、以下の点には注意が必要です。
(1)相手の配偶者から不倫慰謝料を請求される可能性がある
相手に対して慰謝料請求をした結果、2人の関係が相手の配偶者に知られてしまい、逆に不倫慰謝料を請求される可能性があります。
こちらに相手が既婚であったことを知らなかったことについて落ち度がなければ慰謝料の支払い義務はありませんが、相手の配偶者から見れば、あなたを不倫相手だと思ってしまうこともやむを得ないでしょう。
弁護士を代理人に立てれば、相手の配偶者からの訴えにも対応してくれます。自分で直接やりとりをする必要はないので、安心して相手に対する慰謝料請求の手続きを進めることができます。
(2)脅迫してはいけない
慰謝料請求をしても相手に誠意が見られない場合には、感情的になってしまうこともあるかと思います。しかし、そんなときでも脅迫的な態度を取ってはいけません。
「支払わなければ家族にばらしてやる」「職場の人に言いふらしてやる」「ネットに晒してやる」などという発言は脅迫に当たります。このような発言をすると、脅迫罪や名誉毀損罪などで罪に問われることがある上に、逆に慰謝料を請求される可能性もあります。
貞操権侵害の慰謝料請求は、法律上の手続きとして冷静に進めることが重要です。自分ではどうしても感情的になってしまうという場合は、弁護士に依頼した方がよいでしょう。
(3)相手を刺激してはいけない
「脅迫してはいけない」問題と関連していますが、慰謝料請求をする際は必要以上に相手の感情を刺激しない方が得策です。
いたずらに相手を刺激すると、仕返しとしてリベンジポルノやストーカー、その他の嫌がらせ行為を受ける心配があります。
性的な動画像を相手にとられている場合は、交際解消時にすべて削除するように求めるべきです。
ストーカー行為を受けた場合は「接近禁止命令」の申立てができます。素早く申し立てるためには、早めに弁護士に相談しておくことが有効です。
できれば、相手と円満に示談を成立させることが理想的です。そのためにも、弁護士を代理人に立てて冷静に交渉を進めてもらった方がよいでしょう。
(4)時効に注意する
慰謝料の請求権には時効があります。貞操権侵害の事案では、騙されていたことに気付いてから3年以上が経過すると時効が成立し、慰謝料請求が認められなくなります。
騙されたことを知って精神的に大きなダメージを受けた場合や、慰謝料請求が可能であることを知らなかったような場合には、すぐに慰謝料請求できないこともあるでしょう。
時効成立が迫っている場合には、取り急ぎ内容証明郵便を送付することが有効です。相手が内容証明郵便を受け取ってから6ヶ月は時効の成立が猶予されます。その間に裁判を起こせば、それまで進行していた時効期間はリセットされ、ゼロに戻ります。
(5)相手と別れない場合はリスクが大きい
人によっては、相手に騙されていたことを知っても別れたくないと思うこともあるでしょう。
しかし、相手が既婚者であることを知った以上、その後の交際は不倫に当たりますので、相手の配偶者から慰謝料請求をされた場合は支払いを拒むことができません。
また、相手と不倫の末に結婚できたとしても、結婚生活ではさまざまな苦労がふりかかる可能性が十分にあります。
相手との交際を続けるのであれば、これらのリスクを受け入れる覚悟が必要です。
配信: LEGAL MALL