交通事故後に必要な交通費は、どの範囲で認められるのでしょうか。
交通事故でむち打ちや骨折などケガをしてしまうと、歩くことすらままならなくなることがあります。
そこで今回は、
通院にかかった交通費を支払ってもらえる範囲と請求方法
通院以外の交通費を相手方に支払ってもらうことはできるか?
被害者本人以外にかかった交通費を支払ってもらうことはできるか?
について解説します。
1、交通事故後の交通費をカバーする保険の仕組み
(1)交通費は損害賠償項目の1つ
交通事故では、加害者は自分の加害行為と因果関係にある被害者の損害に対し、損害賠償の義務があります。
「交通費」も損害賠償項目の1つとして認められていて、交通事故を原因として必要となった交通費については、加害者が負担します。
実際は、加害者が加入する保険会社が賠償することになります。
(2)「因果関係」がクセもの
この損害賠償は、上記の通り、加害行為と「因果関係」がある損害の賠償に限ります。
この因果関係とは原因と結果の関係ということですが、けっこうクセもの。
因果関係が認められるのは、難しい言葉では「社会通念上相当」である場合に限られますが、具体的にはどこからどこまでが相当なのかは微妙なところなのです。
(3)交通費についての因果関係
交通事故を原因として発生した「交通費」という金銭的な損害。
これが損害賠償の1つとして認められるためには、その交通費の支出が社会通念上相当だといえるようなものでなければならない、ということはお分かりいただけるでしょうか。
どこへ行くためなのか(外出の必要性)、どんな交通機関を使うのかなどの点が、因果関係を認めてもらうには重要なファクターであることが見えてくるかと思います。
2、通院の交通費はどこまで支払ってもらえる?
交通事故でケガをした場合、「通院」をすることの必要性は明らかであることが多いことから、通院のための交通費の支出と交通事故には強い因果関係がありますので、通院の交通費は基本的には認められます。
注意すべきはその「(交通)手段」です。
なお、以下の全ての交通手段について共通しますが、以下の記述は、「そもそも通院の必要性がある」ということを前提としていますので、注意が必要です。
例えば、むちうち症で半年以上通院したような場合、保険会社としても「これ以上の治療には効果がないと考えられるため、今後の治療費は負担しない」という態度を取ってくることがありますが、そのときには、そもそも通院の必要性がないとしているのですから、当然ながら通院のための交通費も支払ってきません。
以下、それぞれの交通手段について順番にみていきましょう。
(1)公共交通機関を利用した場合
電車やバスを利用して通院したときには、その運賃全額を「通院交通費」として相手方に請求できます。
相手方に請求できる運賃は、「自宅の最寄り駅(バス停)」から「病院の最寄り駅(バス停)」の往復分です(要するに実費分です)。
公共交通機関を利用したときには、運賃は明確なので、領収書を提出する必要もありません。
(2)自家用車を利用した場合
自家用車で通院した場合にかかる費用は、ガソリン代・駐車場代・高速道路料金などです。
①ガソリン代
ガソリン代については、実費ではなく、自賠責保険が定める基準額(1kmあたり15円)を請求することができます。
たとえば、自宅から病院までが10kmであれば、1回の通院あたり「10km✕15円の往復分(×2)である300円」を支払ってもらえます。
このように、ガソリン代の計算は一律なので、仮に「ハイオクガソリン」を使っていたり、逆に低燃費の車に乗っている場合であっても金額は変わりません(どうしても1kmあたり15円以上を請求したい場合には、弁護士に相談しましょう。裁判を起こせば認められるかもしれません)。
②駐車場代
病院によっては、有料駐車場を使用しなければいけない場合があります。
通院のために駐車場代を支払ったときも、その実費分を請求可能です。
請求には領収書の提出が必要なため、必ず保管しておきましょう。
③高速道路料金
症状の程度や、通院の事情から高速道路を利用することに「合理的な理由」がある場合には、高速道路料金も相手方に請求できます。
とはいえ、通常は、高速道路を利用してまで通院することは滅多にありません。
高速道路を利用して通院したいというときには、事前に相手方の保険会社に事情を説明し、了解を得ておきましょう。
高速道路を利用したときにも、「領収書の提出」が必要です。
最近では多くの人がETCカードを利用していますが、ETCカードを利用した場合でも出口で有人レーンにいけば領収書を発行してもらえます。
この場合、有人レーンで出てもETC料金が適用されます。
(3)タクシー代
高速料金の場合と同様に、タクシーの利用は常に認められるというものではありません。
しかし、交通事故の被害に遭った人の中には、「ケガで移動が辛いのでタクシーで通院したい」と考える方も多いため、最も保険会社と揉めやすいのはこのタクシー代であるといえます。
具体的には「ケガの内容」、「受傷した部位」、「症状の程度」、「通院頻度」、「被害者の年齢」といった種々の事情に応じて、タクシー利用の相当性が総合的に判断されるので、注意が必要です。
タクシーによる通院を認めてもらいやすいケースをいくつか紹介します。
足を骨折し、松葉杖や車イスなしでは移動できない場合
障がい者や高齢者が被害者となった場合
公共交通機関でのアクセスが難しい病院に通院しなければならない場合
上記の事例に共通していえるのは、「どうしてもタクシーを使わざるを得ない状況」のときです。
言い換えると、「便利だから」「早いから」という理由だけでは、タクシーの利用が認められることは難しいといえます。
もし、タクシーを利用して通院したいというときは、事前に医師に相談し「タクシーでの通院が相当」と診断書に記載してもらえれば、保険会社との交渉もスムーズに進むでしょう。
なお、タクシー代を保険会社に請求するときには、「領収書の提出」が必要です。
(4)徒歩で通院した場合
「交通費」は実際にかかった場合にのみ請求できるものです。
徒歩で通院した場合には通院に一切の費用がかかっていないので、交通費は請求できません。
(5)交通費の請求方法
相手方の保険会社に対する交通費の請求は、「通院交通費明細書」を保険会社に送付することで行います。
「通院交通費明細書」については保険会社から送られてくるので、自分で用意する必要はありません。
通勤交通費明細書の記載方法については、下記保険会社ウェブページの説明などを参考にしてください。
・通院交通費明細書の書き方(アクサダイレクト)
・通院交通費明細書の書き方 ・ひな形(三井損保ダイレクト)
・通院交通費明細書の書き方(ソニー損保)
配信: LEGAL MALL