「小学1年生の壁」「小学4年生の壁」など、子どもが小学校に進学・進級することを不安に感じる共働き家庭は多いもの。何が起こるかわからず漠然とした不安を感じていたり、進学した後に想定外の事態に直面したりするケースもあるでしょう。今回は『どう乗り越える?小学生の壁』(風鳴舎)を書いた子育てアドバイザーの高祖常子さんに、上手な向き合い方のコツを聞きました。
「小学生の壁」はどう乗り越える?
プロフィール
高祖常子( こうそ・ときこ )さん
NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事・NPO法人ファザーリング・ジャパン「マザーリングプロジェクト」担当副代表理事。保育士・幼稚園教諭2種・心理学検定1級・キャリアコンサルタントなどの資格を持ち、Yahoo!ニュース・エキスパートコメンテーターも務める。3児の母。
育児情報雑誌mikuの編集長を14年勤め、国や行政の委員を歴任。編集・執筆のほか、全国の講演会やテレビ出演・新聞などへのコメントでも活躍中。
著書・編書:『感情的にならない子育て』(かんき出版)、「新しいパパの教科書」(学研)、『ママの仕事復帰のために パパも会社も知っておきたい46のアイディア』(労働調査会)ほか
漠然と不安な「小学生の壁」は細かく棚卸し
著書『どう乗り越える?小学生の壁』を執筆する際、高祖さんが個人のSNSで不安や悩みを募集したところ、「本当に多方面に渡る悩みがたくさん集まってきた」のだそう。
「小学生の壁」に関しては、子どもが未就学のうちから漠然とした不安を抱えている保護者が多いといい、「数年前から“小学1年生の壁”というような名称をつけてしまったことによって、余計不安になったりモヤモヤしたりする人が多くなったように感じた」ことも、同書を執筆するきっかけの一つとなったそう。
本書は、そんな正体の見えにくい不安を一度棚卸しして、“目の前をふさぐ大きな壁”から、乗り越えやすい“小さなデコボコ”に変換する手助けをしてくれる一冊。「自分にとって何が“壁”なのか、一つ一つを具体的に考えてほしい」と高祖さんはいいます。
スケジュールを記入するワークのページも。まずはスケジュールを書き出して漠然とした不安を「見える化」しよう
大人都合ではなく子どもたちの目線で
「少し話は逸れますが」と前置きした高祖さんは「日本の保育園や子ども園の保育時間は最大11時間が基準ですが、そもそも北欧などと比べると長すぎるんです」と話します。
「親の働き方に合わせて子どもの保育時間がどんどん長くなっています。そのため、保育園時代は親の働き方を変えなくても保育園が合わせてくれますが、小学生になるとそのタイムスケジュールがずれることで、保護者にとっては壁になるわけです。学童保育などを利用して働き方を変えずに生活ができれば大人は都合が良いですが、新しい生活が始まるタイミングの子どもたちにとっては、結構負荷がかかっているんですよね」。
「小学1年生の壁」のタイミングは、子どもたちにとっても新しい生活サイクルへの移行期間だからこそ「すごく大事に見てほしい」と高祖さんは力を込めます。
「大人の働き方に子どもの生活が合わないから、それをどうにか合わせようというところから発想しがちですが、子ども自身が変化に対応していく時期であること、集団生活に順応しようとして疲れているかもしれないということを、保護者の方は少し心掛けてもらえたら」。
仕事の都合に子どもの生活を合わせることは「悪」ではないけれど、子どもの気持ちの部分を忘れないでほしいという高祖さんのメッセージにはハッとさせられるものがあります。
勤め先にもアピールをしないと変わらない
高祖さんは「またちょっと脱線しますけど」と笑いつつ「親に合わせすぎというより、企業に合わせすぎなんですよね」といいます。
「北欧などはバケーションで2か月くらいしっかり休暇を取っていてもGDPが低いわけでもないし、幸福度も高い。先日視察に行ったオランダでは、学校の先生は週に3〜4日しか働かないんです。それで担任を持つんですが、残りの1日や2日はパートタイムの先生と組んでクラスの担任をしているそう。この本にも書きましたけれど、結局ネックになっているのは“企業が求める働き方”なんですよね。だから家族のスケジュールを一度整理してみて、会社に要望を出すというのもすごく大事なことだと思います」。
「精力的に制度づくりをしてくれる企業なら別ですが、多くの場合、要望がなければニーズがないと考えるのが企業」と高祖さん。
「日本人は企業の要望に合わせてすごく頑張っちゃうんですよね。迷惑をかけないようにフルスロットルで働いて、保育園のお迎え時間に間に合うように駆け込んで…って毎日頑張ってボロボロになって、やっぱり続けるのが無理って急に辞めちゃう人も結構多くて。それって企業にとっても損なわけだから、そうなる前に会社にも相談してみてほしいなと思います」。
本書では、悩みごとに体験談や対応法を紹介
転職も一つの選択肢として柔軟に検討を
「北欧は転職のハードルも低い」と話す高祖さんは「転職を勧めるわけではないですけども」と笑いつつ、「通勤時間が30分短縮されればその分負担も減りますよね。負担が減れば無理をして体やメンタルを壊すリスクも下がりますし、給料が増えるケースだってあります」といいます。
「先日、保護者の出勤時間に合わせられるように、小学校の開門を早めたことを歓迎するというニュースがありました。しかし私は、7時に開門・登校するということは、子どもたちは一体何時に起きているの?先生は一体何時に出勤しているの?と思うんです。先生だって自分の家族と過ごす時間が減ってしまう」。
家族の時間に少しのゆとりもなければ、子どもたちと向き合うどころか、結局「早くしなさい!」と怒る毎日につながり、大人も子どもも疲弊してしまうと高祖さんは懸念を示します。
高祖さんが担当理事を務めるNPO法人「ファザーリング・ジャパン」に在籍するパパたちの中では、子育てにコミットするために働き方を根本から見直したり、転職したりする人は少なくないのだそう。
「企業の要望に合わせてばかりいたら、本当の意味の“働き方改革”からは逆行してしまう。在宅勤務の仕事も増えていますから、職場に相談しても何も変わらないようなら、転職も一つの選択肢として柔軟にとらえてほしいですね」。
配信: ぎゅってWeb
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