3、虐待に当たる行為と成立する可能性がある犯罪
「しつけ」と称していても、虐待は犯罪になり得ます。ここでは、虐待に当たる行為と成立する犯罪・刑罰について解説します。
(1)身体的虐待
まず、わかりやすい形として身体的虐待があります。
例としては、殴る・蹴るといった行為がイメージしやすいでしょう。他にも激しく揺さぶる、ヤケドを負わせる、溺れさせるといった行為も該当します。
殴る・蹴るなどすれば暴行罪が、その結果ケガを負わせると傷害罪が成立します。刑罰は暴行罪が「2年以下の懲役、30万円以下の罰金、拘留、科料」のいずれかで(刑法第208条)、傷害罪が「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」です(同法第204条)。
万が一子どもが死亡すれば、殺人罪や傷害致死罪となります。その場合の刑罰は殺人罪が「死刑、無期または5年以上の懲役」で(同法第199条)、傷害致死罪が「3年以上の懲役(上限20年)」です(同法第205条)。
子どもを縄でしばりつけたり、部屋に閉じ込めたりすれば逮捕・監禁罪が成立し「3月以上7年以下の懲役」となります(同法第220条)。
逮捕・監禁によって子供がケガをすれば逮捕等致傷罪、死亡すれば逮捕等致死罪が成立します。刑罰は「傷害の罪と比較して、重い刑により処断」されます(同法第221条)。
(2)性的虐待
性的虐待とは、子どもにわいせつな行為をしたり、させたりすることです。
例としては、子どもにと性交等をする、性器を触る、裸を撮影させる、他の人と性交等をさせる、などが挙げられます。
性的虐待には強制わいせつ罪や強制性交等罪が成立し得ます。刑罰は強制わいせつ罪が「6月以上10年以下の懲役」(同法第176条)、強制性交等罪が「5年以上の有期懲役(上限20年)」です(同法第177条)。
監護者であることを利用してわいせつ行為・性交等をすれば監護者わいせつ罪・監護者性交等罪が成立します。刑罰は、それぞれ強制わいせつ罪・強制性交等罪と同じです(同法第179条)。
また、児童に淫行をさせると児童福祉法違反として「10年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその両方」が科されます(同法第60条1項、第34条1項6号)。
(3)ネグレクト
ネグレクトとは、子どもに食事を与えなかったり放置したりして、十分な監護をしないことです。
ネグレクトは保護責任者遺棄罪に該当する可能性があります。刑罰は「3月以上5年以下の懲役」です(刑法第218条)。
ネグレクトの結果、傷害や死亡の結果が生じれば保護責任者遺棄致死傷罪となります。傷害の場合には「3月以上15年以下の懲役」、死亡の場合には「3年以上の懲役(上限20年)」に処せられます(同法第219条)。
(4)心理的虐待
心理的虐待とは、暴言、無視、他の家族へのDVなどを通じて子どもに心理的ダメージを与える行為です。
「殴るぞ」などと脅せば脅迫罪が、土下座、ベランダに長時間立たせるなど義務のないことをさせると強要罪が成立します。
刑罰は脅迫罪が「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」(刑法第222条1項)、強要罪が「3年以下の懲役」です(同法第223条1項)。
また、子どもがPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症すると傷害罪になる可能性もあります。
4、児相から訪問を受けた場合や子供が一時保護された時の対処法
児童相談所の職員が自宅を訪問したり、子どもを一時保護したりすると、動揺してしまうでしょう。
「なんで来たのかわからない」「虐待はしていない」といった言い分を強く主張したくなるかもしれません。
とはいえ、今後の子どもとの関係を考えると冷静に対応するべきです。
以下の対処法を参考にしてください。
(1)質問には正直に答えること
職員を追い払ったり、質問に対してウソをついたりしてその場をしのごうとするのは避けてください。
職員は何らかの通報を受けて訪問しているのですから、疑念を抱いているはずです。
保護者は子どもの姿をありのままに見せ、質問に対しては冷静かつ正直に答え、現状の状況を伝える必要があります。
虐待などの問題がないと判断されれば、一時保護を強行されることはありません。
反対に、感情的に対応したり、明らかに矛盾のある回答をしたりすれば、職員も虐待の疑いを強めるでしょう。そうすれば一時保護の可能性が高まるかもしれません。
もちろん、虐待したつもりがないのに疑いをかけられると気分が悪いでしょう。
しかし、調査に協力し正確に子どもとの関係をわかってもらうことが、問題解決への近道といえます。
(2)強引に抵抗するのはNG
もし一時保護される結果になったのであれば、無理な抵抗はしないでください。
一時保護を拒んだり、児童相談所に押しかけて面会や保護解除を強要したりすれば、かえって子どもに長期間会えなくなる可能性が高まってしまいます。
場合によっては警察に逮捕されてしまうかもしれません。
一時保護になっている以上、客観的に見て子どもとの関係に何らかの問題があるはずです。
強引な方法をとらずに、いったん状況を冷静に見つめる必要があります。
(3)虐待に気付いて意識を改めることが重要
子どもが一時保護されている間は、日頃の行動を振り返りましょう。
自分では「しつけ」と思っていても、世間から見ると虐待になってしまっているケースは少なくありません。一時保護の時間は「叱るにしても別の方法はなかったか」「つい手が出ていなかったか」などと子育ての方法を考えるきっかけになります。
意識を改めて虐待の事実を受け止め、今後どうすべきかを考えてください。
配信: LEGAL MALL