「母体を守るために赤ちゃんをあきらめるか、後遺症を覚悟で出産するか」ある家族の選択と決意〜新生児医療の現場から〜【新生児科医・豊島勝昭】

「母体を守るために赤ちゃんをあきらめるか、後遺症を覚悟で出産するか」ある家族の選択と決意〜新生児医療の現場から〜【新生児科医・豊島勝昭】

新生児集中治療室(NICU)は、早産や低体重で生まれた赤ちゃん、お産の途中で具合が悪くなった赤ちゃん、心臓などなんらかの生まれつきの病気がある赤ちゃんたちが治療を受けるところ。
NICUの赤ちゃんたちの成長や家族のかかわりについて、専門家に聞く短期連載です。 テレビドラマ『コウノドリ』(2015年、2017年)でも監修を務め、地元の小中高校で「NICU命の授業」を続けている神奈川県立こども医療センター周産期医療センターの豊島勝昭先生に話を聞きます。
第2回は、小さく生まれた赤ちゃんはどんなふうに成長するのか、赤ちゃんの発達にかかせない家族の役割などについてです。

後遺症を覚悟しつつ早産で出産するか?

早産で生まれた赤ちゃんは、どんな状態でどんなケアが必要なのか、どんなふうに成長するのかなど、当事者になって初めて知ることが多いかもしれません。

――先生が印象に残っている早産で生まれた赤ちゃんの家族はいますか。どんな様子だったのかなどについて教えてください。

豊島 私が行なっている「NICU命の授業」で、いつも子どもたちに動画を交えて伝えている家族がいます。出産予定日の4カ月以上前に、お母さんのおなかの中で赤ちゃんが死んでしまうかもしれない状況になって、神奈川県立こども医療センター周産期医療センター(以下、神奈川こども)に転院してきた家族です。母体を守るために赤ちゃんをあきらめるか、後遺症を覚悟で出産するか・・・と両親に伝えた状況でした。上にお兄ちゃんとお姉ちゃんがいたお母さんとお父さんはとても悩んだそうです。

お父さんが、当時6歳だったお兄ちゃんに「生まれてくる赤ちゃんとは一緒に遊べないかもしれないけど、大丈夫?」と聞きました。するとお兄ちゃんは「うん。神様からもらった命だから」とはっきり言ったそうです。それを聞いてお父さんは「どんなことがあっても生まれてくる赤ちゃんを家族で守ろう」と決意したと話してくれました。

その家族は、赤ちゃんと一緒に生きるために、帝王切開で出産することを決めます。早く生まれてしまうというより、赤ちゃんにとってよりよいと思える誕生日を家族で選んでいるのだと思えました。赤ちゃんは4カ月以上の早産で生まれ、身長30cm、体重520gでした。
しゅなちゃんと名づけられたその女の子は、NICUでの8カ月に及ぶ治療により家に帰ることができました。それから家族の中で大切に育てられながら10年以上がたっています。現在、しゅなちゃんは特別支援学校に通う中学生です。

――赤ちゃんが早産になりそうな状態のときに、先生はどのような説明をしているのでしょうか?

豊島 切迫早産(せっぱくそうざん)で入院するお母さんとお父さんには、産科医と一緒に現在までわかっている医療のことなどをデータを用いて説明しています。

1500g未満で生まれる赤ちゃんが100人に1人、1000g未満で生まれる赤ちゃんが大体250人から300人に1人(※1)で、かなりまれな状況でのお産が予想されること。
また、在胎週数によって救命率が変わることも説明します。日本で生まれる早産児は、妊娠22週で命が助かる可能性は6割、23週で7割、24週で8割、25週で9割近く、26週で9割以上という成績(※2)が出ていることも話します。また、どこのNICUに入院するかで死亡率は大きく異なる現状があることも伝えています。
赤ちゃんに病気がなくても、小さく生まれるほど命にかかわる状況になること、ただし早産で生まれる赤ちゃんの重症度は週数や体重だけで決まるわけではないことなども説明します。

神奈川こどもでは、妊娠23週で生まれる早産児の救命率は2000年ごろから9割前後に上昇しています。しかし、23週前後で9割は命が助かるのだから、早産での出産でもいいのではないかというと、そうではありません。
在胎23週前後で生まれた子たちは現在20歳を越える年齢になっています。神奈川こどもでは、NICUを卒業してからも彼らの成長をフォローアップ外来で応援し続けてきました。早産児だった赤ちゃんの成長発達や家族の生活を、NICU退院後も長期にわたり応援してきたからこそ、新生児の命を助けることだけで終わらず、救った命がよりよく生きていくことを願っての周産期医療が大切だということを実感しています。

神奈川こどもは全国の中でも発達への影響を少なく救命できているNICUの一つですが、それでも在胎23週で生まれた赤ちゃんたちで、発達検査で正常発達と判定される子は4割、在胎週数の延長と共に正常発達の割合は確実に増えていきます。

発達面への影響を少しでも少なくしていくためには在胎週数が少しでも長いほうが、合併症などが少なく、よりよく生きていける可能性が増えます。 切迫早産の治療でお母さんのおなかで少しでも長く穏やかに過ごせれは、1日ごとによりよく生きていける可能性が高まります。そのような切迫早産の診療の大切さを小児科医の視点からお伝えしています。
早産にはお母さん側の問題、赤ちゃん側の問題があると話しましたが、それを見極めながら、少しでも長くお母さんのおなかの中にいられることができるように医療をします。

※ 1 2017年人口動態統計・出生体重別出生数より
※2 日本の新生児臨床研究ネットワーク(NRN-J)の診療成績より 

小さく生まれると、学童期に学習の支援が必要なこともある

――早産で生まれる赤ちゃんの成長の過程での課題とはどのようなことでしょうか。

豊島 出生体重1000g未満で生まれる赤ちゃんたちの中には、視力、聴力、肺機能、歩行などに退院後も支障が生じることがあります。1000g未満で生まれた赤ちゃんのうち1割弱は、視力・聴力・身体の障害に対応した特別支援学校でその子の事情に合わせた就学をしています。

小さく生まれた子は、遊びや生活上は問題がなくても、勉強面で困難さを感じることがあります。当院の在胎23~25週で生まれた早産児の2~3割は、国語や算数などは支援級などでその子の学習状況に合わせた支援を受けています。彼らが同学年の通常級だけで学習するのは学習に困難感を持つことがあります。

学習面の悩みは少なくても、出生体重1500g未満の極低出生体重児3人に1人は、得意なことと不得意なことにばらつきがあったり、ちょっと気が散りやすかったり、逆にこだわる部分があったり、といった発達のアンバランスさがあります(※3)。発達のアンバランスさはあっても子どもや家族が困り感を感じていなければそれは特性に過ぎないのですが、入園や入学など集団生活に入ったきっかけで、子ども自身が生きづらさやお母さん・お父さんが育てづらさを感じたら、いわゆる発達障害という診断になることもあります。

――小さく生まれるとどんな人生を送る可能性があるのか漠然とした不安を、数字で説明してもらうと不安がやわらぐように思います。

豊島 早産児だからこうというような一律なイメージとなるのは、不安や偏見につながるとは思っています。
ただ、実際の先輩家族の診療の結果をまとめたデータを用いて話をすると、生まれてくる赤ちゃんとどんなふうに一緒に生きていくのかを考えていく上で、少しでもイメージしやすくなるでしょう。

そして、リスクの話ばかりではなく、課題を感じずに生活している子どもや家族のNICUの先の生活もお伝えしています。

――そのほかに伝えていることはありますか。

豊島 NICU卒業生で今は神奈川こどもで一緒に働いているスタッフがどんどん増えていることもお話ししています。私が担当した1000g未満の超出生体重児の子で今は看護師となり働いている人もいます。命が救われた場所で今度は命を救おうとする職業についている存在がこの病院にいるんです。
 
お母さん・お父さんと一緒に私たちも赤ちゃんの成長を一緒に応援します、ということを伝えられるようにいつも心がけています。

最近、1000g未満で出生した早産児のお子さんたちをフォローアップ外来で長期間に渡って見守っているNICUで、20歳を超えた人たちにアンケート調査を行いました。なんらかの理由で通院がある人が4〜5割、福祉の手帳を取得している人は3割くらいでした。発達障害といわれる診断がついている人が4人に1人くらいという状況でした。そして、8割の人がなんらかの仕事についていることがわかりました。

この調査での自己肯定感について問う項目では、正期産児よりむしろ高いような結果が出ました。早産児で生まれたことを悲観して成人になっている子たちが多いわけでないと思えます。
早産児で生まれたからこそお母さん・お父さんが愛情深く子育てを続け、NICU退院後も成長と共に向き合う必要が出てくる課題に取り組んできたことが子どもたちに届いているとを感じています。

※3「Adults born preterm: a review of general health and system-specific outcomes」:Raju T. N. K.,Buist A. S.,Blaisdell C. J.,他(Acta Paediatrica 106:1409-1437,2017 )

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