桂場の動作を完全に封じ込めた瞬間
長官室に入った航一は、尊属殺の重罰規定が違憲かどうかを再審議すべきだと主張した。桂場は「時期尚早だ」とだけ言う。寅子が意見書を出したときにも桂場は同様に言った。桂場のこの同語反復に対して航一はどう反応するのか。
大人しく長官室から退室しようと、ドアを開ける。でも航一は出ていかずに、ドアの前で静止する。気になった桂場が少しだけ視線をやる。航一はドアを閉める。桂場もはっきり視線を定める。翻した航一が寅子のように「わかりません」と反復する。もう一度桂場の席に進み出るのだが、ただ寅子と違うのは退室しようとしたのに戻ったこと。
もうこの際、「なるほど」と納得する気はさらさらない。航一は書類の束を机に叩きつけ、初めて声を荒げ、桂場に強く反発する。その瞬間、緊張と疲労が沸点に達する。彼は鼻血をだして倒れる。途中で抱き止めたのは桂場だ。
長官室を一度退室しようとして翻り、退室しなかった人。それは、航一ただひとりである。誰かが出ていってひとりになる桂場によって長官室が微細な動作の独壇場になることを阻止しようとでもいうのか。
寅子がかけつける。床に正座する桂場。鼻に紙をつめた航一が、桂場の膝に、頭を付けて仰向けになっている。膝枕をする桂場は、航一のためにできるだけ身体を縮こまらせ、全身を固定している。珍事ともいえる、この膝枕事件が、桂場の動作を完全に封じ込めた瞬間だ。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
配信: 女子SPA!
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