椎名林檎に常田大希……ジャニーズへの楽曲提供は根底にその“イズム”がある
5人時代のKing&Prince「ツキヨミ」はラテン歌謡曲テイストのジャニーズらしい楽曲(写真:サイゾーウーマン)
――3つ目はいかがでしょうか。
Kei 楽曲提供の多様性です。日本の男性ダンスボーカルグループへの曲提供は現在、コライト(複数人で楽曲を制作する作曲スタイル)によるものが多い中、ジャニーズはそういう曲もありつつ、ベテラン作家さん、そしてシンガーソングライターの方が作詞と作曲の両方を単独、もしくは作詞作曲それぞれ1名ずつで手掛けた曲が目立ちます。例えばJO1やINIのシングル曲におけるK-POP的なJ-POPはコライトによる作品です。一方ジャニーズは、最近では椎名林檎さんがSexy Zoneに「本音と建前」を、またKing Gnuの常田大希さんがSixTONESに「マスカラ」を提供しています。
――有名シンガーソングライターによるジャニーズへの楽曲提供は、毎回大きな話題になりますよね。
Kei それから、元SUPERCARのギタリストで、さまざまな楽曲の作詞、プロデュースを手掛けてきたいしわたり淳治さんが、King&Princeの「ツキヨミ」の作詞を担当。こちらは、KinKi Kidsの「硝子の少年」、修二と彰の「青春アミーゴ」、タッキー&翼の「Venus」と同じ系譜のラテン歌謡曲テイストという点で、非常にジャニーズらしさを感じたのですが、「ツキヨミ」もそこが広くウケた理由の一つではないかと思っています。
作詞・作曲を手掛ける側は当然、誰に提供するのか、またタイアップは何かという点を意識しているわけですが、ジャニーズのグループに楽曲提供をする際、過去のジャニーズヒットソングの系譜を踏まえるというのが制作の根底にある……そう捉えてもいいのかもしれません。コライトではない場合、こうしたジャニーズ楽曲の「イズム」はよりはっきり楽曲に表れますし、それがジャニーズ音楽の独自性になっているのではないでしょうか。
今後ジャニーズの音楽が鍛えられていくために必要なこと
10月24日にファーストデジタルEP「P.U!」をリリースしたHey!Say!JUMP(写真:サイゾーウーマン)
――今後、ジャニーズの音楽面について、アイドルに受け継いでいってもらいたいものはなんでしょうか。
Kei 1つ目に挙げた独自性と重なる話ですが、ジャニーズのアイドルたちはドラマや映画への出演機会が非常に多く、そこに主題歌がリンクするケースが目立ちます。その背景には事務所の圧力的なものがあった可能性、メディアが過度に忖度しただろうことは否定できず、今後は映像作品への出演や、それに伴う主題歌の起用は減っていくかもしれません。とはいえ、演技面を評価されている方が多いのは事実です。
そんな彼らが、俳優として映像作品に出演するとともに、アーティストとして主題歌を歌い、その双方ができるといういわば「ジェネラリスト」に特化していく――その評価を積み上げていくことで、ジャニーズ独自の音楽性も高めていくというのが望ましいと思います。
―― 一方で、ジャニーズの音楽面で変わってほしい面はありますか。
Kei 社会的なヒットソングを生み出すためにも、楽曲の配信は絶対に必要です。以前、少年隊の錦織一清さんが「SPA!」(扶桑社)のインタビューで、サブスク解禁を事務所の上層部に訴えたところ、「うちのファンの子たちはパソコンなんか持ってない」と一蹴されたと言っていました。いや、スマホを持ってるだろうとツッコミたくなる話なのですが。
ジャニーズは、事務所のやり方に従ってくれるメディアとばかり関係を築く中で、「勝てるところだけで勝てればいい」という考えの元、ずっと変わらないでいたのだと思います。しかし、変わらなければいけないのは音楽チャートを見ても明らかですし、誰よりもアーティスト自身が焦っているように感じるんですよね。
ただ一方で、Hey!Say!JUMPが10月24日にファーストデジタルEP「P.U!」をリリースしたこともあり、おそらく今後は他グループも続いていくとは思います。そこで気になるのは、すでに退所者や脱退者が参加する楽曲はどうなるのかという点です。
――退所者がテレビに出やすくなったとはいえ、ジャニーズ在籍時の映像を流すのを差し控える番組は今も多いです。楽曲の配信においても同じような事態になる可能性は大いにあります。
Kei もし配信されない場合、彼らがいた時代のグループの歴史自体がなかったように見えてしまいます。楽曲を配信することはネットを介してジャニーズのアイドルが築いてきた音楽の歴史を伝えていくことにもつながるわけで、そこは本当に、間違いなくやってほしいと思います。
Kei(けい)
音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボード等の最新音楽チャートをさまざまな視点から分析するブログ「イマオト」を執筆。地元ラジオ局でDJも担当。これまでに「Impress Watch」「TOKION」「uDiscovermusic日本版」「NumberWeb」などへ寄稿している。
配信: サイゾーウーマン
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