夫婦別姓の場合、子供の苗字は?戸籍や親権など子供に及ぼす影響も解説

夫婦別姓の場合、子供の苗字は?戸籍や親権など子供に及ぼす影響も解説

近年では、婚姻届けを提出せずに事実婚を選択する夫婦や、離婚後も同じ家に住みながら子育てをする夫婦などが増加しており、家族の形態が多様化しています。

今回は、

夫婦別姓の場合、子供の苗字はどうなるか
夫婦別姓が子供に与える影響について
「夫婦別姓は子供に悪影響を及ぼす」主張に対する根拠の有無

など、夫婦別姓を選択した場合の子供への影響について詳しく説明していきます。

弁護士相談に不安がある方!こちらをご覧ください。

1、日本の夫婦別姓の現状

夫婦別姓による子供への影響について知る前に、まずは「日本の夫婦別姓の現状」について確認していきましょう。

(1)日本では夫婦同姓が法律上原則

日本では、夫婦同姓が法律上の原則となっています(民法750条、戸籍法74条、同法14条1項)。

夫婦どちらの姓であっても、夫婦同姓であれば戸籍上夫婦になることができるので、必ず夫の姓に統一しなければならないわけではありません。

日本でも妻の姓に夫が合わせる形で夫婦になるカップルもいますが、夫の姓に妻が合わせることが多いというのが現状です。

「男女平等」がうたわれるようになった現代。

それでも、「女性が男性の家に入る」「妻が夫の姓に合わせるのが普通」という家制度・男性優位の風習がまだまだ日本には残っています。

日本には、以上のような法制度ですので、夫婦別姓を採用するためには、戸籍上の夫婦にはならず「事実婚」という形を取るしかありません。

もしくは、戸籍上夫婦になる法律婚の形をとった上で、夫婦のどちらかが戸籍上の姓ではなく通称名として旧姓を使用することになるでしょう。

(2)夫婦同姓を合憲と判断した最新の最高裁判決

夫婦別姓を希望する人が増えてくる社会の変化に伴い、夫婦同姓の合憲性が争われ、令和3年6月23日に最高裁での判断が下されました。

本項では、

最高裁の判断
反対意見
夫婦別姓のまま戸籍上夫婦になることはできない
最高裁判決を受けた今後の動き

について、解説します。

①最高裁の判断

令和3年6月23日、夫婦同姓を「合憲」と判断した最新の最高裁判決が出されました。

申立人側は、以下の法律が、憲法24条及び憲法14条(法の下の平等)に違反するなどと主張しました。 

【民法750条】

「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」

【戸籍法74条】

「婚姻をしようとする者は、左の事項を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。一 夫婦が称する氏」

家庭裁判所・高等裁判所は、いずれも申立人側の主張を退けています。

上記結果を受けて、最高裁判所では裁判官15名による大法廷で審理がなされ、以下のように判断しました。

6年前の判決後の社会の変化や国民の意識の変化といった事情を踏まえても、憲法に違反しないという判断を変更すべきとは認められない

夫婦は同じ姓にする必要があるという民法の規定は、憲法に違反せず「合憲」であるとの判断が示されたということになります。

平成27年12月16日に出された最高裁判決以来、最高裁では夫婦同姓に関し2度目の判断をしたことになります。

具体的には、以下のような判断によって、いずれも現行の民法の規定に憲法違反はないと判断されました。

「民法750条の規定が憲法24条に違反するものでないことは、当裁判所の判例とするところであり……上記規定を受けて夫婦が称する氏を婚姻届の必要的記載事項と定めた戸籍法74条1号の規定もまた憲法24条に違反するものでないことは、平成27年大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。」

「平成27年大法廷判決以降にみられる女性の有業率の上昇、管理職に占める女性の割合の増加その他の社会の変化や、いわゆる選択的夫婦別氏制の導入に賛成する者の割合の増加その他の国民の意識の変化といった原決定が認定する諸事情等を踏まえても、平成27年大法廷判決の判断を変更すべきものとは認められない。憲法24条違反をいう論旨は、採用することができない。」

今回の最高裁判所の判断では、平成27年と同様に、申立人による夫婦別姓での婚姻届の受理は認められませんでした。

②反対意見

今回の最高裁判決では、以下のとおり、4人の裁判官による反対意見が書かれています。

【三浦守裁判官】

「婚姻をするためには、二人のうちの一人が氏を変更するほかに選択の余地がない。これは、法の定める婚姻の要件が、個人の自由な意思決定について、意思に反しても氏の変更をして婚姻をするのか、意思に反しても婚姻をしないこととするのかという選択を迫るものである。婚姻の際に氏の変更を望まない当事者にとって、その氏の維持に係る人格的利益を放棄しなければ婚姻をすることができないことは、法制度の内容に意に沿わないところがあるか否かの問題ではなく、重要な法的利益を失うか否かの問題である。これは、婚姻をするかどうかについての自由な意思決定を制約するといわざるを得ない。」

【宮崎裕子裁判官・宇賀克也裁判官】

「生来の氏名に関する人格的利益の喪失を回避し、夫婦が同等の人格的利益を享受することを希望する者に対して夫婦同氏を婚姻成立の要件として当事者の婚姻をするについての意思決定を抑圧し、もって婚姻をするについての自由かつ平等な意思決定を侵害することについて、公共の福祉の観点から合理性があるということはできないと考える。」

【草野耕一裁判官】

「選択的夫婦別氏制を導入することによって向上する国民の福利は、同制度を導入することによって減少する国民の福利よりもはるかに大きいことが明白であり、かつ、減少するいかなる福利も人権又はこれに準ずる利益とはいえない。そうである以上、選択的夫婦別氏制を導入しないことは、余りにも個人の尊厳をないがしろにする所為であり、もはや国会の立法裁量の範囲を超えるほどに合理性を欠いているといわざるを得ず、本件各規定は、憲法24条に違反していると断ずるほかはない。」

夫婦別姓を希望する人が増えている現代では、反対意見の方が国民の意識やライフスタイルの変化を加味しているとも考えられます。

平成27年12月16日の最高裁判決では、5名の裁判官による反対意見が書かれました。

一方、今回の令和3年6月23日の最高裁判決では、反対意見を書いた裁判官は4名に減少した点も注目されています。

③夫婦別姓のまま戸籍上夫婦になることはできない

今回の最高裁判決によれば、夫婦別姓のまま戸籍上の夫婦になることはできません。

戸籍上の夫婦になるには夫婦のどちらかの姓に統一する必要があるのです。

④最高裁判決を受けた今後の動き

申立人側は、今回の最高裁判決を受け、夫婦別姓での婚姻届が受理されなかったことに残念な気持ちを表しています。

しかし、ここで諦めないという今後も戦う姿勢を示しています。

最高裁判決の中で、以下の指摘もなされました。 

「どのような制度を採るのが妥当かという問題と、憲法違反かどうかを裁判で審査する問題とは次元が異なる。制度の在り方は国会で議論され、判断されるべきだ」

夫婦別姓が認められるかどうかは、最高裁の判断のみに委ねるのではなく、国会含め日本全体で検討していかなければならない課題といえるでしょう。

(3)「選択的夫婦別姓制度」の可能性

日本では、「夫婦は同じ姓になるもの」という価値観が植え付けられているという方が多いのではないでしょうか。

しかし、「夫婦同姓」という概念は、世界的に見ると実は珍しい概念なのです。

アメリカやイギリスをはじめ夫婦同姓か夫婦別姓かを選べる国があるほか、フランスや中国などのように原則夫婦別姓としている国もあります。

夫婦の姓を合体させる結合性というルールを採用している国もあります。

日本は、他の先進国に比べても男女平等の概念の浸透が遅いこともあり、外国をふまえて見ても、夫婦別姓の自由がない珍しい国といえるでしょう。

2、夫婦別姓の場合に子供の苗字はどうなる?

前章では、日本における夫婦別姓の現状について解説しました。

では、法律婚をせずに夫婦別姓を採用した場合、事実婚の夫婦のもとに生まれた子供の苗字はどうなるのでしょうか?

(1)事実婚では子供の苗字は母の苗字となる

「事実婚」という形を取る夫婦も増えてきました。

事実婚の形をとると、夫婦が同一の戸籍に入ることはありません。

事実婚の夫婦から生まれた子供の苗字は、基本的には母の苗字となります。

同じ家で家族として暮らしていても、子供から見たら自分の苗字と父親の苗字が異なるという状態になります。

(2)選択的夫婦別姓が認められた場合の子供の苗字は?

「選択的夫婦別姓制度」が認められた場合、夫婦の苗字が異なるため、子供の苗字についても、夫婦どちらかの苗字にする必要があります。

子供が生まれたときに夫婦で話し合い、どちらの姓を名乗らせるかを決めることになるでしょう。

夫婦別姓を採用している事実婚の夫婦の中には、子供の苗字を以下のように決めていることが多いと考えられます。

「男の子は父親の姓、女の子は母親の姓」としている
子供が複数いても子供は全員どちらかの親の姓にそろえている

(3)子供は後から苗字を変更できる?

夫婦別姓の親のもとに生まれた子供は、生まれたときに夫婦どちらかの姓を名乗るということはすでに説明したとおりです。

しかし、「その姓を後から変更することができるの?」と気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

夫婦別姓の両親を持つ未成年の子供の苗字を、両親のいずれか一方の苗字に変更する場合、次の事項が必要となります。

特別の事情の存在
家庭裁判所の許可

一方、子供が成人に達している場合は、特別の事情の存在がなくても、家庭裁判所の許可を得れば苗字を変更することができるとされています。

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