交通事故で股関節を骨折~後遺症が残ったら慰謝料はどうなる?弁護士が解説

交通事故で股関節を骨折~後遺症が残ったら慰謝料はどうなる?弁護士が解説

交通事故に遭い、股関節(大腿骨)を骨折すると、後遺症が残ってしまうことがあります。

しかし、何らかの症状があっても対応を誤ると後遺障害の等級認定がおりないケースがあります。

そこで、今回は

股関節骨折と後遺症に関する基礎知識
股関節骨折による後遺症と認定される等級
股関節骨折で後遺障害が残ったときに請求できる費目・慰謝料相場

などについて解説します。

1、交通事故による股関節骨折とその後遺症に関する基礎知識

まずは、股関節(大腿骨)の骨折やその後遺症について最低限おさえておくべき基礎知識を確認します。

(1)股関節(大腿骨)骨折のパターン

股関節は脚の付け根の関節で、骨盤と大腿 骨(太ももの骨)をつないでいます。体重を支える役割をもつ重要な関節です。

股関節を構成する骨のうち、大腿骨に起きる骨折としては、主に以下のふたつが考えられます。

大腿骨頸部骨折:大腿骨のうち、より骨盤に近い部分の骨折
大腿骨転子部骨折:大腿骨頸部よりも少し下の部分の骨折

これらの骨折は転倒などにより生じ、特に高齢者に多いといえます。交通事故でも、歩行中に自動車にはねられた場合などに発生します。

(2)股関節骨折の症状や治療・手術について

股関節を骨折すると、

痛み・はれ
歩行困難
股関節を動かせない

といった症状が生じます。

特に大腿骨頸部骨折の場合には、血流が悪化し骨がくっつきづらいため危険です。手術が必要なケースがほとんどで、人工関節をつける場合もあります。

(3)後遺症について必ずおさえておくべき知識

股関節骨折は治りづらく、後遺症が残ってしまう場合もあるため十分な賠償を受ける必要があります。

ただし、後遺症が残ったからといって必ずしも賠償金が増額されるとは限りません。

正しく補償を受けるための第一歩として、ここでは

「後遺症」
「後遺障害」

といった用語の意味をご紹介します。

①「後遺症」と「後遺障害」は意味が異なる!

必ず知っておくべきこととして、一般的に用いられる「後遺症」と交通事故における「後遺障害」とは、厳密にいうと、意味が異なるという点について解説します。

「後遺症」とは、治療を続けたにもかかわらず完治せず、将来的に回復が見込めない身体的又は精神的な症状が残っていることをいいます。

これに対して、「後遺障害」は、「後遺症」のうち自賠責保険で定められた症状が残存した場合に認定されるものです。

たとえば、骨折によって股関節を動かしづらくなったとしたら「後遺症が残った」と考えるでしょう。

しかし、その程度が軽微で、自賠責保険で定められた範囲を超えていなければ「後遺障害」とは認められません(詳しくは後述します)。

ここでは「後遺症」の一部しか「後遺障害」としては認定されないことを頭に入れておいてください。

②後遺障害に認定されるとどうなる?

後遺障害があると認定されると次の2つのメリットがあります。

後遺症慰謝料が発生する

後遺症慰謝料とは、後遺症が残ってしまったことにより生じた精神的な苦痛に対する慰謝料です。金額は後遺障害等級によって異なります。

後遺障害等級は、残った障害の程度によって1級から14級までに分かれます。1級が最も重い障害です。

逸失利益を受け取ることができる

逸失利益とは、後遺症が残った影響で受け取ることができなくなった将来の収入のことです。

後遺症が残ると労働能力が低下し、将来受け取るはずであった収入が得られなくなります。

後遺障害等級が認定された場合、この逸失利益も損害として賠償を請求できます。

後遺症慰謝料と逸失利益は金額が大きくなりやすいため、適切に補償を受けるためには後遺障害等級の認定が重要です。

2、股関節骨折による後遺症の症状と認定される後遺障害等級

股関節骨折が引き起こす後遺症は様々です。想定される症状と認定される後遺障害等級を解説します。

(1)機能障害

股関節骨折により、股関節の動かすことができる範囲(可動域)が狭くなってしまうことがあり、これを機能障害と呼びます。

機能障害の後遺障害等級は以下のとおりです。どの程度可動域が狭まったかによって等級が変わります。

等級

症状

8級

関節が全く動かない

ほとんど動かない(可動域がケガしていない側の10%以下)

10級

可動域がケガしていない側の1/2以下

12級

可動域がケガしていない側の3/4以下

また、股関節骨折では

人工骨頭
人工関節

を挿入するケースがあります。その場合に認定される等級は以下のとおりです。

等級

症状

8級

人工骨頭・人工関節を入れても、可動域がケガしていない側の1/2以下

10級

人工骨頭・人工関節を入れ、可動域がケガしていない側の1/2を超える

人工骨頭・人工関節を挿入した場合には、可動域が十分にあっても10級が認定されます。

(2)短縮障害

骨折した側の脚の長さが短くなってしまうことがあり、これを短縮障害と呼びます。

短縮障害の後遺障害等級は、短縮した長さに応じて以下のとおりです。

等級

症状

8級

5cm以上短縮した

10級

3cm以上短縮した

13級

1cm以上短縮した

(3)神経症状

痛みやしびれが残っている場合には神経症状として後遺障害等級が認定される可能性があります。

等級は12級または14級です。

12級となるのは、画像診断などから症状を医学的に証明できる場合です。

画像からは明らかではないものの、自覚症状が医学的に説明可能な場合には14級となります。

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