全身の毛が抜ける脱毛症の二男、知らない子に笑われたことも。『ありのままのあなたが大好き』と伝え続けて【体験談・医師監修】

全身の毛が抜ける脱毛症の二男、知らない子に笑われたことも。『ありのままのあなたが大好き』と伝え続けて【体験談・医師監修】

森孝文さん(39歳)は、妻と小学3年生、小学1年生の息子の4人家族です。二男は、全身の毛が抜ける「汎発型(はんぱつがた)円形脱毛症」と診断されています。2歳3カ月のときでした。
森孝文さんは「この病気のことを、少しでも多くの人に知ってほしい」という思いから、2023年5月に絵本『つるつるのおとうと』を自費出版して、県内の保育園などに寄贈する活動をしています。二男の病気が判明してからのことや絵本を出版しようと思った理由について聞きました。2回シリーズのインタビューの2回目です。

かわいいヘアゴムがつけられないとわかり、捨てる二男

脱毛症にはいくつか種類があり、森さんの二男の「汎発型円形脱毛症」は、髪の毛だけでなく、まゆ毛、まつ毛、体毛まで抜けてしまうのが特徴です。
原因は、自己免疫疾患によるものです。通常は、体内にウイルスや細菌などの異物が侵入すると、Tリンパ球という細胞が異物を攻撃します。しかしTリンパ球に何らかの原因で異常が生じると、正常な細胞を攻撃してしまうことがあります。森さんの二男の場合は、正常な毛根を攻撃されて脱毛が起きました。

「1歳10カ月ごろから抜け毛が気になり始めましたが、しばらくすると朝、起きるたびに寝具に髪の毛が20本ぐらいついていました。進行がとにかく早くて、私たち夫婦も子どもたちも現実をなかなか受け入れられなかったです。

二男はかわいいものが大好きで、プリンセスものも好みます。妻の長い髪を触っていることもありました。そんな二男が3歳のころ、妻と買い物に行ってかわいいヘアゴムを見つけて『買おうよ! ママいっしょにつけよう』と言って自分の分と妻のヘアゴムを買って、その場でつけようとしたことがあります。
しかし『あっ僕、髪の毛がないんだ・・・』と思い出したようで、ヘアゴムをゴミ箱に捨ててしまったんです。本人はすごくショックだったと思います。こうした経験を繰り返して、二男は少しずつ自分の病気を受け入れるようになっていきました。

2歳上の長男は、事あるごとに『病気なんだよね。でも、前は生えていたんだから、もう少ししたら髪の毛生えてくるよ』と言っていました。でも、長男が小学1年生になったころから『生えてこないんだ』とわかったようで、『もう少ししたら髪の毛生えてくるよ』とは、だんだん言わなくなりました」(森さん)

ショッピングモールで追いかけられるなど、好奇の目にさらされたことも

病気で髪の毛が抜けてしまって、外見に特徴が出ることは、心にも大きなダメージを与えます。森さん夫婦が大切にしているのは、子どもたちの心を守ることです。

「妻も私も『髪の毛がないのは病気のせいなんだよ』『つるつるなのは悪いことでも、おかしいことでもないよ』『そのままで、とってもかわいいよ』と、ありのままの二男でいい! ありのままの二男が大好き! ということを伝え続けています。長男もすごく二男をかわいがっていて、とても仲がいい兄弟です。二男は面白い子なので、クネクネ踊ったりしてよく長男を笑わせています」(森さん)

しかし一歩、外に出ると知らない子どもたちから好奇の目が注がれ、ときには本当に嫌な思いをすることもあります。

「妻と二男がショッピングモールに買い物に行ったとき、知らない中学生に指をさされて笑われたことがありました。その子たちは、一緒に来ていた友だちにも声をかけて、ショッピングモール内で妻と二男をわざわざ探しまわり、見つけると『いたいた!』と言って笑ったそうです。
帰宅した妻は、本当に怒っていて、その話を聞いたときは『中学生にもなって、何をしているんだ! やっていいことと悪いことがわからないのか!』と私自身も怒りに震えました。

公園に行くと、公園で遊んでいる子どもたちにからかわれたり、ジロジロ見られたりすることもあります。親として、どうしたらいいのか悩んだ時期もあります」(森さん)

そんなとき森さんの心を動かしたのが、妻の対応でした。

「公園で、知らない女の子が『この子、病気で髪の毛ないの? 私はあるよ!』と言ってきたことがあります。すると妻は『ごめんね。すごく悲しい気持ちになるから、そういうこと言わないでほしいな』と言ったんです。

それまで私は、そのように話しかけてくる子どもや大人に対して『なんで、そんなことわざわざ言うんだろう?』と怒りの感情が先に立ってばかりいました。かなりイライラしていたと思います。ですが妻のように相手と向き合って、こちらの気持ちを伝えないと、わかってもらえないということに気づきました」(森さん)

嫌な思いをすることが多々あったので、小学校入学を見すえて、森さんは二男のために医療用ウィッグも作ったそうです。

「オーダーから完成まで2年かかってやっと届きました。病気の子どもをサポートしてくれる団体の援助によるもので、高額なウィッグを費用負担なしで作っていただきました。
しかし二男はかぶると『暑い!』と言って嫌がるんです。そのため今は使わずにしまっています。
息子たちが通う小学校では、校長先生が全校生徒に二男の病気のことを話してくれていて、みんな理解してくれているので、嫌な思いをしていないようです。親として安心しています」(森さん)

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