スパーリングテストとは?後遺障害認定のために知りたいポイント4つ

スパーリングテストとは?後遺障害認定のために知りたいポイント4つ

スパーリングテストとはどういうものなのだろう……。

交通事故の被害に遭い、むち打ちになってしまうことがあります。

むち打ちになってしまった場合、症状の程度等を診察するために、スパーリングテストやジャクソンテストなどの検査がなされることがあります。

ただし、検査の内容や検査でわかることなどについて詳しい説明を受けられず、検査にどのような意味があるのか理解できないことも多いでしょう。

実は、上記のような検査は、治療に生かされるのはもちろん、交通事故によって生じたむち打ちの症状が、後遺障害として認定されるか否かにも関わってきます。

後遺障害として認定されれば、賠償金が大きく増額することになります。

適切な損害賠償を求めるためにも、非常に重要な検査なのです。

今回は、

むち打ちの後遺障害認定に有用な検査
むち打ちで後遺障害認定された場合の賠償金
むち打ちの後遺障害認定の方法

などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

この記事が、交通事故でむち打ちになってしまった方のための手助けとなれば幸いです。

1、スパーリングテストとは~その他むち打ちの後遺障害認定に有用な検査について

むち打ちによって痛みやしびれが生じていても、レントゲンやMRIなどの画像には明確な異常所見がないということがよくあります。

そのような場合に、後遺障害の認定を受けるために重要なのが、スパーリングテストやジャクソンテストなどの検査です。

本章では、むち打ちになった際に受けることがある検査のうち、主要なものを紹介します。

(1)スパーリングテスト

スパーリングテストは、神経根を圧迫することでむち打ちの症状を誘発させ、その程度等を観察する検査です。

神経根とは、背骨を通っている脊髄という太い神経から枝分かれしている細い神経のことをいいます。

交通事故の衝撃によって、神経根に障害が生じてしまうことがあります。

スパーリングテストは、神経根に障害があるかどうかを調べる方法のひとつです。

検査では、イスに座って、頭を後ろに反らした状態から左右に傾けます。

そこに上から圧力を加え、神経根の出口を狭めることにより、肩・腕・手などに痛みやしびれが生じるかどうかを確認します。

痛みやしびれを感じたという訴えがあれば陽性(+)、なければ陰性(-)となります。

スパーリングテストは患者の自己申告によるので、陽性であっても、後遺障害の認定にあたって必ずしも決定的なものとは言えません。

しかし、スパーリングテストは基本的な検査であり、自覚症状を示すものとして、後遺障害の認定に際して一定程度斟酌されます。

むち打ちがいつまで経っても治らない……という場合には、受けておくことが重要になります。

(2)ジャクソンテスト

ジャクソンテストも、スパーリングテストと同様に、神経根に異常があるかを確認する検査のひとつです。

検査では、イスに座って姿勢を正した状態から、頭を後ろに倒し、額に手をあてて上から下に力を加えます。

この際に、肩から手にかけて痛みやしびれが生じるかを確認し、訴えがあれば陽性(+)、なければ陰性(-)となります。

ジャクソンテストも患者の自己申告によるので、後遺障害認定にあたって必ずしも決め手とはなりません。

とはいえ、患部の画像等から一見して明らかとは言えない痛みや痺れと言った神経症状の有無・程度を知るための検査ではあるため、陽性であることは一定程度後遺障害として認定されるか否かに当たって斟酌されます。

そのため、スパーリングテストとともに、むち打ちがいつまで経っても良くならないという場合に受けておくことが重要です。

(3)むち打ちの後遺障害認定に有用なその他の検査

むち打ちの症状の程度等を観察するための検査には、スパーリングテストやジャクソンテストの他にも、様々なものがあります。

本項では、次の検査について紹介します。

腱反射テスト
筋萎縮テスト
徒手筋力検査(MMT)

①腱反射テスト

腱反射テストとは、腱をゴムハンマーで叩いて刺激を与えて、正常な反射があるかをみる検査です。

反射とは、ある刺激を与えたときに、意識とは無関係に起こる反応のことをいいます。

反射のわかりやすい例としては、熱いものに手が触れたときに、無意識に手を引っ込めるというようなものが挙げられます。 

むち打ちの検査の場合に確認するのは、次のような腱反射です。

上腕二頭筋腱反射
上腕三頭筋腱反射
腕橈骨筋反射

脊髄に異常があれば過剰な反応を示す亢進という結果となり、神経根に異常があれば反射は低下・消失しているという結果になります。

腱反射は患者の意思によって左右できず、客観的な結果となるため、後遺障害認定においては重視されています。

②筋萎縮テスト

筋萎縮テストとは、腕や脚の太さを計測し、筋肉が萎縮していないかを確認する検査です。

むち打ちにより神経の麻痺が続くと、症状のある側の筋肉を使わなくなり、反対の腕や脚に比べて細くなることがあるので、筋肉の萎縮を確認するのです。

筋肉の萎縮は意思によって左右できないので、腱反射テストと同様に客観的な検査といえます。

しかし、むち打ちに伴う強い症状が残っていたとしても、筋萎縮がどの程度生じるかはケースバイケースですので、筋萎縮が確認できないこともあります。

③徒手筋力検査(MMT)

徒手筋力検査とは、筋力低下が生じていないかを確かめる検査です。

検査者が手で抵抗を与えるなどして、患者の筋力を判定します。

結果は0~5の6段階で表され、5であれば異常がないということになります。数字が小さいほど筋肉が正常に動いていないことを意味します。

2、むち打ちで後遺障害認定された場合の賠償金

前章では、スパーリングテストをはじめ、むち打ちによって後遺障害認定を受ける場合の重要な判断材料となる検査について、紹介しました。

本章では、むち打ちで後遺障害が認定された場合の賠償金について解説します。

(1)むち打ちで認定される後遺障害等級

交通事故の後遺障害等級は1級から14級まであり、数字が小さいほど重い障害になります。

むち打ちで認定を受けられる後遺障害等級は、通常、12級あるいは14級となります。

とはいえ、むち打ちで12級が認定されるケースはごく稀であり、多くの場合で14級の認定となります。

12級が認定されるには、一般的には、MRIなどの画像から、症状のある部分の神経への圧迫が客観的に明らかであること等が必要であると言われています。

画像から明らかではないものの、自覚症状があるという場合には、他の神経学的検査の結果等も踏まえて、14級が認定されることがあります。

(2)後遺障害認定されると何が変わる?

むち打ちで後遺障害の認定を受けると、得られる賠償金は大きく増額されます。

具体的には、後遺障害慰謝料、逸失利益が損害額に加算されることになります。

これらの金額は、比較的高額になりやすい傾向があります。

そのため、後遺障害が認定されると、賠償金の額は大きく異なってきます。

(3)後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ってしまったことによる精神的苦痛に対する慰謝料のことをいいます。 

慰謝料の金額には、「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」という3つの基準があります。

自賠責基準とは、自賠責保険に請求した場合にもらえる最低限の額の基準です。

任意保険基準とは、相手方の任意保険会社が定めている各保険会社独自の基準です。

弁護士基準とは、弁護士が請求する場合の基準で、裁判をした場合に認められる額を基にしています。

これら3つの基準の金額は、通常、「自賠責基準」<「任意保険基準」<「弁護士基準」の順に高くなっていきます。 

むち打ちで認定が得られる可能性のある等級のうち、自賠責基準と弁護士基準における後遺障害慰謝料の額の目安は以下のとおりです。

なお、任意保険基準は各保険会社によって異なりますが、一般的に自賠責基準に近い額であると言えます。

後遺障害等級

自賠責基準

弁護士基準

12級

94万円

290万円

14級

32万円

110万円

(4)逸失利益

逸失利益は、後遺障害が残存したことによって労働をする能力が制約されたことにより、事故前と同じように働けなくなってしまい減少する分の、将来の収入を補償するものです。

逸失利益は、「1年あたりの基礎収入」×「労働能力喪失率」×「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」という計算式で算定します。

1年あたりの基礎収入は、基本的には、事故前年度の収入を基準とします。

専業主婦(主夫)で収入がない場合は、家事労働の分について、女性の平均賃金を基準に計算します。

労働能力喪失率は、後遺障害によって失ってしまった労働能力の割合を数値化したもので、後遺障害等級に応じて決まっています。

具体的には、12級の場合は14%、14級の場合は5%です。

労働能力喪失期間とは、事故後に100%の労働能力で労働できるはずだった年数で、一般的には、症状固定日から67歳までの年数になります。

もっとも、むち打ちに基づく神経症状としての後遺障害は、時間の経過によって馴化し、労働能力への影響の程度が軽減していくことから、14級の場合で5年間、12級の場合で10年間として算定されることも多いです。

ライプニッツ係数とは、中間利息を除くための数字です。

逸失利益は一般的には将来の喪失し得る収入に対する賠償を、一括で受け取るものです。

すなわち、本来的には、毎年逸失利益としての損害が生じ、それに対する補償をその都度受けるかたちになるべきところ、将来生じる損害についても、まとめて賠償を受けることになるのです。

お金は運用することで運用益を生じさせます。本来的には未だもらえないはずの将来の損害の賠償を、一括して受け取る以上、将来発生する損害分から生じる運用益を差し引かなければ、当該運用益分、もらいすぎということになってしまいます。

そのため、もらいすぎとなるべき当該運用益を控除する必要があります。

控除されるべき当該運用益を、中間利息といいます。令和2年4月1日以降に交通事故に遭った場合、年利3%で運用できるとみなして中間利息を算定します。

中間利息をあらかじめ控除して逸失利益を計算するための係数を、ライプニッツ係数といいます。

ライプニッツ係数は、国土交通省が公開しています。

例えば、令和2年4月2日に事故に遭い、年収400万円、後遺障害等級12級、年齢57歳の場合、逸失利益は次のように計算されます。

400万円×14%×8.5302≒477万円

基礎収入400万に、12級の後遺障害が残存したことで生じる労働能力喪失率14%を乗じ、労働能力喪失期間10年間に対応するライプニッツ係数である8.5302を乗じた額となります。 

上記のとおり、将来的に得られるべき逸失利益を一括して受け取るため、中間利息を控除する必要があります。

そのため、単純に労働能力喪失期間の10年を乗じるのではなく、中間利息をあらかじめ控除して逸失利益を計算するためのライプニッツ係数を乗じることになります。

なお、上記の後遺障害に対する損害の他にも、治療費や入通院慰謝料などの傷害部分の損害の賠償も請求することができます。

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