暴言が犯罪になるのはどこから?成立しうる犯罪と訴える方法も解説

暴言が犯罪になるのはどこから?成立しうる犯罪と訴える方法も解説

暴言だけで犯罪に該当するケースがあります。

「火をつけてやる」と脅せば脅迫罪、「無能」と罵れば侮辱罪といったように、場面や内容に応じて成立する可能性のある犯罪は変わります。

暴言は、発した側は何とも思っていなくても、受けた側はひどく傷ついてしまう悪質な行為です。暴言を発したことで刑事事件として加害者が逮捕されたり、刑罰を科されたりする可能性もあります。

暴言を受けた方は、泣き寝入りしないためにも、加害者の行為への適正な法的対処方法を知っておきましょう

今回は

暴言で成立しうる犯罪と刑罰
暴言の加害者への適切な法的対処法

について解説しています。

この記事が、暴言を受けてお悩みの方のための手助けとなれば幸いです。

1、場合によっては犯罪に!そもそも「暴言」とは?

「暴言」は法律用語ではないので、法律上明確な定義はありません。

一般的に暴言とは、乱暴な言葉、無礼な発言といった意味を持ちます。

暴言が犯罪に該当するかどうかは、言葉の内容や言い方、言ったときの状況などによりケースバイケースです。該当する場合にも、成立する犯罪は多岐にわたります。

2、暴言が犯罪となるのはどこから?成立しうる犯罪と刑罰

暴言により成立する可能性のある犯罪とその刑罰を、以下でまとめてご紹介します。

(1)脅迫罪

暴言で成立する犯罪としてまず考えられるのが脅迫罪です(刑法222条)。

脅迫罪は、相手やその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して害悪を加える旨を告知し、その内容が一般に人を畏怖させるに足る告知であった場合に成立します。

たとえば「殺すぞ」「殴るぞ」「火をつけてやる」といった暴言が脅迫に該当する可能性があります。

脅迫罪の刑罰は「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」です。

(2)恐喝罪

暴言を吐いて脅迫し、それによって畏怖させた上で金品を奪うと恐喝罪が成立します(刑法249条)。

恐喝罪は暴行や脅迫によって相手を恐れさせ、財産を交付させる犯罪です。

「金を出さないと火をつけるぞ」などと暴言を吐き、それによって金品を奪った場合には恐喝罪になる可能性があります。実際に金品を出さなかったとしても、恐喝未遂罪として処罰されることもあります。

恐喝罪の刑罰は「10年以下の懲役」のみで、罰金刑は規定されていません。

(3)強要罪

暴言の内容によっては強要罪が成立するケースもあります(刑法223条)。

強要罪は暴行・脅迫によって、相手に義務のないことを行わせたり、相手の権利の行使を妨げた場合に成立する犯罪です。

たとえば「土下座しないと家に帰さないぞ」と暴言を吐くと強要罪に該当する可能性があります。実際に土下座しなくても強要未遂罪が成立することもあります。

強要罪の刑罰は「3年以下の懲役」です。

(4)威力業務妨害罪

暴言により業務が妨害されると成立するのが威力業務妨害罪です(刑法234条)。

「威力」はかなり広い概念ですが、簡単にいうと、相手を怯えさせるような暴言があれば「威力」に該当します。

加えて、その暴言が会社やお店の「業務」を妨害する程度のものであれば、威力業務妨害罪が成立します。

「業務」とは人が社会生活上の地位に基づき反復・継続して従事する事務のことをいいますが、会社などの営利活動に限りません。政治活動、サークル活動、ボランティア活動なども「業務」に含まれる可能性があります。

執拗に暴言を吐いてお店の営業を妨げるのが、威力業務妨害罪の典型例です。

威力業務妨害罪の刑罰は「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。

(5)公務執行妨害罪

役所や警察で暴言を吐けば、公務執行妨害罪となる可能性があります(刑法95条1項)。

公務執行妨害罪は、職務中の公務員に対して暴行・脅迫を行う犯罪です。

役所の窓口で「殺してやる」など脅迫にあたる暴言を吐けば、公務執行妨害罪に該当することもあります。

公務執行妨害罪の刑罰は「3年以下の懲役若しくは禁錮または50万円以下の罰金」です。

(6)名誉毀損罪

暴言により相手の名誉を傷つけると、名誉毀損罪が成立します(刑法230条)。

名誉毀損罪は、不特定または多数の人に伝わる可能性がある状態で事実を示して、相手の社会的評価を下げる行為により成立する犯罪です。

職場で大勢の前で「部長は不倫男だ」と発言すれば名誉毀損罪になると考えられます。示した事実が真実であるか虚偽であるかや、実際に社会的評価が低下したかは問いません。

名誉毀損罪の刑罰は「3年以下の懲役若しくは禁錮または50万円以下の罰金」です。

(7)侮辱罪

名誉毀損罪と似ているようで異なる犯罪が侮辱罪です(刑法231条)。

侮辱罪は「事実」を示さなかった場合に成立します。真偽を判断できない個人的な評価は「事実」とはいえないため、軽蔑的な評価を示す行為は、名誉毀損罪ではなく侮辱罪の処罰対象です。

たとえば「給料泥棒」「無能」「バカ」といった暴言は、内容の真偽を判断できないため、名誉棄損罪ではなく侮辱罪に該当する可能性があります。

侮辱罪には従来「拘留または科料」という非常に軽い刑罰しか科されていませんでした。

しかし、2022年7月7日から法定刑が引き上げられ、以後の行為には「一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」が科されます。拘留は刑事施設で1日以上30日未満の期間で拘束される刑罰です(刑法16条)。科料は罰金と同様にお金を支払う刑罰で、金額が1000円以上1万円未満のものをいいます(刑法17条)。

(8)軽犯罪法違反

暴言が軽犯罪法違反に該当するケースもあります。

劇場・飲食店などの不特定多数が出入りできる場所や、電車・バスなどの公共の乗り物において、「著しく粗野または乱暴な言動で迷惑をかけた者」が処罰対象です(軽犯罪法1条5号)。「粗野」とは、場所柄や礼儀をわきまえない言動です。

飲食店や公共交通機関で他の客に暴言を吐くと、軽犯罪法違反になる可能性があります。軽犯罪法違反の刑罰は「拘留または科料」(同法2条)であり、情状によっては拘留と科料が併科されます(同法3条)。

(9)暴行罪

かなり稀なケースですが、暴言が暴行罪になる可能性もあります(刑法208条)。

暴行罪にいう「暴行」とは、「人の身体に対して有形力を行使すること」と定義されていますが、相手に直接触れて攻撃していなくても、音、光、熱、冷気などのエネルギー作用を及ぼせば「暴行」と認定されることがあります。判例でも、部屋を閉め切った上、人の近くで大太鼓やシンバルを連打し、意識朦朧たる気分にさせた行為が暴行にあたるとされました。

近距離から相当の大声で怒鳴りつけながら暴言を吐きつづけた場合には暴行とみなされる可能性はゼロではありません。

暴行罪の刑罰は「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」です。

関連記事: