欺罔行為とは?詐欺罪が成立する行為と成立しない行為の違いを解説

欺罔行為とは?詐欺罪が成立する行為と成立しない行為の違いを解説

「欺罔行為って何?」

詐欺罪について調べているときによく疑問に感じる人が多いのが「欺罔行為」という言葉です。

テレビのニュースやインターネット上で日常用語として「詐欺」という言葉が使われていますが、日常用語として「詐欺」と言われているものの中には、詐欺罪の成立要件の1つである「欺罔行為」があるとはいえず刑法上の詐欺罪には該当しないケースも多々あります。

法律上、詐欺罪が成立するかどうかを判断するためには、欺罔行為の意味を正確に理解しておくことが大切です。

そこで今回は、

欺罔行為とは
何も言わなくても欺罔行為に当たるケースとは
騙したつもりでも欺罔行為に当たらないケースとは

などについて、弁護士がわかりやすく解説していきます。

本記事が、「欺罔行為」の意味が気になる方の手助けとなれば幸いです。

1、欺罔行為は詐欺罪の実行行為のこと~そもそも詐欺罪とは?

日常的に使われている「詐欺」という言葉が刑法上の詐欺罪の実行行為に該当するかというと必ずしもそうではありません。

詐欺罪の実行行為である「欺罔行為」と日常的に使われる「詐欺」とでは意味が異なるケースが多々あります。

問題となっている行為が欺罔行為にあたるのかを理解するためには、まず刑法上の詐欺罪について確認する必要があります。

(1)詐欺罪の構成要件

刑法第246条にいう「詐欺罪」が成立するには、以下の4つの構成要件を全て満たす必要があります。

欺罔行為

欺罔行為とは人を欺く行為のことです。平たく言えば、相手の財産を加害者へ引き渡すために嘘の情報を伝える行為が本要件に該当します。

また、積極的に相手を騙す行為をするのではなく、ただ何もしなかったことで本要件に該当するケースもあります。

具体的には、すでに相手が誤った認識をしていることを知っているにもかかわらず、真実をあえて告知しないことなどを指します。何もしていないのに犯罪の要件を満たすのは不思議な気がするかもしれませんが、加害者が何もしないことで被害者による財産の交付行為をそのまま進めさせてしまうことがあるので注意しましょう。

欺罔行為によって被害者が錯誤に陥る

錯誤という言葉はあまり聞き慣れないかもしれませんが、平たく言うと、相手が勘違いをしたということです。

すなわち、客観的に発生している事実と被害者が考えていること(認識)が一致しないときに、錯誤に陥ったと判断されます。

被害者が錯誤に陥るかは個々のケースで異なりますので、一般的には騙されるようなことをされたとしても、実際に被害者が騙されなければ詐欺罪は既遂にはなりません。

欺罔行為をしたものの被害者が錯誤に陥らなかった(騙されなかった)場合は詐欺未遂罪が成立します。

錯誤に基づく財産の交付または財産上の利益移転

欺罔行為によって被害者が錯誤に陥り、その錯誤に基づいて被害者から加害者へ財産の交付または財産上の利益移転がなされることが構成要件として必要です。

因果関係

上記の3つの要件がそれぞれ因果関係でつながれば、詐欺罪の構成要件を全て満たすことになります。

つまり、欺罔行為によって被害者が錯誤に陥り、その錯誤に基づいて被害者が財産の交付・財産上の利益を移転したことが必要です。

欺罔行為があったものの、被害者が錯誤に陥らなかった場合や錯誤に陥ったものの財産の交付や財産上の利益移転をしなかった場合には詐欺未遂罪が成立します。

(2)詐欺罪の刑罰

詐欺罪の刑罰は10年以下の懲役となっています(刑法第246条)。

窃盗罪とは異なり罰金刑が規定されていないため、窃盗罪よりも思い罪であるといえます。

2、人に対する欺罔行為がなければ詐欺罪は不成立

上記のように、詐欺罪の構成要件の1つが欺罔行為ですが、欺罔行為は「人」を欺く行為です。

そのため、同じような行為をしているように見えても、下記のケースのように成立する犯罪が異なることがありますので注意しましょう。

(1)銀行員を欺罔して他人の預金を引き出した場合は詐欺罪

銀行員を欺罔して他人の預金を引き出した場合、銀行員という「人」を欺き錯誤に陥らせ、その錯誤に基づき預金という財物を自分へ交付させていますので、この場合は詐欺罪が成立します。

(2)ATMで他人の預金を無断で引き出した場合は窃盗罪

上記(1)のケースと同じく他人の預金を無断で引き出していても、ATMから引き出している場合、詐欺罪は成立しません。

この場合、「人」を欺いて錯誤に陥らせたわけではないので、詐欺罪の構成要件の1つである欺罔行為が存在しないからです。

もっとも、ATM内の現金は銀行のものですので、銀行の占有を侵害してATM内の現金を自分のものにしたということで、窃盗罪が成立します。

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