それはちょっとした出来心からだった。目立たず教室のすみっこにいるようなまじめな女子高生が、いつも降りる駅を乗り過ごし、その先の知らない駅で下車。学校をさぼる度胸なんて持ち合わせていないはずだったのに、なぜか海が見える知らない町を歩いていた。
作品を読んだ人たちからは「めっちゃエモい」「尊い!」「すげぇー!いい話だァ~!」と絶賛の声が届いた。「ひと駅先でさえ、なかなか行けないせわしい日々ですからね。こういう日があってもいいと思います」という温かい声も。本作の作者は湊月(@mizunashi1025)さん。大学在学中に、女子向け少年漫画雑誌の月例賞で銅賞を受賞したものの、その際はデビューには至らず。社会人になってウェブ漫画にシフトし、ダメ元で描いた原稿をGANMA!(コミックスマート)に送ったところ、担当編集がついてデビュー作「氷のような夏は恋に溶ける」の連載が開始。「氷のような夏は恋に溶ける」は、電子書籍としても刊行されており、2024年2月に最終巻の5巻が発売された。そんな湊月さんに本作「知らない駅に降りてみた話」についての制作秘話を聞いてみた。
――夏にぴったりのさわやかなストーリーですね。湊月さんご自身、学生時代にこういう経験はありますか?
高校時代は電車通学だったので、ガタンゴトンという音と揺れが、朝の眠気も相まって心地よかった記憶があります。このままただ揺られて、いろんな景色を見ていたいなという願望はありました。「ほんの少し日常から外れるのも楽しそうだな」とは思っていましたが、実際には度胸がなくてできず終いでした。
――確かに度胸がなくてなかなか実行できない人が大半ですよね。
学生時代にはできませんでしたが、いつか海の見える駅に降りて、散策してみたいなとは思っています。
――本作のなかで「ここを見てほしい」といったポイントはありますか?
誰でも一度は経験したのでは?という共感ポイントを目線キャラである女の子に詰め込んでいます。細かいところですが、たとえば、通勤通学時間が過ぎれば電車の本数が極端に減る、見ているようであまり見ていない駅の表札や道の看板や建物。いざというときに思い出せなくて肝心なところが脳内でモヤがかかってしまう現象、昔はスマホのデータ使用量が上限を超えると動作が極端に遅くなって不便だった点など、「そんなこともあったなあ」と感じてもらえたらうれしいです。
――主要キャラの2人に込めた想いは?
登場人物は2人とも学校に遅刻しています。それを正当化したいわけでもなく否定したいわけでもなかったのでセリフ選びに、かなり悩みました。でも読む人の心がスッと軽くなるような言葉があるといいなと、後半から出てきた男の子のセリフにはそんな想いも少し込めました。
――モデルとした駅・町はありますか?
2つほどあります。しかしまだ足を運べていない場所なので、自分の中にある海の見える町のイメージを描いた景色がほとんどです。本作8ページの1コマ目の風景は描く前からずっと描きたかった景色でした。
読者からは「知らない駅とまではいかないけど、普段降りる駅を通り越して海をボケーッと眺めていたことならある。ただ、残念ながらしゃべったのは美少女じゃなくてじいさんだった」というコメントや「一度だけこういうことをしました。正直に言うとすごく楽しかったです。住んでいた埼玉には海がないので千葉の海をとてもきれいだなと感動した記憶があります」という実体験のコメントも届いていた。この夏、降り立ったことのない駅まで足を伸ばし、知らない町を歩いてみるのはどうだろうか?大人になった今でも、ちょっと日常のレールから外れた先で見る景色が心の栄養となってくれるかもしれない。
取材協力:湊月(@mizunashi1025)
配信: Walkerplus
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