金銭・性についての問題も取り上げたかった
そして、3つ目の要素として掌編小説さんが意識したのは、ブルーライト文芸ではあまり描かれない「性」や「お金」といった生々しい部分もきちんと描くということ。
「性とお金の話が出ると、急に現実に引き戻されるので、フィクションを描く以上、『あえて触れない』という選択ももちろん正しいと思います。
ただ、人間が生きていく上ではお金は必要だし、自分たちが生まれたのも誰かの性行為があったからですよね。それを描かないのは、個人的にはどこか嘘っぽい気がしてしまったんです。
そこで、ヒロインの過去や親との葛藤の中に、意識的に性やお金の要素を盛り込んでみました」
意外だったのは、親世代からの共感の声が多かったこと
これまでにない、新しいブルーライト文芸を描いてみたい。そんな想いのもと執筆を進めていった掌編小説さんですが、いわゆる“王道”から外れてしまうことに、ためらいはなかったのでしょうか。
「私は長く文字に関わる仕事をしてきましたが、プロの小説家ではないので、『自分が好きなもの、読みたいものを書いたらいいんじゃないかな』とあまり気負わず書いていました。
でも、出来上がった作品を小説投稿サイト『ノベルアップ+』で公開すると、びっくりするほど多くの方から反響をもらえて……。
『ノベルアップ+』や作品を紹介した自分のXのコメント欄には、主人公やヒロインと近い世代の方ばかりでなく、その親世代の方々が、ご自身の若い頃と重ねてくださったり、お子さんとの距離感についてコメントをくださったりしました。これはうれしい驚きでした」
執筆を通じて改めてブルーライト文芸の魅力に向き合えた
さらに、自分自身が実際にブルーライト文芸を執筆してみたことで、改めてその魅力について深く考える機会も増えたそうです。
「ブルーライト文芸って、案外裾野が広いと思うんです。読者層の中心は主人公やヒロインと同じか近い世代なのでしょうけど、自分の作品に限らず、もっと上の世代の方々にも読まれていると感じています。
大人になれば、子どもの頃より複雑で、広く、ままならない世界を生きていかなければなりません。仕事、家庭、子育て……と、背負うものも増えてくる。個人の努力や正論、きれいごとだけでは済まされない局面も当然あります。
でも、そんな日常を続けるなかでも、『こんなふうに生きられたらいいな』と思っている世界があると思うんです。先ほどお話したように、みんな子どもを胸に宿したままで大人になる、と私は感じています」
恋焦がれ、がむしゃらに生きた経験は生きる原動力になる
初めて誰かを好きになり、焦れる思いでその人のことばかり考えていたあの季節。その相手のため、不器用に、がむしゃらに、頑張ることに価値を見出し、成長したいともがいていたあの時代――。
大人の誰もがそういう時期を通り過ぎてきた。それは未熟だけれども尊くて、大人だからと冷笑し、切り捨てるにはあまりに惜しいし哀しい。
「大人として、もう二度とそんなふうには振る舞えないけど、その経験は彼方にあるかつての自分への憧憬として、大人にとっても今を生き抜く原動力になると思うんです。
もちろん、今まさに青春時代を送っている若い方にとっても同じです。だからこそ、ブルーライト文芸が描くボーイ・ミーツ・ガール的なストーリーが、年代を問わず多くの人の心に刺さるのだと感じています」
TikTokがきっかけで大ヒットにつながるケースもあるブルーライト文芸。若者だけでなく、大人世代にも響く内容がブームの後押しをしているのかもしれない。
【掌編小説(しょうへんしょうせつ)】
神奈川県生まれ。2020年から小説投稿サイトやX(旧Twitter)で作品を発表。著書にX発の140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)。ウェブトゥーン(縦読み漫画)やボイスドラマ(声劇)にも原案を提供している。『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)で長編小説デビューを果たした。
<構成/女子SPA!編集部>
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