3、雇用契約(労働契約)か否かは何を基準(ポイント)に判断?
では、雇用契約(労働契約)であるかどうか、つまり「労働者」か否かを判断するための基準(ポイント)はどこにあるのでしょうか?
一般的には、使用従属の関係(「使用従属性の要件」)が認められれば、「労働者」ということになりますが、使用従属の関係にあるかどうかについては、様々な要素を総合的に勘案して判断されることになります。
以下では、ポイントとなる考慮要素を、具体例も用いながら解説します。
(1)使用従属性の要件に関する考慮要素
①仕事の依頼・業務従事に対して拒否できるかどうか
働き手に仕事の依頼を拒否する自由がある場合は、使用従属の関係を否定されやすくなり、逆に、原則拒否できない場合は使用従属の関係があると認められやすくなります。
②業務遂行上の指揮監督の程度が強いかどうか
働き手の側に業務の裁量が広く認められる場合は使用従属の関係を否定されやすくなり、会社の決めた具体的なルールに従う必要がある場合や、会社の命令により通常予定されている業務以外の業務に従事しなければならない場合など、指揮監督関係がある場合は使用従属の関係があると認められやすくなります。
③勤務する時間や場所を指定・管理されるかどうか
勤務時間や勤務場所が決められておらず、これらを自由に決められる場合は使用従属の関係を否定されやすくなり、決められている場合は使用従属の関係があると認められやすくなります。
④労働を他の者が代行できるかどうか
業務遂行が委託者本人の能力に委ねられているなど業務を代行できない(再委託してはならない)場合は使用従属の関係を認められやすくなり、代行できる場合は使用従属の関係が否定されやすくなります。
⑤何に対して給料(報酬)が支払われるか
業務遂行期間が決められておらず、業務遂行の「成果」に対して給料(報酬)が支払われる場合は使用従属の関係を否定されやすくなり、欠勤に対して報酬が控除されたり、残業に対して手当てが支給されたりするなど、業務遂行時間に対して支払われると判断される場合には使用従属の関係があると認められやすくなります。
(2)関連するその他の考慮要素
⑥業務で使用する機械・器具の費用を負担するのは誰か
業務で使用するパソコン、プリンターなど機械・器具の購入費、維持費を自身で負担している場合は事業者としての性格が強いため、労働者性が否定されやすく、逆にこれらを会社が負担する場合は労働者性が認められやすくなります。
⑦その他
就業規則・服務規律がない、又はその適用がない場合や、福利厚生が適用されないような場合は労働者性を否定する要素になり、逆にこれらの適用がある場合は労働者性が認められやすくなります。
4、業務委託で残業代を請求できるのはどんなとき?
契約の名目は業務委託契約でも、実質的に雇用契約(労働契約)であると判断された場合、つまりあなたが「労働者」だった場合、労働基準法上残業代を請求できることがあります。
では、いかなる場合に残業代を請求できるのでしょうか。
(1)所定労働時間を超えて労働したとき
「所定労働時間」とは、会社側が就業規則や雇用契約(労働契約)において(下記の法律上定められた労働時間(法定労働時間)の範囲内で)定めた労働時間のことをいいます。
たとえば、就業規則や雇用契約(労働契約)において「1日あたりの労働時間は7時間」と定められていた場合の「7時間」が所定労働時間です。
そして、所定労働時間以上法定労働時間以内の残業のことを「法内残業」といいます。
法内残業に対しては、通常の賃金と同じ水準の賃金が支払われます。
たとえば、上記の例では1時間の法内残業が認められるため、1時間分の賃金が支払われることになります。
(2)法定労働時間を超えて労働したとき
他方で、「法定労働時間」とは労働基準法で定められた労働時間の上限です。
すなわち、労働基準法第32条第1項では「(休憩時間を除き)1週間について40時間」、同条第2項では「(休憩時間を除き)1日について8時間」が労働時間の上限、すなわち法定労働時間と定められています。
そして、1週間につき40時間、1日につき8時間を超えた時間分労働したことを「(法定)時間外労働」といいます。
時間外労働については、割増賃金を請求することができます。
割増賃金は、
「1時間当たりの賃金」×「割増率」×「残業時間」
という計算式で計算しますが、時間外労働の割増賃金の「割増率」は原則「1.25」です。
(3)休日に労働したとき
「休日」には2つの意味があります。
1つは、労働基準法上、会社が労働者に対して、毎週少なくとも1回は与えなければならない休日のことで、これを「法定休日」といいます。
もう1つは、法定休日ではないものの、就業規則や雇用契約(労働契約)によって定められた休日のことで、これを「法定外休日」といいます。
どの休日が法定休日で、どの休日が法定外休日かは通常は就業規則等で定められています。
法定休日に労働した場合、「割増率」を「1.35」として残業代を請求することができます。
他方、法定外休日に労働した場合、「割増率=1.35」は適用されません。
法定外休日での労働は、それが時間外労働となっている場合には,「割増率」を「1.25」とする割増賃金を請求することができます。
(4)深夜に労働したとき
「深夜」とは午後10時から翌日午前5時までの時間帯のことをいいます(労働基準法第37条第4項)。
この時間帯に労働することを「深夜労働」といい、深夜労働を行った場合も割増賃金を請求できます(就業規則等により,深夜の割増賃金を含めて所定の賃金が定められていることが明らかな場合を除く)。
深夜労働した場合の割増賃金の「割増率」は「1.25」です。
なお、時間外労働と深夜労働の両方に該当する場合は、「1.5」が「割増率」となります。
休日労働と深夜労働の両方に該当する場合の「割増率」は「1.6」となります。
配信: LEGAL MALL