妻と夫の関係に何が!? 産後クライシス対策【第3のコミュニケーション編】

妻と夫の関係に何が!? 産後クライシス対策【第3のコミュニケーション編】

第5回 注目の「妻のお悩み」をまとめてチェック!
「産後クライシス」という言葉をご存じですか? 良好だった夫婦仲が出産後2~3年で急に悪化してしまう状態を指す言葉です。今回は心理カウンセラー・キャリアコンサルタントである筆者が、経験を生かした「産後クライシス」対策をご紹介します。

<産後クライシス対策> 妻と夫の関係に何が起きているの?

子どもが生まれると、結婚生活の質が変化することは誰もが認めるでしょう。子育ては母親である妻が当然行い、父親である夫は安心して外で働ける…という旧来の考え方は、今の若いカップルにほぼ存在しないようです。今の子育て世代は、男女の役割に対する価値観が変化する狭間の時期にあり、親の役割や夫婦関係について、模索している最中といえるかもしれません。

妊娠中と出産後における妻の生活の変化は、夫の生活の変化に比べて、身体や時間、社会、心理など、どれをとっても大きいといえます。ですが、夫はこのことを理解できているのでしょうか?

夫に対する意識調査(※1) では、「積極的に育児・家事に参加したい」との回答が半数は存在します。しかしながら、実際の育児・家事行動への参加時間をみると、回答の通りに実行できているとはいえない状況でもあるようです。

また妻は、妊娠と同時に母親となる準備が心身ともに自然と整っていきますが、夫が父親となる準備は自然には整いにくく、どの程度まで整うかは夫のタイプや育った環境により随分と異なると考えられます。また、家族である子や妻へ向ける関心の度合いや新しい関係と生活環境に対する適応力、父親としての良いロールモデルが周りにあるかなども関係してくるでしょう。

そうした状況を受けて、近年は良好だった夫婦の関係が出産後2~3年で急に悪化してしまう「産後クライシス」が注目されています。配偶者に対する愛情の変化を追った調査(※2)では、夫を「本当に愛していると実感している」妻は妊娠期に74.3%でしたが、0歳児期には45.5%に激減。子が成長するにつれて、さらに減少傾向となることがわかりました。妻の状況に対する夫の無理解が引き金となり、悪循環を繰り返していると考えられます。
 
夫婦関係に関するアメリカの代表的な研究(※3)でも、出産後に関係が「ひどく悪化」は13%、「少し悪化」は38%、「変化がなかった」は30%、「関係が向上した」は19%と、約半数が「悪化」という結果です。第1子出産後の夫婦関係悪化は、ひと昔前から警鐘が鳴らされてきたにも関わらず、私たちがこのことを学ぶ機会はほぼなかったように思います。

妻と夫の関係に何が!? 産後クライシス対策【第3のコミュニケーション編】

<産後クライシス対策> 第3のコミュニケーション方法とは?話し合える関係性がカギ!

以上を踏まえると、夫が理解してくれる日をただ待ち続けるだけだと、状況は大きく変わらないと想像できます。私たち妻は、先手を打つ必要があるのかもしれません。

精神的にも時間的にも、また思考力にもまだ余裕がある妻のダメージが初期の段階から、夫婦でなるべく早く「家事」「育児」「仕事」という“荷物”をどのように分担して(持って)、目的地まで運ぶのかを話し合える関係性、この関係性を作ることが状況の打開につながります。

話し合える関係性を作るポイントは、良い関係(=問題のない関係)を維持したり増やしたりして、良い循環に切り替えられるかということ。そして、価値観を伝えあったり話し合ったりできる「問題のない関係」を作るには、「第3のコミュニケーション方法」が有効です。

第1のコミュニケーション方法:自分が第一、自分を通して相手を我慢させてしまうやりとり
第2のコミュニケーション方法:自分が第二、相手を通して自分は我慢してしまうやりとり
第3のコミュニケーション方法:自分は我慢しない、相手にも我慢させない、相手を批判しない、相手にも批判させないやりとり

第3のコミュニケーション方法には、「アサーション(適切な自己主張)」「親業(主体性をはぐくむ親の効果的な対話法」「NVC(暴力のないコミュニケーション)」など具体的な対話方法を示してくれるもの(書籍など)がいくつもありますので、参考にされると良いかもしれません。

今の夫婦関係の質によっては、妻の状況をうまく理解してもらい、健全な解決方法の話し合いに至るまで、いくつかのステップや方法をゆっくりと試す必要がある場合もあります。

妻のモヤモヤやイライラは、育児をしながら、よりよい夫婦関係を築くために、コミュニケーションの方法をみつめなおす時期が到来した大事なサインなのかもしれません。次回は、【夫婦の関係の質。今の状態はどのタイプ?】【夫婦関係をワンチームとして考え、「育児」「家事」「仕事」の3大事業にとりくめるか!】について取り上げます。

<出典>
※1 東京学芸大学紀要6部門「出産・子育て体験が親の成長と夫婦関係に与える影響(4)-第一子出生後の夫婦関係の変化と子育て-」(2003)
※2 ベネッセ教育総合研究所 第1回妊娠出産子育て基本調査・フォローアップ調査(妊娠期~2歳児期)速報版 2011年
※3  Belsky, J., Kelly, J. (1994) The TransitiontoParenthood. New York, Delacorte Press.(ジェイ・ベルスキー, ジョン・ケリー(1995)子供を持つと夫婦に何が起こるか,草思社)

妻と夫の関係に何が!? 産後クライシス対策【第3のコミュニケーション編】

■この記事は編集部&ライターの経験や知識に基づいた情報です。個人によりその効果は異なります。ご自身の責任においてご利用・ご判断ください。

この記事を執筆・監修した人

石橋 麻衣子(筆名:やまもとこも)
<公認心理師・臨床心理士・キャリアコンサルタント> 10代の子の母。一般企業で20年勤務後キャリアチェンジし、現在は公的機関での教育相談、スクールカウンセラー、精神科クリニックで心理検査やカウンセリングに従事しています。自身の心身の状態が子どもや家族の成長にとても大事だと強く実感しています。自分も他人も大事にするコミュニケーションでよりよい関係や笑顔が生まれますように。
<公認心理師・臨床心理士・キャリアコンサルタント> 10代の子の母。一般企業で20年勤務後キャリアチェンジし、現在は公的機関での教育相談、スクールカウンセラー、精神科クリニックで心理検査やカウンセリングに従事しています。自身の心身の状態が子どもや家族の成長にとても大事だと強く実感しています。自分も他人も大事にするコミュニケーションでよりよい関係や笑顔が生まれますように。