個人事業主の離婚で財産分与の範囲とは?損しないための5つのこと

個人事業主の離婚で財産分与の範囲とは?損しないための5つのこと

配偶者が会社員ではなく個人事業主であった場合には、個人用の財産と事業用の財産の二種類が存在することになります。このような事情があるケースでは、離婚にあたっての財産分与において事業用の財産が含まれることになるのかが気になる内容でしょう。 

離婚に伴う財産分与については、個人事業主の夫婦であっても基本的な部分は同じですが、個人事業主という特殊性が理由で、特別な配慮が必要になってくる部分もあります。

今回は、

個人事業主の離婚での財産分与の対象資産
個人事業主の事業用資産を財産分与の対象としない方法
妻とともに個人事業を営んでいた場合の財産分与の注意点
個人事業主の離婚において財産分与で揉めた場合の対処法

などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

この記事が、離婚を検討している方々のご参考になれば幸いです。

1、個人事業主の離婚での財産分与の対象資産

個人事業主の夫婦が離婚をする場合の財産分与の対象財産としては、以下のものがあります。

(1)事業用資産も財産分与の対象となる場合がある

財産分与の対象となる財産は、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた共有財産です。

事業を法人化しているような場合には、個人と法人は、別人格とされていますので、法人の財産は、財産分与の対象とはなりません。

しかし、個人事業主の場合には、個人用の財産も事業用の財産も明確に区別されていない場合がありますので、そのような場合には基本的には財産分与の対象になる場合があると考えられます。

(2)事業用資産の例

個人用の資産と事業用の資産が明確に区別されていない場合には、以下のような事業用資産も財産分与の対象財産に含まれる可能性があります。

事業用口座内の預貯金
事業で使用している車両
事業で使用している備品
事業で使用している不動産
小規模企業共済

2、個人事業主の事業用資産を財産分与の対象としない方法がある!

個人事業主の場合には、事業用資産も財産分与の対象になる可能性がありますが、個人資産と事業用資産を明確に分離して管理していれば、財産分与の対象から除外することも可能です。

(1)特有財産であるか確認

財産分与の対象となる財産は、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた共有財産の部分に限られます。民法では、「夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産」(民法762条1項)を特有財産として財産分与の対象から除外しています。 

そのため、事業用資産が特有財産であると主張することによって、財産分与の対象から除外することができる場合があります。

たとえば、婚姻前に購入した事業用の車両、備品、不動産については、特有財産として財産分与の対象から除外することができます。また、事業用の預貯金や小規模企業共済についても婚姻前に積み立てた部分は財産分与の対象財産から除外することができます。

(2)個人用資産と事業用資産を明確に分ける

個人事業主が事業用財産を財産分与の対象から除外するためには、個人用資産と事業用資産を明確に区別して管理しておく必要があります。

事業用の預貯金口座から自宅の家賃や水道光熱費などの引き落としがされている場合には、個人用資産と事業用資産が明確に分けられていないため、場合によっては財産分与の対象に含まれる可能性が出てきます。

他方、毎月事業用の預貯金口座から個人用の預貯金口座に定額を給料として振り込み、個人用の預貯金口座で家計の支出をすべて管理しているなど、事業用資産と個人用資産が明確に区別されている場合には、事業用資産を財産分与の対象から除外することも可能になります。

(3)事業規模が大きい場合は法人化も視野に 

会社員であれば、会社から支払われた給料から生活費を除いたものが夫婦の共有財産として積み上げられていきます。しかし、個人事業主の場合には、給料という概念はありません。売り上げから経費を控除した残額が個人事業主の所得になりますが、そのすべてを家計に入れているわけではなく、事業用の運転資金や税金の支払いのために事業用資産として残しておくのが通常であるといえます。

事業用資産として残している資産が高額になってきた場合には、財産分与で不利益を被らないようにするためにも、法人化をすることによって、事業用資産と個人用資産を明確に区別することを検討しましょう。

ただし、法人化をする際には、個人用の資産隠しと疑われないようにするために注意が必要です。たとえば、事業用資産として使用していた車両や備品を法人に引き継ぐ際にも、無償で譲渡をするのではなく、適正な対価で譲渡をすることが必要です。また、事業用の預貯金についても、法人への出資や貸付という扱いにする必要があるでしょう。

このような適切な方法での資産の引き継ぎが必要になりますので、法人化を検討している場合には、弁護士や税理士とよく相談をして行うようにしましょう。

(4)事業で借金がある場合の交渉テクニック 

個人事業主の場合には、会社員とは異なり、事業のための借金が存在することがあります。法人化している場合には、法人の借金と個人の借金とは明確に区別されますので、財産分与で考慮されることはありません。 

しかし、個人事業主の場合には、法人のような明確な区別がないため注意が必要です。個人事業主の借金は、事業継続のためという側面がある一方、生活のためという側面もありますので、借金の使途が明確に区別できないという特徴があります。そのため、借金の使途が明確に区別できないような場合には、事業用の借金についても財産分与で考慮される可能性があります。ただし、その場合でも、事業用の借金だけを考慮するのではなく、事業用資産も含めて財産分与をすることになる可能性が高くなるでしょう。

分与したくない事業用財産がある場合には、借金の分与をしないことを条件として事業用財産の分与請求を放棄してもらうなどの交渉をすることによって、事業用資産と個人用資産を分離した財産分与を実現することができる可能性があります。

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