妄想が加速していく
「ヒナさんと交流のある、ほかの常連客が私に教えてくれたことから発覚しました。彼女はSNSで店の名前を出しながら、自身の主観を発信していました。ハッシュタグは、#ツインレイです」
亜紀さんから送られてきたヒナさんの投稿スクショは、こんな感じのことが書かれていた。ここに登場する「彼」とは当然、亜紀さんの夫である。
〈今日のお通しは、私の大好きなバルサミコ味。これは、彼が私に送ってくれるサイン〉
〈彼はまだ覚醒していない。でも、私とのつながりを感じはじめているはず。同じ音楽が好き、映画が好き。猫が好き。シンパシー!〉
〈彼は既婚者だけど、これはツインレイの試練として定番なんだよね〉
〈彼の視線を感じた瞬間、時計を見たら11時1分……エンジェルナンバーだ〉
投稿の内容を説明しながら、亜紀さんはため息をつく。
「一体、なんの妄想でしょう。夫婦で彼女のアカウントを見ながら、意味がわからない……と、顔を見合わせました」
相手は既婚者なのに
忍ぶ恋も人生の味わいだろうが、相手が特定される形でネットで発信されるのは普通に困る。
亜紀さんより少し年上のヒナさんは、物静かな印象の女性だった。服装はジーンズにニットと、ごくシンプル。愛用のブレスレットは、控えめなサイズのパワーストーン。お酒が入ってもニコニコと、連れだって来ていた友人の話を聞いているような感じだった。
だから、意外すぎる情熱的な一面に驚いた。一般にSNS上でキャラが豹変する人はめずらしくないが、ヒナさんは次第に行動も豹変していった。
「SNSで語っていたようなツインレイの話を、店のカウンターでも積極的にするようになりました。夫に対し、『あなたはまだ覚醒していないだけ、私にはわかる!』『みんなはツインレイに出会っていないから、この感覚が理解できないんだ!』『彼の家族? ツインレイに試練はつきもの!』と。
妻である私のいる場でも挑戦的な態度をとってくるので、すっかり怖くなってしまいました」
恐怖を覚えたのは亜紀さんだけでなく、常連客もだった。オーナーの家族に失礼だろうととがめられ、その場は黙っても、またすぐにツインレイ語りがはじまる。微妙な空気がたびたび流れ、足が遠のく常連客も少なくなかった。
「お客様との距離を適切に保つのは接客業の基本ですから、常に気をつけていたポイントで、私の目からは夫に隙はなかったと思います。でもこうも情熱的に暴走されると、『期待させるようなことしたんじゃないのー?』みたいな、ゲスい勘ぐりも発生して……。
ネットへの書き込みもありましたし、そのうち子どもたちの耳にも入るんじゃないかと、夫婦で心労が積もっていきました」
何か対策はないかとInstagramやFacebookでヒナさんのアカウントを観察していると、ヒナさんはスピリチュアルセッションでツインレイを知った経緯がわかった。
配信: 女子SPA!