懲役とは?執行猶予とは?実刑判決を受けたときの対処法も解説

懲役とは?執行猶予とは?実刑判決を受けたときの対処法も解説

懲役とはどのようなもの?執行猶予とは何を示すの?

「懲役3年執行猶予5年」といった言葉をニュースで時おり耳にするかと思います。

これを聞いて、刑事裁判に馴染みのない方は

懲役とはどんな刑罰?
執行猶予とは何?実刑とどう違うの?

といった疑問が浮かぶかもしれません。

懲役とは、簡単に言うと、刑務所に入れられて刑務作業を科される刑罰です。

判決で執行猶予が付くと、有罪であっても、その期間内に再び罪を犯し有罪判決を受けるなどの問題を起こさない限り、懲役などの刑を受ける必要がなくなります。

執行猶予が付くかどうかは、刑務所に入るかどうかを左右する重大なポイントです。罪を犯してしまい有罪判決が見込まれる場合には、執行猶予を獲得するためにすべき対応を知っておく必要があります。

また、そのような対応をしても必ず執行猶予が付くとは限らないため、実刑判決を受けたときにどうすべきかについても事前に考えておくべきでしょう。

今回は、

懲役とは?執行猶予とは?それぞれどういうものか
執行猶予を獲得するためにやるべきこと
実刑判決を受けたときの対処法

などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

この記事が、ご自身やご家族が罪に問われている方のための手助けとなれば幸いです。

1、懲役とは?

まずは、懲役の意味、懲役刑が科されるとどうなるかなど、懲役についての基礎知識を解説します。

(1)身体の自由が拘束される刑罰

懲役は刑罰の一種で、「自由刑」に該当します。

自由刑とは、身体の自由を制限される刑罰です。懲役刑が科されると、一定期間刑務所に入れられて自由な行動ができなくなります。

懲役は、国民にとって重要な権利である身体の自由を制限する刑罰であるため、罰金などの財産刑に比べて重い刑罰といえます。

(2)刑務作業が科せられる

懲役は刑務作業が科される点が特徴です。同じ自由刑である禁錮という刑罰では刑務作業が強制されておらず、この点が懲役と禁錮の違いです。

刑務作業には以下の4種類があります。

生産作業
社会貢献作業
職業訓練
自営作業

①生産作業

木工、金属加工などで物品を生産する作業です。生産された製品は一般の人も購入できます。

②社会貢献作業

社会貢献になる作業を行います。除雪作業や除草作業が具体例です。

③職業訓練

出所後の就職が有利になるように、職業に必要な免許や資格を取得したり、知識や技能を習得したりします。溶接、フォークリフト、自動車整備、介護など様々な職業訓練が実施されています。

④自営作業

受刑者が生活するために必要な作業です。炊事、洗濯などが挙げられます。

参考:法務省|刑務作業のあらまし

(3)無期懲役と有期懲役の違い

懲役刑は、期間が決まっているか否かによって「無期懲役」と「有期懲役」に分けられます。

無期懲役には期間の定めがありません。とはいえ、無期懲役となった場合でも一生刑務所に入るとは限らず、10年以上経過すれば仮釈放される可能性があります。

実際には、仮釈放までは30年以上要するケースがほとんどです(参考:法務省|無期刑受刑者の仮釈放について)。

無期懲役が法律で定められているのは、殺人罪、強盗致死傷罪などの重大犯罪に限られます。

有期懲役は期間の定めがあり、判決の際に「懲役3年」などと年数が指定されます。有期懲役の期間は1か月以上20年以下です(刑法12条1項)。

複数の犯罪にまとめて問われている場合には、最高で30年になる可能性があります。

(4)懲役中の生活

懲役刑が科されると、基本的には刑務所で生活しなければなりません。

刑務所では午前6時台に起床、午後9時就寝といった規則正しい生活を送ります。日中は刑務作業を行い、食事は3食提供されます。

夕食後には自由時間もあり、テレビや読書といった娯楽を楽しむことも可能です。

とはいえ、勝手に部屋から出られず、食事内容も選べないなど不自由な生活であるのは間違いありません。

2、執行猶予とは?

続いて、執行猶予について意味や条件などの基礎知識を解説します。

(1)有罪判決を受けても直ちに刑罰を科せられない制度

執行猶予とは、有罪判決を受けた刑罰について、再び犯罪を行うなどの問題を起こさずに一定期間が経過すれば、その効力が失われるとする制度です。

たとえば、「懲役1年執行猶予2年」という判決が下されたとき、再び犯罪を行うなどの問題を起こさずに2年間が経過すれば、懲役1年の刑は消滅し、刑務所に入る必要はなくなります。

「猶予」という言葉から「猶予期間が過ぎた後に刑罰を受ける」と勘違いされる方もいるでしょう。

実際には、何事もなく執行猶予期間が経過すれば、言い渡された刑罰を科されずにすみます。

(2)全部執行猶予と一部執行猶予

執行猶予には「全部執行猶予」と「一部執行猶予」があります。

全部執行猶予では、期間が満了すれば刑のすべてが科されなくなります。

「懲役3年執行猶予5年」であれば、猶予期間の5年が経過すると懲役3年のすべてが免除され、一切刑務所に入る必要がありません。

一部執行猶予は、刑のうち一部についてだけ執行猶予が付く制度です。

判決は「懲役2年、その刑の一部である懲役6月の執行を2年間猶予する」といった形になります。

この場合、1年6か月の懲役刑を受けた後、執行猶予の2年間を問題なく過ごせば残りの6か月の懲役刑は科されなくなります。

一部執行猶予は、2016年から施行された制度です。

たとえば、常習性が強い薬物犯罪などで活用されています。全部執行猶予とは異なり、必ず一定期間は刑に服する必要がある点に注意してください。

以下、この記事では、全部執行猶予を前提にして解説しています。

(3)執行猶予のメリット

執行猶予のメリットは、刑務所に入らずに社会生活を送れる点です。

執行猶予付き判決が確定すれば、有罪であるにもかかわらず収監を免れ、身体拘束されていてもすぐに釈放されます。

執行猶予期間中は身体的には自由であり仕事もできるため、早期の更正や社会復帰が可能になります。

ただし、執行猶予が付いても有罪判決である以上、前科にはなってしまい、就職などで不利益を受ける可能性は否定できません。

(4)執行猶予付き判決が得られる条件

全部執行猶予を付けられる法律上の条件は刑法25条1項に示されています。

まず、言い渡される刑が「3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金」でなければなりません。

殺人・現住建造物放火といった重大犯罪では基本的に執行猶予は付かないとお考えください。また、罰金で執行猶予が付くケースは実際にはほぼありません。

言い渡される刑が「3年以下の懲役・禁錮」であることを前提に、以下のうちいずれかを満たせば執行猶予が付く可能性があります。

前に禁錮以上の刑に処せられたことがない。
前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、執行が終わった日、または執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない。

禁錮以上の刑とは、懲役・禁錮を指します。罰金刑を過去に受けたことがあっても執行猶予が付く可能性はなくなりません。

これらの条件を満たした上で、裁判官が適切だと判断すれば執行猶予が付きます。

法律上、執行猶予の期間は1年以上5年以下とされています。

判例によると、実際は懲役・禁錮の年数の1.5~2倍程度になるのが一般的です。たとえば、懲役2年であれば執行猶予は3~4年程度になります。

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