窃盗罪には「時効」が存在します。
刑事事件における「時効」には、「刑の時効」と「公訴時効」という2つの種類があります。
「刑の時効」とは、刑を宣告してから一定期間内に刑を執行しなければ、刑が免除される制度です(刑法31条)。
一方、「公訴時効」は公訴の時効期間を定めることにより、時効完成後に公訴提起された事件が免訴判決により打ち切られるというものです(刑事訴訟法250条、同法337条4号)。
なお、公訴提起とは、検察官が裁判所に起訴状を提出し犯罪行為を行った疑いのある被疑者を刑事裁判にかける手続きのことで、「起訴」といわれることも多いです。
特に注目されるのは「公訴時効」で、これが成立すると、裁判所での審理が行われないまま事件は終了します。
もし窃盗罪を犯していても、一定期間が経過し「公訴時効」が成立した場合、逮捕・処罰されることがなくなります。
窃盗罪の「公訴時効」がどのくらいの期間で成立するのか気になる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、窃盗罪の時効には、「公訴時効」だけでなく、民事事件における「取得時効」や「損害賠償請求権の時効」といった種類があります。
そのため、すべての面で時効が完成するまでは、窃盗による法律問題が完全に解決したことにはなりません。
長期間にわたって不安を感じて過ごすよりも、捜査機関に自首することで刑の減軽が期待できたり、被害者との示談で不起訴となる可能性もあります。
今回は、
窃盗罪の刑事上の時効期間
窃盗罪の民事上の時効期間
窃盗罪で時効完成を待つのは得策か
など、様々な側面についてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。窃盗罪で不安を感じている方にとって、この記事が手助けになることを願っています。
警察 逮捕については以下の関連記事をご覧ください。
弁護士相談に不安がある方!こちらをご覧ください。
1、窃盗罪の時効を知る前に~そもそも窃盗罪とは?
自分で「他人の物を盗んでしまった……」と思っていても、刑法上は窃盗罪に該当しないこともありますし、あるいは他の犯罪に該当することもあります。
時効のことを知る一方で、もし処罰を受ける場合には「どれくらいの刑罰を科されるのか」を知っておくことも大切です。
まずは、窃盗罪の構成要件と刑罰を確認しておきましょう。
(1)窃盗罪の構成要件
窃盗罪とは、「他人の財物を窃取した」ことによって成立する犯罪です(刑法235条)。
また、未遂の場合でも犯罪が成立します(刑法243条)
次の3つの要件を満たす場合に、窃盗罪が成立します。
他人が占有する財物を
不法領得の意思をもって
窃取すること
①他人が占有する財物
通常、物の所有者がその物を占有していることが多いため、窃盗罪は他人の所有物を盗んだ場合に成立することが一般的ですが、所有者ではない他人が事実上支配・管理して占有する物を盗んだ場合にも窃盗罪が成立することがあります。
例えば、友人に貸した物を返してもらえない場合に勝手に取り返した場合には、自分の所有物でも他人が占有している物を無断で持ち出したことになるため窃盗罪が成立することがありますので注意が必要です。
逆に、「他人の所有物」でも占有を離れたといえる物は窃盗罪の対象とはなりません。
例えば、電車の座席や網棚に置き忘れられたカバンを拾って自分のものにした場合は窃盗罪ではなく、遺失物等横領罪(刑法254条)という、窃盗罪よりも法定刑の軽い犯罪が成立することが多い傾向にあります。
②不法領得の意思
不法領得の意思とは、権利者を排除して、他人の財物を自己の所有物として、その経済的用法に従い、これを利用し又は処分する意思のことです。
自分が欲しいものを買うために他人のお金を盗むような場合は、不法領得の意思が認められるので窃盗罪が成立します。
一方で、他人を困らせるために、その人が大切にしている物を持ち出して壊したような場合は、器物損壊罪(刑法261条)という窃盗罪よりも法定刑の軽い犯罪が成立することになるでしょう。
また、他人の消しゴムを一時借用してから返却したような場合は、権利者を排除する程度の利用意思は認められず、窃盗罪が成立しない可能性が高いでしょう。
③窃取
窃取とは、他人の占有する財物を、その占有者の意思に反して、自己または第三者の占有に移す行為のことです。
占有者の意思に反する行為であればよいため、占有者である相手が知らないうちに盗み出す場合だけでなく、ひったくりのように、相手の虚を突いて、相手があっけに取られているすきに目の前で奪い去るような場合にも窃盗罪が成立します。
ただし、ひったくりの際に抵抗する相手を力づくで振り払って転倒させたり、財物を手を離さない状態の相手をそのまま引きずったりして、相手を負傷させる可能性のある態様の場合には、窃盗罪よりも法定刑の重い強盗罪(刑法236条)が成立する可能性が高くなるので注意が必要です。
(2)窃盗罪の刑罰
窃盗罪の刑罰は、10年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
ただし、複数の窃盗罪が成立し同時に処罰される場合は併合罪として刑罰が加重され、懲役刑の上限が15年となります(刑法45条、同法47条本文)。
ちなみに、上でご紹介した他の犯罪の刑罰は以下のとおりです。
遺失物等横領罪…1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料
器物損壊罪…3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料
強盗罪…5年以上の有期懲役
(3)実際の量刑相場
窃盗罪で起訴された場合でも、必ずしも「懲役10年」や「罰金50万円」といった上限の刑罰が科せられるわけではありません。
実際には、初犯の場合であり、かつ、行為態様や被害金額の程度によっては検察庁へ送検された場合でも不起訴処分で終わる可能性もあります。
何度か窃盗罪を繰り返すと、起訴される可能性が高い傾向にありますが、10万円~30万円程度の罰金刑や、懲役刑の場合でも執行猶予付き判決が言い渡されることが多くなっています。
ただし、被害額が大きい場合や余罪が多い場合などの事情があるときには、初犯であっても懲役の実刑などの重い刑罰に処せられることもあるので、軽く考えるわけにはいきません。
一度、有罪判決を受けたにもかかわらず窃盗罪を繰り返すと、「累犯」、すなわち「再犯」(刑法56条)や「3犯以上の累犯」(刑法59条)としてさらに重く処罰されるようになります。
また、窃盗罪の常習犯の場合には、刑法ではなく「常習累犯窃盗罪」(「盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律」第3条)に該当し「3年以上の懲役」に加重され、有期懲役の上限は20年になります(刑法12条)。
2、窃盗罪で逮捕される可能性があるのはいつまで?公訴時効とは
ここから、窃盗罪の公訴時効について解説します。
前述のとおり、「公訴時効」が完成した事件では、時効完成時期についての判断が異なるような例外的な事情がある場合を除いて、検察官が公訴提起(起訴)をすることは通常想定できません。
そのため、公訴時効が完成すると、逮捕などの身柄拘束を受けたり、起訴されたり、処罰されたりすることがなくなります。
ただし、人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもののうちで、死刑に当たるものは除外されています(刑事訴訟法250条1項柱書かっこ書)。
以下では、窃盗罪の公訴時効について詳しくみていきましょう。
(1)公訴時効の期間は7年
窃盗罪の公訴時効の期間は7年です(刑事訴訟法250条2項4号)。
時効期間は、犯罪行為が終わったときから進行します(刑事訴訟法253条1項)。
事件が警察に発覚したときや、被害者が被害届を提出したときには、すでにある程度の時効期間が進行していることもあります。
(2)公訴時効期間は停止することがある
窃盗罪の犯罪行為が終わったときから7年が経過すると、公訴提起されて罪に問われることはなくなることが多いですが、公訴提起以外の理由により公訴時効が停止することもあります。
犯人が国外にいる場合
犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達や略式命令の告知ができなかつた場合
以上に当てはまる場合には、その間、公訴時効の進行は停止します(刑事訴訟法255条1項)。
つまり、罪を免れるために外国及び特定の国家の主権に属さない公海に逃亡したり、取調べを受けた後に訴追を免れるために所在をくらまして逃げ隠れするような場合、その期間は時効期間に算入されません。
以上のような場合には、犯罪行為が終わったときから7年が経過しても公訴時効が成立しておらず、逮捕されたり公訴提起されたりして処罰される可能性があることになります。
配信: LEGAL MALL