5、業務委託で残業代を請求するためにはどんな証拠が必要?
残業代を請求するには、残業代算定の基礎となる証拠を会社側に示す必要があります。
また、もし労働審判や裁判で残業代について争うことになった場合にも、労働者の側で証拠により残業代について証明する必要があります。
残業代請求を行う上でポイントとなるのは、前記「4」でもご紹介した計算式の項目である「1時間当たりの賃金」と「残業時間」です。
すなわち、残業代を請求するためには「1時間当たりの賃金」と「残業時間」を裏付ける証拠を集める必要があります。
(1)1時間当たりの賃金を証明するための証拠
1時間当たりの賃金は
①「1か月当たりの賃金」÷②「1か月当たりの平均所定労働時間」
で求めることができます。
なお、「賃金」には基本給だけでなく、各種手当も含めることができます。
ただし、通勤手当や家族手当など、一定のものについては除外しなければなりません(労働基準法第37条第5項、労働基準法施行規則第21条)
「賃金」を裏付けるための証拠としては
就業規則
雇用契約書(労働契約書)
給与明細書
振込先口座の通帳
などがあります。
「1か月当たりの平均所定労働時間」は、以下の計算式により計算します。
所定労働日数(1年の総日数-1年の所定休日数)×1日の所定労働時間÷12
所定労働日数、所定労働時間については、就業規則などに記載があります。
(2)残業時間を裏付けるための証拠
「残業時間」を裏付ける代表的な証拠として、タイムカードがあります。
タイムカードがない場合は
業務日報
パソコンの起動終了時刻のログ情報
タコメーター記録
警備員に出退勤時刻を届け出た警備記録
出入口に設置された防犯ビデオ映像
メールの送受信記録(※宛先、メールの内容等も重要)
出退勤日時の日記・メモ(時間は分単位で記載し、できれば時計を写真に撮るか、第三者に時間の横に印鑑を押してもらうなどして日記、メモの裏付けを取ることが重要です)
などが考えられます。
(3)証拠がない、足りない場合は?
手元に証拠がない、足りないという場合は、会社側に証拠の開示を求めることが考えられます。
会社側に証拠があるのに開示に応じない場合は、裁判所に対して証拠保全の申立てをして、裁判所に証拠を確保してもらうことも検討しなければなりません。
もっとも、証拠保全を申し立てる場合、目的としている証拠を会社が保有している蓋然性があり、かつ、証拠を保全する必要性が認められることを疎明しなければなりません。これらの要件を満たしているとの認定がされることについてのハードルは比較的高いため、可能な限り自力で証拠を収集できるように努めましょう。
会社側から証拠の開示を受けられない場合には、残業時間を立証しうる証拠(たとえば同僚の証言など)を再度探す、会社側と粘り強く交渉することなどによって、引き続き残業代を請求する道を探る必要があります。
6、業務委託の残業代請求に困った場合の相談先
証拠は自ら収集できるとしても、いざ会社に残業代を請求しようとなると、どう切り出していいのか分からない、そもそも何から始めてよいのか分からないという方も多いのではないでしょうか?
そこで、以下では、残業代請求に困った場合の相談先を紹介します。
(1)労働局、労働基準監督署
労働局、労働基準監督署は厚生労働省管轄下の機関です。
労働局は各都道府県に1つ、労働基準監督署は各都道府県の地区ごとに複数設けられています。
労働局等への相談の結果、会社側の違法行為が疑われる場合には、会社側に助言・指導が行われます。
その結果、会社から労働者に対し残業代が支払われることもあります。
もっとも、労働局・労働基準監督署はあくまで中立の機関であるため、相談者に代わって会社に残業代を請求してくれるわけではありません。
(2)労働条件相談ほっとライン
労働条件相談ほっとラインは厚生労働省の委託事業です。匿名で電話相談できるため、誰でも気軽に相談できるのが特徴です。
しかし、会社に対する助言、指導、調査などの働きかけを行ってくれるわけではありません。
(3)総合労働相談コーナー
総合労働相談コーナーは、労働局や労働基準監督署内に設けられた労働相談コーナーです。
相談内容によって、会社側に助言、指導を行ってもらい、それでも解決しない場合は会社と労働者との話し合いによる解決を促す「あっせん制度」に移行できます。
手続きの利用は無料で、会社と労働者との間に弁護士などの専門家が入り、裁判に比べ比較的スピーディーに手続きが進行するのが特徴です。
(4)弁護士
弁護士は労働関係の法律に精通しており、労働者の代理人として残業代の請求のサポートをしてくれます。
また、労働審判や裁判などの法的な手続きをとる必要が生じたとしても、弁護士に依頼をしておけば安心です。
配信: LEGAL MALL