夫婦別姓のメリットってなんだろう?
今回は、
夫婦別姓のメリット・デメリット
夫婦別姓の声が高まる背景
夫婦別姓の審議の歴史
などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、夫婦別姓のメリットを見る前に~夫婦別姓と夫婦同姓について
(1)日本では夫婦同姓(同氏)が法律上原則!
日本では、以下の法律において「夫婦は婚姻の際に協議によって夫または妻の氏のどちらかを称することに定め、婚姻中その氏を称さなければならない」という趣旨が規定されています。
民法750条
戸籍法74条および14条1項
つまり、日本においては「夫婦同姓」が法律上原則というのが現状です。
①日本はいつから夫婦同姓?
では、日本はいつから「夫婦同姓」と決まっていたのでしょうか。
1898年(明治31年)に旧民法が成立し、夫婦となった男女が同じ氏を称する「夫婦同氏制」が定められました。
いわゆる「家制度」に沿った規定で、夫婦は同じ「家」に入ることによって、同じ姓を称するという意味です。
1947年(昭和22年)に成立した改正民法でも、夫婦同氏制は引き継がれました。
憲法14条が掲げる「男女平等の理念」に沿って、夫か妻いずれかの氏を称することができるようになりました。
②夫と妻の姓ならどちらでも可能!
①でも説明したとおり、現行の「夫婦同姓」において、合わせる姓については夫の姓でも妻の姓でも問題ありません。
しかし、平成28年度に厚生労働省が発表した統計(人口動態統計特殊報告)では、結婚時に夫の姓に変更する妻が96%に達しているとの結果でした。
婚姻時に夫の姓に変更するケースが圧倒的に多いことがわかりますね。
女性の地位向上が叫ばれる昨今でも、まだまだ姓を夫に合わせる人が多いようです。
日本では、現在も社会通念上「妻が夫の名字を名乗るのが当然」と考えられている傾向にあるといえるでしょう。
(2)夫婦別姓とは
(1)で解説したとおり、現在の日本においては「夫婦同姓」が法律上原則となっています。
一方、夫婦同姓ではなく「夫婦別姓」という選択肢の導入を求める意見も増えています。
夫婦別姓には、次の2つの方法があります。
選択的夫婦別姓
例外的夫婦別姓
①選択的夫婦別姓
「選択的夫婦別姓」とは、現在の「夫婦同姓」の制度を維持したまま、「夫婦別姓」を希望する夫婦は結婚後にそれぞれの結婚前の姓を名乗るという選択も可能となることです。
「選択的」な制度となるため、すべての夫婦が必ずそれぞれの結婚前の姓を名乗らなければならないというわけではありません。
「選択的夫婦別姓」制度が導入されたとしても、夫婦が同じ姓を名乗りたいという場合には、どちらかの姓に合わせて同じ姓を名乗ることが可能です。
②例外的夫婦別姓
「例外的夫婦別姓」とは、現在の「夫婦同姓」の制度を原則として、夫婦が結婚後にそれぞれの結婚前の姓を名乗ることを「例外」として認めることです。
例外的夫婦別姓を実現させるためには、次のような明文化が必要と考えられます。
現行民法の「夫婦同姓」についての規定に加えて、但書として「夫婦別姓」を明記して「原則」と「例外」を明確にする
例外を選択した「別姓夫婦」から原則の「同姓夫婦」へ変更のみを認めることを明記する
③「選択的夫婦別姓」と「例外的夫婦別姓」の違い
①・②で、「選択的夫婦別姓」と「例外的夫婦別姓」についてそれぞれ説明しました。
しかし、「双方似たような意味でどこが違うのかわからない……」とお感じの方もいらっしゃるでしょう。
「選択的夫婦別姓」と「例外的夫婦別姓」の違いとは、「夫婦同姓」を原則としているか否かという点です。
具体的には、次のとおりです。
選択的夫婦別姓
同姓夫婦と別姓夫婦のどちらが原則かということを明示しない
(両者を対等なものと位置付けている)
例外的夫婦別姓
夫婦同姓を原則として、夫婦別姓を例外と明示する
例外的夫婦別姓の「夫婦同姓」を原則とするのは、旧姓民法から現行民法が適用されている現在まで、「夫婦同姓」が支持されてきたという点が重視されていることが考えられます。
あわせて、「夫婦別姓」を選択肢として追加しても、別姓夫婦は比較的少数に留まることが予想されていることも考えられるでしょう。
なお、同姓夫婦と別姓夫婦は、夫婦で同じ姓を名乗っているか名乗っていないかが違うだけです。
同姓夫婦と別姓夫婦の間で、「夫婦間の権利義務」や「子どもに対する親の責任や義務」についての違いはありません。
(3)夫婦別姓は事実婚と違う?
夫婦別姓は、事実婚と似たような部分があると感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
夫婦別姓と事実婚は、どのような点で異なるのかについて、説明します。
夫婦別姓が導入された場合、別姓夫婦も同姓夫婦と同様に婚姻届を提出して「法律上の夫婦」となります。
一方、事実婚の夫婦は婚姻届を提出していないため、法律上の夫婦ではありません。法律上の夫婦ではないものの、お互いの意思で法律上の夫婦と同様に事実上夫婦として共同生活を営んでいることです。
現在の日本では、(1)で説明したとおり「夫婦同姓」が法律上原則なので、夫婦で別々の姓を名乗りたい場合には、婚姻届を出して法律上の夫婦となることができません。
しかし、「選択的夫婦別姓」が導入された場合、婚姻届を提出した法律上夫婦が別々の姓を名乗ることが認められるのです。
(4)海外における夫婦の姓は?
日本では、現在までの長い間で夫婦同姓制度が続いています。
しかし、海外を視野に入れると、日本のように法律で「夫婦同姓(同氏)」を義務付けている国はほとんどありません。
さまざまな国における、姓についての事情をまとめました。
①アジア
国名
事情
中国・台湾・韓国・朝鮮・シンガポール
原則として別姓
タイ
2005年に選択的夫婦別姓を導入
フィリピン
原則として夫の姓(妻の姓も加えられる)
インド
夫の姓を称する
(宗教・地域等によって姓名の形式が
異なる場合あり)
サウジアラビア
父の姓を称する
(婚姻によって姓が変わることはない)
②北南米
国名
事情
アメリカ合衆国
規定する法律は特になく、選択可能
( 州によって規定がある場合もある)
カナダ
州によっても異なるが、
選択自由な州がほとんど
ペルー・ブラジル・アルゼンチン
自分の姓と夫の姓をつなげる
③ヨーロッパ
国名
事情
イギリス・フランス・ベルギー
規定する法律は特にない
ドイツ
1994年から選択的夫婦別姓
オーストリア・スイス
2013年に別姓が認められる
イタリア
妻はその固有の姓に夫の姓を付加する
夫が死亡した場合再婚するまでその姓を維持
ポルトガル・ギリシャ
自己の姓、または自己の姓+配偶者の姓
④その他
国名
事情
ロシア・カザフスタン
・ウズベキスタンなど
父称+自己の姓または共通姓
オーストラリア
規定する法律は特にない
(慣習法では女性が夫の姓に改める)
南アフリカ
夫の姓または自己の姓
(5)日本人が夫婦別姓でいる方法
2021年4月現在、夫婦同姓が法律上原則の日本において、夫婦別姓を選択するための方法は、以下の3つです。
事実婚
海外で結婚
通称を使用する
①事実婚
(3)で解説した事実婚は、法律上夫婦となれるわけではありませんが、夫婦別姓を希望する夫婦が選択できる方法です。
しかし、法律婚ではない事実婚は、法律上の立場が弱いという点がデメリットとなるため、注意が必要です。
②海外で結婚
(4)で紹介した国のなかには、夫婦別姓が認められている国が多数ありました。
夫婦別姓が認められている国で結婚すると夫婦別姓になれますが、法律の不備のため、日本では夫婦と認められないため、事実婚と同様に注意が必要です。
③通称を使用
日本で結婚し、姓が変わったとしても、仕事の場などでは通称を使用することができます。
「通称」とは、戸籍上の本名ではないものの、日常生活で使用し、世間一般にも通用している氏名のことです。
しかし、職場などで通称を使用する場合、人事・経理関係の手続きが煩わしいうえに、仕事上で不利益を被ることもあります。
2、夫婦別姓のメリット・デメリット
現在の日本では、夫婦同姓が法律上原則であるため、夫婦別姓となるためには「1、(5)日本人が夫婦別姓でいる方法」で紹介した手段を選択する必要があります。
実際に夫婦別姓となるメリットとデメリットには、どのようなものがあるのか確認しましょう。
本章では、現在の日本において、事実婚によって夫婦別姓となる場合のメリット・デメリットについて解説します。
(1)夫婦別姓となるメリット
夫婦別姓となるメリットには、次のようなものが挙げられます。
姓が変わらないので諸手続きが不要
プライバシーが保たれる
男女平等を実現できる
①姓が変わらないので諸手続きが不要
夫婦別姓となることで、姓を変える必要がないため、運転免許証やパスポート、銀行口座などの各種手続きが不要です。
自分の姓が好きだったり、仕事での便宜上変更したくなかったりと考える人にとっては、そのままの姓を維持できるという点で、大きなメリットといえるでしょう。
②プライバシーが保たれる
事実婚の場合、結婚しても離婚しても、戸籍上の姓は変わりません。職場や友人から認識される姓も変わりません。
戸籍に結婚歴や離婚歴が残らず、周囲の人からも結婚・離婚に関することがわかりにくいという点から、プライバシーが保たれるというメリットがあります。
③男女平等を実現できる
現段階で、法律婚において改姓する割合としては女性の方が断然大きいものとなっています。慣習的に、結婚の際には「女性が苗字を変えるもの」と半ば強制されているとも考えられるでしょう。
もちろん、改姓を希望する女性も多くいらっしゃることは事実ですが、「女性が姓を変えなければならない」ということにストレスを感じる女性も少なくないでしょう。
事実婚を選択し、夫婦別姓とすることで、自尊心を確保し夫婦平等を実現できるというメリットもあります。
(2)夫婦別姓となるデメリット
夫婦別姓となるデメリットとして、次のようなものが挙げられます。
子どもが「非嫡出子」となる
相続権が認められない
公的優遇を受けにくい
代理人や保証人になれない
住宅ローンや携帯電話の家族割を利用できない
①子どもが「非嫡出子」となる
婚姻届を提出した法律上の夫婦の間に生まれた子どもは、「嫡出子(ちゃくしゅつし)」となります。
嫡出子となることで、法律上の父子関係は当然生じることになります。
しかし、事実婚(内縁関係)の夫婦の間に生まれた子は婚外子として「非嫡出子」となります。
父子関係は、法律上当然生じません。
非嫡出子と内縁の夫と間に法律上の父子関係を生じさせるためには、父親(内縁の夫)による認知が別途必要です。
父親からの認知されない限り、法律上の父子関係がありませんので、次の点が認められません。
法律上父親に扶養を求める権利
父親の法定相続人となること
事実婚の夫婦の子どもは母親の戸籍に入り、母親の姓を名乗るのが一般的です。
父親とは、姓が異なってしまうのです。
父親と同じ姓を名乗るためには、次の手続きをする必要があります。
①父親に認知してもらう
②「子の氏の変更許可審判申立て」を家庭裁判所へ申立てる
③変更許可の審判がされたら、父親の戸籍への入籍届を役所へ提出する
以上の手順を踏むことで、事実婚の夫婦の子どもでも、父親の戸籍に入り、父親と同じ姓を名乗ることが可能です。
なお、母親の戸籍からは除籍されますので、注意が必要です。
また、共同親権は法律婚の夫婦にのみ認められています(民法808条3項)。
事実婚の夫婦の子どもは、共同親権が認められず母親の単独親権しか認められていないという点も、デメリットといえるでしょう。
なお、父親が子どもを認知した後、協議のうえで親権者を父親に変更することは可能です。
②相続権が認められない
事実婚の夫婦は、法律上の夫婦ではないため、お互いに法定相続人となることができないという点もデメリットです。
事実婚の状態で配偶者の一方が死亡しても、もう一方の配偶者は法定相続人として遺産を受け取れません。
なお、子どもがいれば、子どもは母親の法定相続人となります。
父親の認知を受けていれば、父親の法定相続人となることも可能です(民法887条1項)。
子どもがいない場合には、直系専属(両親や祖父母)が法定相続人となります。
直系専属が死亡していれば、兄弟姉妹が法定相続人となります(民法889条1項)。
③公的優遇を受けにくい
事実婚は、税法上でも配偶者として認められません。
事実婚の夫婦は、所得税の配偶者控除や配偶者特別控除などの優遇を受けられないことになります。
また、法律婚の場合に相続や贈与で受けられる各種税金の特例や控除などは、事実婚の場合は受けられません。
なお、不妊治療の費用助成金については、2021年1月より、事実婚の夫婦でも条件を満たせば受けることが可能となっています。
今までは事実婚では受けられなかった公的優遇も、今後は徐々に増えると予想されますね。
④代理人や保証人になれない
事実婚の場合、配偶者が急なケガや病気で入院するケースなどで、配偶者の代理人や保証人となることができないという障害があります。
⑤住宅ローンや携帯電話の家族割を利用できない
夫婦共働きの場合に、住宅ローンのペア・ローンなどを利用することができます。
しかし、事実婚の場合には、金融機関にもよりますがペア・ローンの利用が難しい可能性が高くなります。
また、携帯電話の家族割なども、事実婚の状態では利用ができないということが多いようです。
配信: LEGAL MALL