第1回と最終回をきれいな一本線でつなぐ
するとやっぱり、桂場と付着物の組み合わせがもう一度、印象深く描かれることになる。第46回からずっとあと、もうとっくに忘れた頃。まさかの最終週第129回で、付着物くんが再登場(!)ときたもんだ。
竹もと改め「笹竹」になった店で、寅子の横浜家庭裁判所所長就任祝いをしているところへ、長官職を退任して早くも隠居暮らしな和装で桂場がやってくる。寅子たちを見るなり、うわっ、お前かという顔をする。
寅子が甘いものを食べようとした桂場をいつも寸止め状態にしてきたように、桂場も店で彼女と出くわすと決まってこの顔をする。で、気になる付着物。新たな季節、外に舞う桜の花びらを右眉毛の上にくっつけてきた。
画面に目を向けさせた存在
電話等一郎#虎に翼 #桂場等一郎 pic.twitter.com/MHj7aZ5Mwt
— 松山ケンイチ (@K_Matsuyama2023) September 15, 2024
優秀な判事として信念を貫き通して、長官にまでなった桂場がきちんと付着物をともなって登場することにより、第1回と最終回が、きれいな付着物サンドイッチとして一本線でつながる。
第23週第111回の原爆裁判以降、加速度的に戦後の社会問題を解説する授業と化した本作にあって、時間経過とともにどんどん無駄な動きを省いていく松山ケンイチが、桂場等一郎そのものを見つめるということを促した。
本作についての各メディアの記事も、原爆裁判だけでなく、同性愛や夫婦別姓、尊属殺など、現代史の諸問題を作品背景として語るものばかりだった。けれど、そうした実際の画面上には写っていない要素やテーマ性ではなく、常に画面上に写っていることに目を向けさせたのが、桂場等一郎の存在だったと思う。
それだけに桂場は貴重な存在であり、本作全体を映像作品として純粋に守り抜くような役割を担った。寅子を筆頭にあらゆる登場人物を演じる俳優たちが、社会的テーマ性に気を配り過ぎるあまりに演技をやや硬直化させていた。その一方で、桂場役の松山だけがただひとり、一貫して画面を注視させ続けてくれた。
配信: 女子SPA!