「茶色い砂糖は体によい」って聞くけど、なぜ? 白い砂糖との違いは? 大正7年創業「宮崎製糖」に話を聞いてみた

私たちが普段使う砂糖というと、白い砂糖が多いですが、茶色い砂糖とは何が違うのでしょうか? 老舗の砂糖屋に話を聞いてみました。

加工黒糖に分類される「玉糖」(宮崎製糖製)

【画像で工場見学!】“老舗”砂糖屋の砂糖製造工程を見る

 筆者が母にずっと言われてきた、「茶色い砂糖は体にいいのよ」という言葉。それは本当なのか? 本当なら、なぜ体によいのか? なんとなく謎のまま過ごしてきましたが、ついに、その謎を明らかにできる機会がやってきました。

白いお砂糖と茶色いお砂糖 いったい何が違うのか?

 なんと、体によい砂糖づくりにおいて、長い歴史と技術を持つ「宮崎製糖」の工場に潜入取材が許されました。場所は東京・江東区。筆者の漠然としたイメージですが、砂糖は南国で作られている気がしていたので、のっけから驚きました。今回の取材にあたって出迎えてくれたのは、スラリとした若い男性。宮崎製糖の専務・宮崎邦紘(みやざき・くにひろ)さんです。

 宮崎さんによると、宮崎製糖のルーツはまだ砂糖が貴重品だった江戸時代にまでさかのぼるといいます。「オランダから輸入していたお砂糖の麻袋を生かして、砂糖汁を作って売っていたのが始まりだと聞いています」(宮崎さん)

 宮崎製糖の創業は大正7(1918)年で、創業時からずっと作り続けている「玉糖(たまとう)」は、確かに濃い茶色をしています。玉糖を1キロの袋に詰めて家庭でも使いやすくなっている「玉砂糖(たまざとう)」も販売していますが、これらは大手パンメーカーや菓子メーカー、そして誰もが知る土産に使われている黒蜜や、銀座の高級すし店などでも使われているといいます。

 味にこだわるシェフや職人に「これが欠かせない」と言わしめ、人気商品やロングセラー商品の味を陰ながら支える宮崎製糖の茶色い砂糖。いったいなぜ、そこまで愛されているのでしょうか。

 そもそも砂糖には大きく分けると「含蜜糖(がんみつとう)」と「分蜜糖(ぶんみつとう)」の2種類があります。その名の通り、「含蜜糖」には蜜が含まれていて、蜜には黒い色が付いています。「分蜜糖」はその蜜だけを遠心分離機で抜き出して精製したもので、上白糖やグラニュー糖のように、砂糖と聞いて私たちがイメージする真っ白の砂糖です。分蜜糖はお料理に入れても色がつかないため、ケーキなどの洋菓子づくりにも重宝されています。

上白糖の参考値と比べると、茶色いお砂糖は栄養素が圧倒的に多い!

 ただ、色が付いた茶色い砂糖の含蜜糖に含まれる蜜には、カルシウムやマグネシウム、リン、鉄、カリウムといったミネラル成分がたっぷり含まれています。例えば、マグネシウムは300種類以上の酵素を活性化する働きがあり、筋肉の収縮や体温・血圧の調整などに役立っています。

 カルシウムやリンは骨を形成する働きが有名ですが、体内のさまざまな代謝を助ける機能を持っています。こうしたミネラル成分がたっぷり含まれていることが、「茶色いお砂糖が体によい」理由だといえます。分蜜糖に分類される白い砂糖は、「甘み成分」がほとんどで、茶色い砂糖に含まれるミネラル成分がほとんど残っていないのです。

 この茶色い砂糖づくりにおいて、宮崎製糖は長い歴史の中で培ったノウハウと高い技術を持つ日本でも数少ない製糖メーカー。茶色いお砂糖である含蜜糖の中には大きく分けて「黒糖」「赤糖」「加工黒糖」の3つがあり、宮崎製糖では「赤糖」と「加工黒糖」を作っています。

 とくに定評があるのが、同じ茶色い砂糖でも「濃い色」を出すことができる宮崎製糖独自の技術。というのも、色を濃くするためには蜜をたくさん入れればよいのですが、そうすると砂糖が粘土質になってしまい、サラサラに仕上げるのが難しいということです。たくさんの蜜を入れながらも、サラサラに仕上げる技術が宮崎製糖の秘技ということで、工場見学をする前から興味津々! さっそく、工場を見学させてもらいました。

「本日は当社のメイン商品である玉糖(赤糖)の製造工程をご紹介します」(宮崎さん)

到着した原糖の保管倉庫(筆者のまるも亜希子)

 サトウキビは産地の工場で「原料糖」に加工されたあと工場に運ばれてきます。まずはその原料糖に糖蜜を混ぜていく工程です。メルターという機械に原料糖、糖蜜、水を入れて1時間くらい煮詰めていきます。原料を加熱するため、工場内はとても暑く、夏場はかなり過酷な現場であることを実感しました。職人たちはこまめな休憩を取りながら作業しているとのことですが、私たちが通過すると皆さん、礼儀正しくあいさつをしてくれました。

白い砂糖も茶色いお砂糖も 元は同じ「原料糖」からできている!

 煮詰めてできた原液の蜜は、メッシュのストレーナーを通ることで異物を除去しながら沈殿槽へ移されます。沈殿槽の下から15センチくらいは使わず、上にある原液の蜜だけを本格的な火入れのための二重釜へ。ここでも異物を除去しつつポンプを通って一気に工場の4階まで運ばれ、加熱・濃縮・殺菌が行われます。

「4階はもっと暑いですよ」と、宮崎さんに言われながら階段を上っていくと、確かにムワッとした熱気に包まれます。でもすでに、砂糖のあま〜くいい香りがただよっていて、なんだか幸せな気持ちになる筆者。

 次の工程にあたる鉄製の二重釜に到着しました。勇気を出して中をのぞかせてもらうと、釜の中はグツグツとまるで火山のマグマのようになっていました。かなりの高温で加熱、煮沸しているそうです。

 その後、煮沸を終えたドロドロ状の蜜は巨大なミキサーに流し込まれ、空気をおり混ぜながら一気に粉状になるのです。ミキサーは複数台並んでおり、私たち素人が見ている限りは巨大な攪拌(かくはん)機のようでした。ミキサーの中ではドロドロ状の蜜がみるみるうちに粉状に変わり、砂のようにさらりとしたものに変わっていくから驚きです。その後、スクリューコンベアーで階下へと運ばれるのですが、メッシュ状のトンネルのようなところを通る際に大きな黒い玉ははじかれ、もう一度スクリューに戻る仕組み。こうしてサラサラの粉状になった赤糖が、袋詰めへと進みます。

 計量して包装されたあと、X線検査機と金属検出機を通過し、晴れて製品として完成。品質管理には職人さんの知見も欠かせず、ロットごとに少しずつ取って色味をチェックして、袋詰めの時も玉が多いと手の感覚でわかるということです。こうして多くの工程を見てくると、コスパやタイパが叫ばれる時代にあっても、丁寧にじっくりと「いい砂糖」を食卓へ届けようとする思いが伝わりました。

「当社の玉糖は、糖度が86%ほどになっていて、優しくじんわりと感じられる甘味が特徴です。それが料理に使用した際の味のよさ、深いコクといったものにつながると、ご好評をいただいています」と宮崎さんは言います。

 上白糖(白いお砂糖)の糖度は97%程度と高く、口に入れた直後に甘味がピークに達してすぐに下がるのが特徴ですが、今回試食させてもらった玉糖は、口に入れるとゆるやかに甘味が感じられるため、じわじわと奥深い甘さが広がり、ミネラル成分が体に染み入るような感覚になりました。

「茶色い砂糖には栄養素の『蜜』が含まれているから健康によいんです」と語る宮崎邦紘さん

「ぜひ、ご自宅でお料理やお菓子づくりに使ってみてください。玉糖は和洋中なんでも相性がよいんです。とくにお勧めは、すき焼き、豚の角煮、ステーキソースの隠し味。素材のうまみを引き立ててくれて、お料理のレベルがグッとアップしますよ」と宮崎さんは言います。

 そこで、私にはトライしてみたいものが。実は母が作った煮物が大好物でレシピを教わったものの、何度作ってみても母の味とは違うのです。だしやしょうゆは同じものを使っているので、これはもしかして、砂糖が違うからではないかとうすうす感じていました。

 取材を終えて土産としていただいた「玉砂糖」を使って煮物を作ってみると、鍋の中ですでに野菜の照りがよく、いつもより少し色が濃いような気がしました。出来上がった煮物を食べてみると……うん! いつもよりうまみが出てコクがあり、口の中に余韻が広がります。これは母の味にかなり近づいた気がします!

 その後もマリネや肉巻き、ブリの照り焼きなどいろいろと使ってみましたが、どれも格段においしくできて、うれしくなりました。砂糖って、私たちが思っている以上に大事なものなのだなと、とても心に響いた工場見学でした。

 皆さんもぜひ、砂糖を選ぶときは「色の濃さ」に注目してみてください。そして、味よし、甘さよし、体にもよし、と三拍子そろった茶色い砂糖を試して、いつもの料理を、よりおいしくしてみてはいかがでしょうか。

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