【ドクター&ジャーナリスト対談】不妊治療・体外受精は今も進化中。妊娠したい人を応援する社会に

【ドクター&ジャーナリスト対談】不妊治療・体外受精は今も進化中。妊娠したい人を応援する社会に

不妊治療の保険適用がスタートした2022年に高度生殖医療の最前線に立つドクター・京野廣一先生と不妊治療の現状を追い続けるジャーナリスト・河合 蘭さんの対談を行いました。
それから約1年が経ち、患者さんや医療現場にはどんな変化が生じているのでしょうか。
そして今後の課題とは─?
改めてお2人に保険適用化の“今”と“これから”を語り合っていただきました。

今回は不妊治療の保険適用「専門医&出産ジャーナリスト対談」後編です。

卵子の在庫を調べるAMH検査の必要性

■河合蘭さん(以下、河合):保険診療では、検査はどのように変わりましたか?

■京野廣一先生(以下、京野):精液検査、排卵の有無を確認する各種検査、卵管が通っているかを見る卵管造影検査など、不妊治療を開始する前の基本的な検査はひととおり保険で受けられます。
ただ、ちょっと困っているのは「AMH検査」です。AMH(抗ミュラー管ホルモン)は育ち始めたばかりのごく小さな卵胞が出すホルモンで、これが多いか少ないかで卵巣に残っている卵子の数が推測できます。この検査は、体外受精をやろうと決めたあとは保険で受けられますが、保険診療でタイミング法や人工授精などの一般不妊治療を行っているかたは基本的に受けられません。

■河合:それは不便ですね。卵子の数は、どんな治療を受けるか考える時点で欲しい大事な情報ではないでしょうか。タイミング法からゆっくり進めるのか、それとも一足飛びに体外受精から始めるのかは、卵子の余裕を知ってから決めたいですよね。

■京野:保険診療の範囲内でできる検査もあります。FSH(卵巣刺激ホルモン)の値を見たり、月経3日目に経膣超音波で卵巣の中の卵胞を観察するAFC(胞状卵胞数)を調べたりすれば、早発卵巣機能不全の兆候をある程度はとらえることができます。でも、AMH検査は採血するだけで、超音波検査では見えないごく初期の卵胞のことがわかる。生理周期に縛られず、いつでも受けられる点も便利なので、治療をスタートする時点で保険でAMH検査が受けられたら患者にとってメリットが大きいと思います。

■河合:保険で不妊治療を受ける人がAMH検査を早く受けたいと思ったら、どうすればいいのでしょうか?

■京野:私のクリニックでは今、「プレコンセプションケア」といって、妊娠のしやすさに関わる検査をまとめて受けられるコースを設けています。自費診療なのでお金がかかってしまいますが、保険で不妊治療を受ける予定の人は、治療を始める前にプレコンセプションケアを受けておくと新しい検査も受けられます。昔からある「ブライダル・チェック」が進化したようなものですね。AMH検査はもちろん入っていますし、妊娠しにくくなる可能性がある性感染症のクラミジア、ビタミンDの血中濃度、精子を攻撃してしまう抗体の有無を調べる抗精子抗体の検査などもできます。抗精子抗体も保険で認められていない検査です。

■河合:今、自分が将来妊娠できるかどうかを心配する未婚女性が増えています。そうしたかたもプレコンセプションケアが受けやすいようになるといいと思います。

■京野:未婚女性のなかには、未受精卵子凍結(受精前の卵子を凍結すること)に関心を持つかたも増えているようです。私のクリニックでも、がん治療に臨むかただけでなく、一般のかた向けの「ノンメディカルな卵子凍結」についてオンラインセミナーを開催するようになりました。

■河合:最近は精液検査やAMH検査でも、自宅でできる自己検査キットが販売されていますが、京野先生はこれについてどうお考えですか?

■京野:自己検査は手早く自分の体について知る便利な方法だと思います。ただし、自己検査の結果が必ずしも病院での検査結果と一致するわけではありません。医療機関で総合的に判断することも大切ですから、自己検査の限界を理解したうえで上手に使っていただきたいと思います。

着床前検査の妊娠率は約70%

■河合:「着床前遺伝学的検査(PGT-A)」は、胚の染色体を調べて、妊娠できない胚移植や流産を減らす検査として注目されています。日本生殖医学会のガイドラインでも高く評価されましたが、保険適用のかたには使えない状況がずっと続いてきました。

■京野:PGT-Aは、最近になって大阪大学が先進医療の承認を受けましたが、しばらくは実施施設がかなり限られる見込みです。まずは大学や連携施設がデータを蓄積し、その有効性が国に認められれば先進医療として普及して、やがては保険適用になるかもしれません。すでに出ているデータによれば、PGT-Aの効果は明らかであり、日本でPGT-Aによって胚移植に適していると判定された胚を実際に子宮に戻したときの妊娠率は約70%と発表されています。

■河合:助成金制度がなくなってしまった今、先進医療が認められていない状態でPGT-Aを行う場合は治療費が全額自己負担になるので、経済的負担は非常に大きいですね。

■京野:1回の体外受精で100万円を超えることが多いと思います。ですから今、PGT-Aを受けるかたは激減しています。次の診療報酬改定は2024年4月。そのタイミングで、より多くの薬や治療法が認められることが期待されます。

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