飲酒運転をすると、運転手本人はもちろん、同乗者にも重い処分が科せられます。
この記事では、
飲酒運転の同乗者に科せられる行政処分と刑事処分の内容
飲酒運転の同乗者として処罰される要件
同乗者が飲酒運転について知らなかった場合はどうなるのか
飲酒運転で事故を起こしてしまった場合の処分
飲酒運転の同乗者として逮捕された後の流れ
などについて解説します。
1、飲酒運転の同乗者の責任とは?
飲酒運転で検挙されると、非常に重い処分を科せられます。
【飲酒運転の運転者に対する罰則】
※免許停止・欠格期間はいずれも前歴なしの場合
そして、飲酒運転で処罰を受けるのは運転者だけではありません。
同乗者も、とても厳しい処分を受けることになるのです。
(1)2007年の道路交通法の改正で処罰の対象に
2007年の道路交通法改正により、飲酒運転の運転者本人に対する罰則の引き上げとともに、「飲酒運転の周辺者」に対する罰則が、新たに規定されました。
飲酒運転の周辺者とは、以下に該当する人のことをいいます。
飲酒運転車両への同乗者
飲酒運転をするおそれがある人への車両提供者
飲酒運転をするおそれがある人への酒類提供者
改正道路交通法により、これまでは刑法の「幇助罪」を援用することで処罰されていた飲酒運転の周辺者が、直接的に処罰されるようになりました。
飲酒運転の同乗者が受ける処分には、「刑事処分」と「行政処分」の2つがあります。
(2)刑事処分
飲酒運転の同乗者が受ける刑事処分は、運転者が「酒気帯び運転」と「酒酔い運転」のどちらの規制に違反するかによって異なります。
①酒気帯び運転の場合
飲酒運転の運転者の呼気1リットル中に含まれるアルコール量が「0.15ミリグラム以上」であった場合、酒気帯び運転となります。
そして、運転者が酒気帯び運転の規制に違反した場合、同乗者には以下の刑事処分が科せられます。
「2年以下の懲役、または30万円以下の罰金」
②酒酔い運転の場合
違反時における運転者の様子から「運転に支障をきたす状態である」と判断された場合、酒酔い運転となります。
そして、飲酒運転の運転者が酒酔い運転の規制に違反した場合、同乗者には以下の刑事処分が科せられます。
「3年以下の懲役、または50万円以下の罰金」
運転に支障をきたす状態であるかどうかは、以下のようなポイントをもとに判断されます。
【酒酔い運転の基準】
まっすぐ歩けるか
警察官とのやり取りは正常か
視覚、聴覚は正常に機能しているか
また、酒気帯び運転では呼気1リットル中のアルコール量を判断基準としていますが、酒酔い運転は、あくまで「運転に支障をきたす状態かどうか」という基準をもとに判断されます。
そのため、呼気1リットル中のアルコール濃度が酒気帯び運転の基準値以下(0.15mg未満)であったとしても、酒酔い運転で処罰される可能性があります。
飲酒量は酒酔い運転の成否に影響しませんが、量刑に影響するのが実情です。
一般に、飲酒量が多ければ多いほど、刑が重くなる傾向にあります。
(3)行政処分
飲酒運転の運転者が規制に違反した場合、同乗者には以下のような行政処分が科せられます。
行政処分の内容は、刑事処分と同様、運転者本人が「酒気帯び運転」と「酒酔い運転」のどちらの規制に違反するのかによって決まります。
呼気1リットル中の
アルコール量
付加点数
免許の処分
0.15㎎以上0.25㎎未満
13点
免停90日
0.25㎎以上
25点
免許取消処分
(欠格期間2年)
酒酔い運転
35点
免許取消処分
(欠格期間3年)
※免許停止・欠格期間はいずれも前歴なしの場合
① 酒気帯び運転の場合
飲酒運転の運転者が酒気帯び運転の規制に違反した場合、運転者の呼気1リットル中のアルコール量に応じて、同乗者の免許証に下記の違反点数が加算されます。
0.15mg以上0.25mg未満…付加点数13点
0.25mg以上…25点
運転免許証に対する処分の内容は、付加点数と前歴の有無によって異なります。
「前歴」とは、過去3年以内に免許停止あるいは免許取消の行政処分を受けた回数のことをいいます。
【前歴と累積点数に基づく免停期間】
前歴
累積点数
免停期間
なし
6点~8点
30日
9点~11点
60日
12~14点
90日
1回
4点~5点
60日
6点~7点
90日
8点~9点
120日
2回
2点
90日
3点
120日
4点
150日
3回
2点
120日
3点
150日
4回
2点
150日
3点
180日
違反点数が上記の表を超える場合、免許停止ではなく免許取消の処分を受けることになります。
例えば、運転者が酒気帯び運転の規制に違反し、呼気1リットル中のアルコール量が0.2mgであった場合、前歴のない人であれば同乗者の免許停止期間は90日となります。
これに対して、同乗者に1回の前歴がある場合、運転免許に対する処分は免許停止にとどまらず、免許取消・欠格期間1年、という重い処分が科せられます。
免許取消の場合も、前歴の有無によって欠格期間が異なります。
【前歴・累積点数に基づく欠格期間】
前歴
欠格期間
5年
4年
3年
2年
1年
なし
45点以上
40点~44点
35点~39点
25点~34点
15点~24点
1回
40点以上
35点~39点
30点~34点
20点~29点
10点~19点
2回
35点以上
30点~34点
25点~29点
15点~24点
5点~14点
3回以上
30点以上
25点~29点
20点~24点
10点~19点
4点~9点
②酒酔い運転の場合
飲酒運転の運転者が酒酔い運転の規制に違反した場合、同乗者には違反点数「35点」が加算されます。
前歴の有無に関係なく免許取消処分となり、欠格期間は前歴の回数によって決まります。
2、飲酒運転同乗罪の成立要件
飲酒運転同乗罪は、飲酒運転の車に同乗した人すべてに成立するわけではありません。
飲酒運転の同乗者に飲酒運転同乗罪が成立するのは、下記3つの要件を満たした場合に限られます。
運転者が飲酒していることを知っていた
運転者に対して、自己の運送を要求または依頼した
同乗した車両は、旅客運送業に供されるものではない
(1)運転者が飲酒をしていることを知っていたこと
飲酒運転の同乗者が罰せられるのは、「運転者が飲酒していること」について知っていた場合に限られます。
下記のようなケースでは、運転者の飲酒について知っていた、と判断されやすい傾向にあります。
運転者と一緒に酒を飲んでいた
運転者が、お酒を飲んでいる様子を見ていた
運転者からお酒の臭いがした
運転者がまっすぐ歩けず、ふらふらしていた
(2)自身を運送することを要求または依頼したこと
飲酒運転同乗罪は、「自身を運送することを要求または依頼した」同乗者について成立します。
「要求」とは指示することを、「依頼」とは頼むことを意味します。
そのため、運転者に対して「自宅まで乗せていけ」と指示したり、「自宅まで車で送ってくれないだろうか」頼んだりした場合は、「自身を運送することを要求または依頼した」と判断されてしまいます。
これに対して、運転手に「乗っていきなよ」と言われ、その誘いに応じただけであれば、要求・依頼があったとは認められず、飲酒運転同乗罪は成立しないのが原則です。
ただし、このような場合でも、運転手と同乗者の間では色々なやりとりを交わしているはずであり、明確な要求や依頼がなかったとしても、当時のやり取りを総合的に判断し、要求または依頼があった、と判断される可能性はあります。
実際、平成24年7月5日判決において長野地方裁判所は、「明示の依頼がなかったとしても、従前からの運転者と同乗者との経緯等から、明示の依頼があったと同視できる状況がある場合は『黙示の依頼』があったと認定できる」とし、飲酒運転同乗罪の成立を認めています。
(3)旅客運送事業の用に供されている車両でないこと
飲酒運転同乗罪は、乗り合いバスやタクシーといった、旅客運送事業の用に供されている車両を処罰の対象外としています。
そのため、例えば、乗り込んだタクシーの運転者が飲酒をしていたとしても、これにより同乗者が処罰されることはありません。
(4)成立要件ではないもの
飲酒運転同乗罪の成否は、上記3つの要件を満たしているかどうかによって判断されます。
したがって、下記のような要素は、飲酒運転同乗罪の成否に一切影響しません。
①自動車免許をもっていること
飲酒運転同乗罪の成否に、自動車免許を持っているかどうかは関係ありません。
同乗者が自動車免許を持っていなくても、処罰の対象となります。
②飲酒運転同乗罪の法律を知っていること
法律で飲酒運転の車に同乗してはならない旨が規定されていることを知らなかった場合でも、飲酒運転同乗罪の処罰対象となります。
「自動車免許を持っていないから飲酒運転同乗罪についても知らなかった」といった言い訳も一切通用しません。
③自身も飲酒をしていること
飲酒運転同乗罪は、「運転者が飲酒しているかどうか」によってその成否が判断されます。
つまり、同乗者が飲酒しているかどうかは、飲酒運転同乗罪の成否に一切影響しません。
同乗者がお酒を飲んでいなかった場合でも、飲酒運転の車に同乗すれば、飲酒運転同乗罪により処罰されます。
④乗車位置
飲酒運転同乗罪は、乗車位置に関係なく成立します。
助手席に座っていようと、後部座席に座っていようと、「同乗者」として扱われ、上記3つの要件を満たした場合には、飲酒運転の同乗者として処罰されます。
配信: LEGAL MALL