障害を持つ子供がいることから、父親が離婚を提案するケースは時折見られます。母親の場合、経済的な理由や子供を共に育てたいという願望から、離婚を避けたいと思うことでしょう。
この記事では、障害児の現状と、離婚を回避する方法について解説していきます。
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1、障害児を持つ家庭の離婚率が高い理由
わが国の障害児がいる家庭の離婚率は、健常児世帯の約6倍という統計があります。
障害児の子育てには計り知れない責任が伴うため、心身ともに大きな負担となります。
とくに若い夫婦では社会経験や人生経験が十分でないことから、離婚率も高くなると想像されます。
(1)理由1|家庭生活の負担が大きい
障害児を持つ母親の多くが仕事をしたくてもできない、働くことができてもフルタイムでは働けないという現状があります。
毎日の育児や病院への送迎、集団生活が難しいと保育所や幼稚園の入園を断られるなど、子供が幼いときはほぼつきっきりです。
実際に、障害児を持つ母親が子供の障害を理由に幼稚園・保育所の入園を断られてしまい、それまで働いていたパートタイマーを辞めざるを得なくなったという話は少なくありません。
さらに、育児それ自体が母親にとっては精神的、肉体的な大変さを伴うものです。
ミキハウス子育て総研の2014年度の調査によると、「子育てにおける孤独感を感じたことがある」と答えた母親は半数以上にのぼり、「どんな時に孤独感を感じるか」という問いには、63.7%が「子どもと自分だけで家にいる時」と答えています。
(出典:ハッピー・ノート ドットコム|孤独感を感じることありますか? )
障害児を持つ母親がフルタイムでも働くことができるようになるためには、家族や親族の協力や職場の理解が必要です。
(2)理由2|周囲の理解を得ることが難しい
子供の障害によっては他の健常児と一緒に遊ばせることができず、いじめの対象となるケースも少なくないため、親は苦労することが多いようです。
また、子供が突然大声を上げたり、暴れだしたりして周囲から特異な目で見られることもしばしばあります。
障害について知識のない人が見ると、「子育てができていない」「親のしつけが不十分」などと批判の的になることが多く、親は辛い思いをすることになります。
しっかりと反論ができて、相手も受け入れてくれれば良いのですが、実際に言葉だけで子供の障害を理解してもらうことは難しいと言わざるを得ません。
さらに、最大の理解者であるべき父親からの理解を得られないケースも多いようです。
(3)理由3|夫婦間における子育ての考え方の違い
平成25年の内閣府の「家族と地域における子育てに関する意識調査」によると、「家庭での育児や家事の役割」に関する質問では、次のような調査結果が報告されています。
家庭での育児や家事を、夫と妻のどちらが行うべきかを聞いたところ(図表 2-3-1)、「基本的に妻の役割であり、夫はそれを手伝う程度」という回答者が39.6%で最も多い。
「妻の役割である」(15.7%)という回答者をあわせると、『妻が主体』は 55.3%。
一方、「妻も夫も同様に行う」という回答者は 32.3%で、「どちらか、できる方がすればよい」(11.4%)という回答者をあわせると、『同等』は 43.7%。『夫が主体』(「夫の役割である」0.4%+「基本的に夫の役割であり、妻はそれを手伝う程度」0.3%)であると考える回答者は 1%に満たない。
出典:内閣府|平成25年度「家族と地域における子育てに関する意識調査」報告書
子育て世代の夫婦であれば、子供が健常児か障害児かにかかわらず一度は意見がぶつかったことがあるでしょう。
わが国では根強く「(家事や育児は)妻が主体」と意識が残っており、夫は妻の家事・育児をサポートはするが主体になることはきわめて少ないという現状があります。
実際に、妻は夫に対して「育児の大変さを理解するだけでなく、子供にも働きかけてほしい」と望んでいるのに、夫は妻から子育ての話は聞いても、具体的な子供へのサポートが欠けているというケースはかなり多いようです。
夫婦間に意見のズレが生じたまま離婚へ至るケースは少なくありません。
2、障害児を理由とした離婚は認められにくい
障害児がいる夫婦の離婚は、夫から切り出すことがほとんどです。
子育てに関する調査結果を見てもわかるように、普段から子供と接する時間が短い夫は障害児の子育ての辛さを母親の責任にしがちで、どうにもならないストレスから逃げるようにして離婚を選択するパターンが多いからです。
離婚には「協議離婚」「調停離婚」「裁判離婚」の3種類があり、夫婦間の話し合いで離婚に合意が得られない場合は裁判所を介した調停、裁判へ発展します。
(1)障害児を理由とした離婚は認められにくい
民法第770条1項では、次の場合に限って裁判上の離婚の訴えを提起することができるとしています。
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
引用元:民法第770条1項
障害児がいることは法的に離婚できる理由ではないため、夫が離婚の訴えを提起しても裁判所はきわめて消極的な姿勢を取っています。
ただし、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に関しては、別居期間が5年以上に及ぶ場合に離婚理由として認められる可能性があります。
(2)離婚の慰謝料・養育費の扱い
夫婦の子どもであるにもかかわらず、障害児であるという理由で子育てからの離脱を希望する夫は、あまりにも無責任です。
そのような対応をされたからには、妻は大きな精神的ストレスも受けたはずですので、慰謝料の請求も検討しましょう。
ただ、認められないケースも考えられ、認められたとしても希望する金額は認められない可能性もあります。
ケースバイケースですので、ぜひ弁護士に相談してください。
養育費の請求はできます。
子供の将来に必要不可欠な養育費は「払わない」という主張は無効です。
養育費の支払額は子供の年齢、夫や妻の年収、住宅ローンなど経済状況に応じて決めることが望まれます。
(3)離婚後にひとりで障害児を育てていく場合
自分が障害を抱える子供の親権者となった場合は、離婚する前よりも多大な負担がかかることへの覚悟が必要です。
仕事に行っている間の子供の面倒は誰が見るのか、子供が病気等した場合に即時対応できるか、など祖父母や職場の理解が不可欠となります。
養育費に関しても、離婚時に取り決めた支払額では足りなくなることもよくあります。
離婚後は「子供の進学のために養育費を上げて欲しい」などの増額要求に対し、合意が得られないだけでなく、離婚した元夫に対して話を伝えることが難しいケースがほとんどです。
児童扶養手当や生活保護などの補助もありますが、厳しい生活を強いられるのは間違いありません。
このような近い将来の状況も考慮して、障害児がいることを理由とした離婚については、弁護士に相談されることをおすすめします。
配信: LEGAL MALL