エアドロップ痴漢(Airdrop痴漢)とは、スマートフォンのエアドロップ機能を使って他人にわいせつな画像を送信する等の性的な嫌がらせをする行為をいいます。
「触らない痴漢」あるいは「デジタル痴漢」と呼ばれることもあります。
相手に直接触れる行為ではないため、罪悪感を持たずいたずら感覚でやってしまう人もいるかもしれませんが、下記の通り犯罪です。発覚すれば刑事事件となり、逮捕される可能性もあります。
ふとした出来心で犯罪者とならないように、エアドロップ痴漢に該当する具体的な行為や刑罰などを知っておくことが大切です。
そこで今回は、
エアドロップ痴漢とは
エアドロップ痴漢で逮捕されることはあるのか
エアドロップ痴漢で成立する犯罪と刑罰
などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が分かりやすく解説していきます。
万が一、逮捕されてしまった場合の対処法もご説明しますので、エアドロップ痴漢に心当たりがある方のご参考となれば幸いです。
1、エアドロップ(Airdrop)痴漢とは?
まずは、エアドロップ痴漢とはどのような犯罪であるのかについて、詳しくみていきましょう。
(1)エアドロップ(Airdrop)とは
エアドロップ痴漢は、スマートフォンに搭載されている「エアドロップ(Airdrop)」という機能を用いて行われます。
エアドロップとは、半径9メートル以内の近距離にいるユーザー同士で、メールアドレスや電話番号を知らなくても、直接かつ簡単に画像や動画などのデータを共有できる機能のことです。
iOS7以降のiPhone、iPad、等のApple製品で利用できます。Androidには搭載されていません。
iOS16.2以降、ファイルを受け入れる対象である「すべての人」については、10分間という時間制限がかかるようになりました。
しかし、Airdrop痴漢が完全に対策されたわけでもありません。また、今後同様の機能による同じような課題も生じうると考えられます。
(2)エアドロップ(Airdrop)痴漢に当たる行為
エアドロップ痴漢の手口は、まず近くにいるユーザーのデバイスを検索することから始まります。
多くは、女性であると分かるようなデバイス名を登録しているユーザーに狙いを定めます。そのため、女性の皆さんは、本名のままでの設定とすることはリスクがあることとなります。
近距離に多くの人がいればいるほどターゲットが見つかりやすいので、ある程度混雑した電車内などで行われることが多いとされています。
ターゲットを見つけたら、エアドロップ機能を使って、わいせつな画像などをいきなり送信します。
犯人自身の裸の画像を送信するケースや、インターネットで拾ったヌード画像等を送信するケースがありますが、いずれにしても通常の人が不快感を覚えるような動画像が送信されます。
現行のiOSでは受信した側のスマートフォンの画面に直ちに画像が表示されることはありませんが、「写真を共有しようとしています。」との突然のポップアップに戸惑い(「辞退」ではなく)「受け入れる」をタップすると、わいせつ画像等が視界に入ってしまいます。
犯人は、受信者がわいせつ画像等を見て恥ずかしがったり、誰が送信したのかを探すためにキョロキョロしたりする様子を見て楽しむようです。
動画像だけでなく、言葉で卑わいなメッセージを送信する行為も、エアドロップ痴漢に該当します。
2、エアドロップ(Airdrop)痴漢で成立する犯罪と刑罰
次に、エアドロップ痴漢がどのような犯罪に該当するのかについて、ご紹介します。
(1)迷惑防止条例違反
エアドロップ痴漢は、各都道府県が定める迷惑防止条例に違反しうる行為です。
例えば、東京都の迷惑防止条例(正式名称は「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」)には、以下の規定があります。
第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
(※中略)
(3) 前2号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。
引用元:公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
他の道府県の迷惑防止条例にも、若干の表現は異なりますが同様の規定があります。したがって、全国どこでもエアドロップ痴漢を行うと迷惑防止条例違反の罪が成立します。
罰則は、東京都の場合、「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」(同条例第8条1項2号)です。常習犯の場合は、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」と刑罰が加重されます(同条8項)。
都道府県によって刑罰が若干異なるところもありますが、ほとんどのところで東京都と同じような罰則が定められています。
(2)わいせつ電磁的記録送信頒布罪
わいせつな動画像を送信した場合は、「わいせつ電磁的記録送信頒布罪」(刑法第175条1項後段)が成立する可能性もあります。
わいせつ電磁的記録送信頒布罪とは、電子データの送信によりわいせつな画像等を頒布する犯罪のことです。「頒布」とは、不特定または多数人に対して無償で交付する行為のことをいいます。
エアドロップ痴漢の事案では、電車内での事例のような場合には見知らぬ不特定の人がターゲットとなることが多いため、わいせつ電磁的記録送信頒布罪で検挙される可能性も否定できません。
わいせつ電磁的記録送信頒布罪の罰則は、2年以下の懲役もしくは250万円以下の罰金または科料です。
(3)通常の痴漢と刑罰を比べてみよう
相手の身体に直接触れる通常の痴漢行為も、迷惑防止条例違反となります(東京都の迷惑防止条例では第5条1項1号)。
この場合の刑罰は、エアドロップ痴漢の場合と同じです。
通常の痴漢の場合、相手に拒否されても無理やり行為を継続したような場合には、強制わいせつ罪(刑法第176条)が成立することもあります。強制わいせつ罪の刑罰は、6ヶ月以上10年以下の懲役です。
エアドロップ痴漢と通常の痴漢の刑罰を比較すると、以下のようになります。
エアドロップ痴漢
通常の痴漢
迷惑防止条例違反 (通常)
6ヶ月以下の懲役または
50万円以下の罰金
6ヶ月以下の懲役または
50万円以下の罰金
迷惑防止条例違反 (常習)
1年以下の懲役または
100万円以下の罰金
1年以下の懲役または
100万円以下の罰金
わいせつ電磁的記 録送信頒布罪
2年以下の懲役もしくは
250万円以下の罰金
―
強制わいせつ罪
―
6ヶ月以上10年以下の懲役
「痴漢」の範疇にとどまる限りにおいて刑罰は同じですが、通常の痴漢行為がエスカレートした場合は重い刑罰の対象となります。
配信: LEGAL MALL